第100話 友達

「じゃ、寝るかな。ゆかぁ、一緒に寝よ?」と、友里恵。


「ひとりが淋しいか?」と、由香。


「そぉ。いつもひとりで指アソビ・・・・ぁあん♪」と、友里恵。


「何言ってんのバカ。」と、由香は、友里恵をひっぱたくふり。



「♪いたーぁい、なにすんのぉ♪」友里恵は楽しそうだ。



愛紗もくすくす。



「愛紗も一緒に寝よ?」と、友里恵。



「ちょっと狭いんじゃない?ここ」と、由香。



「そっか。ま、いっか。明日からずっと一緒ね。あ・な・た♪」と


友里恵は楽しそう。




「ま、初めてだもんなぁ寝台特急なんて」と、由香。


「そうなの?」と、愛紗。



「そりゃそうだよ。大岡山から九州なんて、まず行かないし。飛行機でいくし。」

と。友里恵。




それはそうね、と、愛紗。


宮崎でも、飛行機の方が一般的だ。



国鉄に親戚が居たから、愛紗は時々乗っていた。それだけで


なんとなく、懐かしさを覚えるから乗っているというだけ。




東京駅で、ブルー・トレインを見ると

それだけでなんとなく、甘酸っぱい感傷に耽ってしまったり。

そんな存在だった。




もしかすると、バス会社に入りたいと思ったのも

その記憶があったから、なのかもしれなかった。



「じゃ、ホントに寝よ!ね。」と、由香。


友里恵がすりすりしてくるので「オマエ、臭いぞ。シーブリーズやるから

体拭いて来いよ。濡れタオルかなんかで。」と、由香。



「A寝台は洗面台があるんだけどね。」と、愛紗。



「詳しいねほんと」と、友里恵。



「国鉄に叔父が居たし、今も駅に伯母さんが居るの」と、愛紗。



「へー。いいなぁ。バスじゃなくて、そっちへ就職すれば良かったのに。新卒の時。」



と、友里恵。


愛紗は「そう。そうしたかったんだけど。家で反対されて。進学かって迷ってた

間に、学校からの国鉄への就職枠が埋まっちゃって。」



「あーあるわ、それ。あたしもね。バスガイドで無かったら、派遣かバイトくらいしか

仕事無かったもん。」と、由香。



「頭悪いしね」と、友里恵。


「オマエに言われたくないね。なんだ、地図読めないくせに。この鳥頭!

三歩しか記憶が持たないんだろ」と、由香。


「なーにをー・・・と、迷惑だから止め様ね、由香くん。車内ではお静かに。」と

友里恵。


「この制服着てるとそう言いたくなるね、ホント。」と、由香。



「まー、ツアー客って煩いしね。ホント。野田さんじゃないけど

『うるせー!てめーら!降ろすぞ!こらぁ』」と、友里恵。


「オマエが煩いんだよ、バカ、ほんとにねるぞ」と、由香。


愛紗はくすくす。


「愛紗が笑ってくれると、あたしらも来た甲斐があるわ」と、由香。



「なんで?」と、愛紗。



「うん、だって、へこんでたから。」と、友里恵。



「そっか・・・。ありがと。」と、愛紗は涙ぐむ。


「あーあ、泣かしちゃだめじゃん。ほれ、よしよし。」と、由香は

愛紗の肩を抱いて。なでなで。



「なんで泣いてんだ?」と、友里恵。


「辛かったんだよ、鈍いなぁオマエ。今まで辛抱してたんだから。ひとりでさ

故郷から出てきて。心細かったんだよね。それでやっと帰れる・・・んだけど。

ドライバーになるのは隠してる・・・と。居場所がない。」


と、由香。


愛紗は「知ってたの?」



由香は「なんとなく。そうだと思った。」


友達っていいな・・・と、愛紗は思い


また、落涙した。

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