第96話 壁

「ご飯まだでしょ?食堂車で食べてきたら?」と、愛紗。


「愛紗は?」と、由香が聞く。


「私は、東京駅で食べてきたから、日本食堂で。」と、愛紗。


「ああ、知ってるー。ツアーのお客さんが行きたがってたっけ。

昔からあるレストラン」と、友里恵。


「そういう事は詳しいな」と、由香。



友里恵は「ガイドだもーん。」と得意顔。



「もうちょっと料金とか覚えないとなぁ」と、由香。



「鉄道は知らないよ」よ、友里恵。



「お客さんに聞かれる事、たまにあるね」と、由香。



「それはそうと、制服のまま?」と、愛紗。



由香は、友里恵を見て「放課後のJKみたいだね」と言うと


友里恵は「あんたもそうよ。スカーフ外して、上のボタン外して。


これでミニスカだったら完全にそう!」と、笑う。


制服は、カナリア色のベストに

タータンのスカート、薄い水色のポロシャツだから


確かに、そう見えない事もない。


「はとバスみたいな制服だったらJKには見えないけど、これ

狙ってるんじゃない?そういう趣味の人」と、友里恵。


「それはそうと、めしめし。腹減った」と、由香。



「愛紗も来る?」と、友里恵。



「うん。」と、愛紗。



6号車が食堂車。


もう9時近いので、そろそろお酒・・の時間みたいだけれども


出張のおじさん達は、大体7号車のロビーで

持ち込んだお酒を飲んでるので


こちらは、至って静かだ。



「なんにする?」と、由香。


「こういうとこ、高いしなぁ」と、友里恵。


「ま、軽いので。スパゲティとかそんなんで。」と、由香。



「サンドイッチとかおでんとかは、ロビーカーでも売ってるよ。

お弁当も残ってればあるね。ワゴンサービスの基地だし」


と、愛紗。



友里恵は「お菓子もあるかなー。アイスとか」と、にこにこ。



由香は「ご飯食べてからね」



お母さんみたい、と、みんな、笑って。



ウエイトレスさん、由香たちと同じくらいの年代の子だろうか。


きちんとした服装で。「いらっしゃいませ。お好みの席へどうぞ」




「どこにする?」と、友里恵。


「端っこがいいかな。」と、由香。



それで、端っこからひとつ手前の、海側のテーブルに、3人。



食堂車はまばらに人が居るけれど

いろいろ、美味しそうに食べている。



和食が多いけど、洋食、中華、イタリアン、等など。



ちゃんと、車内で調理してるので

レストランと変わらない。



ただ、動くから

テーブルクロスがビニールで

あまり、大盛になっていない。



「あたし、パスタ好き!」と、友里恵は

カルボナーラ。



上手く作るのは難しいから、結構通好みなメニュー。



「あたしは堅焼きそばがいいかな」


由香。


中華風、広東麺。


焼きそば、なのだけど

蒸し麺を焼いて、野菜あんかけ。

とろーり。


「わたしは、何か、飲み物を・・・。」と

レモネードを頼んだ愛紗。



「愛紗、レモン好きね」と、由香。



お嬢さんだもん、と、友里恵。



「お嬢さんが好きそう?」と、愛紗。



由香は「なーんかね。上品な感じ、と言うか。

珠ちゃんと似てて。どっか遠いのね。」



愛紗は「そうかなぁ。」と、自分では分からないけど。



「そういうのを壊したいって思ってたのもあるかも。ドライバー志望したの。」と言うと



「そうそう!野田さんも細川さんも『ドライバーなんて無理にやらんでもいい』って。

事故やトラブルの時、ひとりでなんでも出来ないと、かえって面倒だから、だって。」


と、友里恵。


愛紗は「そう、それで私も、『田舎へ帰れば』って言われて。

なんか、私ってダメなんだって言われてたと思ってたけど、そうでもないな、って

思った。

バスでなくても良かったのかもしれないもの。鉄道とか、警察官とか、自衛官。

ただ、壊したかっただけだったら。」



それは、山岡や深町に会って、思ったことだった。




パスタと、焼きそばが来て。


ふたり「いただきまーす!」と、元気。



ちょっと離れたテーブルに居た老夫婦が、にこにこと見ている。


「友里恵は小食だよね、もっと食べれば背が伸びるよ」と、由香。


「それなんだけどさぁ、横に伸びる一方で」と、友里恵。



愛紗も微笑む。


「運動すると伸びるみたいね。」と。



「そうそう!カンフーとか。タマちゃんやってるって言ってたもん!」と、

友里恵は、パスタを丸めて、掬いながら。




「会ってるの?」と、由香。


友里恵はかぶりを振り、携帯をポケットから出して、指差した。



「ああ、電話か」と、由香。



「番号知ってるの?」と、愛紗。



友里恵は「だって、バイト仲間だったし。遊びにいったりしたから。高校生ん時。」



愛紗は「そっか」




由香は「気になる?」


愛紗は「ううん、なんか、そういうふうに自然にお友達って、羨ましいなぁって。

そう思って。」



由香は「そりゃー、ほら、愛紗は可愛いお嬢さんだから、タマちゃんも

気を遣うじゃん。あたしらみたいな不良だとさ。ははは。」と。


友里恵も「自分で言うな」と、笑う。

パスタを頬張りながら。



ははは、と、二人笑うけど

愛紗は、なんとなく・・・その壁が、自分の壊したいものかな、

なんて思ったりもした。


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