第152話 12D、日田、定発!

「日田って、古い街なんでしょ?」と、菜由。


「なんだっけ・・・小京都!」と、友里絵。



「お、知ってるじゃーん。さすが。ガイドさん」と、由香。




「へっへへ」と、友里絵。




「九州の仕事なんてあるの?」と、菜由。




「ないよー。野田さんが出さないもん。『若い娘は危ない』って。」



「野田さん優しいね」と、菜由。



「だから、所長にならないんじゃない?」と、由香。



「そうなんだ。」と、愛紗。



「経験も知識も、今の所長よりずーっと適任。だから、運転課を守っていて。

所長とか、経営から私らを守ってくれているんだね」と、由香。



「男だねー。」と、友里絵。



「岩市がさ、数字ばかり気にして、路線の昼休みに送迎のバイトを

半ば強制で入れるでしょ?」と、友里絵。



(これは当時も今も禁止である。が、実際にはある)。



「そういう時に、所長に『事故が起きたらどうするんだ』と。言うのが

有馬さんや野田さん。」と、由香。



「実際に死亡事故が起きて、免職になった。」と、菜由。



「あれは、事故のせいじゃなくて・・。」と、友里絵。



「警察の捜査が入ったから」と、菜由。





「事故を起こした運転手に懲罰を与えて、自殺に追い込んだんでしょ?」と、愛紗。




「だけどー。それだけだったら警察も来ないんだけどね。

誰かが、警察を動かした。」と、友里絵。



「噂では、タマちゃんだって」と、由香。



「野田さんもそう言ってたね。そんなことが出来るのは

あいつしかいないって。

『岩市はバカだから、タマを怒らせたんだな』って。」と、友里絵。



「そのあと、岩市はどうなったわけ?」と、菜由。



「それは知らないけど・・・逮捕されてるわけだし。刑務所あたりじゃない?」と、由香。



「そりゃ、三人も殺してればねぇ」と、友里絵。




「でもさ、その岩市が何言ってもニコニコしてたのがタマちゃんだからさ・・・。」と由香。



「そりゃ、器が違うわね。あのふたりじゃ比べようもないけど。岩市はそれが解ってるから

尚更タマちゃんをいじめたがったんだろね。」と、菜由。



「そうでもないみたいよ」と、愛紗。



「そうなの?」と、菜由。




「うん。岩市は、タマちゃんが可愛かったんだって。事故があったりしたとき

庇ってあげてたらしい。本社から。」と、由香。




「じゃ、なんで・・あーわかった。男も好きなんだ。岩市。」と、友里絵。




「ありそうだなー。それ」と、由香。




「男女って言うか。可愛いがってたから憎いって言うか・・・。」と、愛紗。




「なんとなく解るな、その感じ。」と、菜由。




短い停車時間が過ぎ「ゆふいんの森」は、日田を出発する。



日田から久留米方向へ向かうと、地形が少し窪んでいるので

列車は築堤の上を走り、道路はガードのように立体交差。


「右手に見えるのが、豆田町ね。ふるーい町並みふうの、観光地。

自転車で回ると、楽しいね。ほんとの古い建物もあるよ」と、愛紗。


小山に見える辺りに、古城址がある。





「左手は、筑後川ね。」と、菜由。「鵜飼があるんだっけ?」



「そうだっけ?」と、愛紗。





大きな川を渡ると、今度は踏み切りになる。





単線で、電車ではないから

至ってローカル線然としていて。


長閑な郊外の風景に、不釣合いな程立派なバイパス道路が見える。



その辺りは、もう日田の町並みから遠く離れた場所である。





「久留米まで、あとどのくらい?」と、友里絵。


「45分くらい」と、愛紗。



「あー、じゃ、おべんと食べとかないと」と、友里絵。



「持っていけばいいよ」と、菜由。



「そっか」と、友里絵は笑顔になる。




「つぎは新幹線?」と、由香。



愛紗は「そう。予約はとってあるから心配ないよ」



「さすがー。駅員さん」と、菜由。





愛紗も、嬉しそう。




「九州新幹線は、普通車指定席でも4列だから、グリーン車みたいに

広いよ。シートは普通だけど」と、愛紗。






「グリーンって乗ったことないよ」と、菜由。




「タマちゃんはたまに乗ってるらしいね。呼ばれた時とか」と、友里絵。



「そんなことも話してるの?」と、菜由。


友里絵は「うん。なんか、仕事の依頼主がワケアリの時とかなんだって。

お寿司が出たりするとか。」



「そのあと、夜はキャバレーとか」と、由香。



「あんたの想像は古い」と、友里絵。




「なんとか刑事みたいね」と、菜由。



「そういうとこに行かないのが、タマちゃん」と、友里絵。




「お酒飲まないものね」と、愛紗。



「それは知ってるか」と、由香。





「何が楽しみなんだろね」と、菜由。




愛紗は、なんとなく解るような気がした。



家族の都合で、今は老母を見守って生きている。

それは、男として。


ひょっとしたら凛々しい気持なのではないか、と。



何か、守るものがある人は、強い。




愛紗自身は、その「守られる人」になるのが嫌なのだが。




彼の母のように、年老いていれば素直にそうなれるのだろうと思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る