夏伊side
1.赤い糸
久しぶりに自室の机の引き出しの中に入っているある箱を開けた。その中には、あのときのまま赤い糸が入っている。
(今年も、このまま何も起きずにこのままでいてくれ)
箱の中に入っている赤い糸を見つめながらそう思う、
(はぁ……、今年もか……)
これは毎年の事だ。バレンタインデーが近付いてくると、夏伊の赤い糸は自然と延び始める。それに気が付いたのは幼い頃だった。そして、それが見えているのは夏伊と父方の親達だけ。それを父親──
「どうしても嫌なら、外しておけ。でも、バレンタインデー付近になったら、赤い糸が在るかちゃんと確認はしておけよ」
それ以来、夏伊はその言葉の通り、バレンタインデー付近になるとこうして確認をする。だが、こんなにも延びたのを見たことがない。いつもは、延びても、誰かの小指に絡まる程度だ。だから、自分から小指に在る赤い糸を外してしまえば、その赤い糸は短くなる。だから、こんなにも延びたのを見たのは初めてだった。
(どういう事だ?)
不思議に思うが、この時期──バレンタインデーが過ぎれば、この赤い糸を左の小指から外しても平気だ。今だけ我慢すればいい。だから、あまり気にしないで、赤い糸が入っていた箱を閉じ、机の中にしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます