第84話 雨

「ありがとうございます」と、愛紗は

山岡に礼を告げた。



まだ、列車は停まったままで


車窓の外は、雨。



かなりの降りだ。




僕は何もしていない、と山岡は微笑んで




「バスの仕事は、今の世の中が忘れている

社会があるね」




愛紗には、ちょっと実感できないのは

まだ若いから、もあるのだろう。




山岡は、続ける。





「国鉄も、郵便もそうだけど、元々は

お金で食べ物を買う、今の社会だから

お金を動かさないとならないから、雇用を作った。だから、国鉄は赤字でいいんだね。

郵便もそう。お金儲けが下手な、不器用な人も

この島に住んでいるから、食べ物を分けてあげる。そういう国なんだね、日本は」





愛紗は、そこまで考えた事もなかった。





「それなので、儲かった人からは税金を取って儲からない人の為に役に立つ事をする。国鉄も郵便も、だから赤字でも良かったんだね、公共サービスなんだから。バスもそうだけど。

みんなの為のものなんだ」



山岡は、昔を懐かしむように語る。





「路線バスは、危険な仕事だ。あんなに大きなものを動かしているのだから。お互い様、と言う気持ちが無いと、動かすのすら難しい。



社会に大切な事だね。



お金を払えばなんでも出来る。そうじゃない。



払っても手に入らないんだ、誰かが仕事してくれないとね。バスは、それが実感出来る。

自分が動かさないと、進まない。



お客さんだって、お金払うだけじゃ動かないって目に見える。物理的そうだね。」

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