赤い糸‐結婚式

百合side

1.紫色の糸

 目の前にはウェディングドレスを着て幸せそうに微笑む孫──神板愛美かみいたあいみが愛美の父親──神板巧かみいたたくの腕に手を添え、愛美の花婿──斗神夏伊とがみかいがいる所へ向かって歩いている。


(幸せになるんだよ……、愛美)


 どんなときも二人で支えあい、共に過ごしていくと誓い合う二人。それは、誰が見ても幸せそのもの。誰もがその二人を祝福する。



 式は滞りなく進み、外に出る。そこで、ブーケトスが行われた。愛美が投げたブーケは、結婚式の参列者の若い女の子がゲットしていた。その様子を見ながら、嬉しそうに見つめている愛美。愛美に近づいていき、百合はこう声をかけた。


「おめでとう、愛美」

「ありがとう、おばあちゃん」


 愛美の嬉しそうな声。その声に、本当に幸せなんだと安堵する。


「おばあちゃん、あのね……」


 その言葉を聞き、百合は数年前、愛美が言った言葉を思い出した。


“赤い糸って、あるのかな……?”


 あのときの愛美は不安そうな表情をしていた。だけど、今は違う。あの時を同じ言葉。だけど、その言葉からは嬉しさを感じた。


「あの時……、ありがとう。あの時の言葉があったから……、私──」


 そこまで言って、愛美は涙ぐんでしまった。だけど、愛美が言いたいことはわかる。だから、百合はこう言った。


「赤い糸は、ちゃんと在っただろう……、愛美」


 その言葉に愛美が頷く。そして、百合はこう付け加えた。


「赤い糸は誰にでも在るんだよ……、必ず」


 その言葉に頷いたのは愛美ではなく、夏伊だった。それを微笑ましく感じ、百合は微笑んだ。そこへ、愛美の友達である矢上知乃やがみとものと男の子がやって来た。知乃とは色々とお話をする仲だが、男の子の名前は知らないが、「ミヤ」、「佳宮君」聞こえる。きっと、男の子の名前は佳宮というのだろう。そして、夏伊と仲良く話をしているところを見ると、夏伊の友達なのだろう。

 愛美に伝えたい事は伝えられた。だから、百合はその場から少し離れ、愛美と夏伊達が仲良く喋っているのを見つめる。


(きっと、愛美と夏伊君なら幸せになれる。だって、こんなにも多くの人達との繋がりがあるのだから)


 百合には様々な人との繋がりを示す、紫色の糸が人差し指に在るのが見えていた。

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