第8話 「正」の字が二画の写真

 美咲、修学旅行、ウォークマン持って行く?


 うん!そのつもりだけど、どうしての?


 なんか、ウォークマン、ダメだって、そればかり聴いてて、景色見ない生徒が沢山居るからって!


 寝るのと一緒じゃん、それ、理解できないよね!


 男子はね、可愛いバスガイドに首っ丈になるけどね、女子はつまらないよね、修学旅行は?


 確かに、京都→立山→名古屋でしょ、なんか、モチベ上がらないわ。


 でも、行くでしょ?


 うん!行かない人なんて居るの?


 茂樹君、行かないって!さっき、3組の女子がガッカリしてたよ。


 えっ、茂樹君、そんなにモテるの?


 そうみたい。今、3組女子のブームみたい。


 確かに怖そうだけど、カッコいいもんね!


 うん!カッコいい!私も茂樹君見たらドキドキしちゃうんだ!


 (…この前まで、腐ったみかんなんて言っていたのに、調子の良い子…)


 そつか、茂樹君、人気あるんだ。


 あの1匹狼みたいなところ、女子にも来るよね~


 うん、茂樹君、中学の時も、あんな感じで、いつも1人だったなぁ~。


 まぁ、告白する勇気はないわ。見てるだけで満足!


 そうだねぇー

(…知らぬが仏様だ…)


~~~~~~~~~~~~~~~

【放課後】


 やぁ、美咲、来たね。誰にも着けられてないよな。


 もちろん、なんと、私の愛読書は「カムイ列伝」ですから、忍びの心得はマスターしてるのだ!


 可愛い…、手を貸してごらん。


 うん!


 おぉ、美咲、登の上手くなったな!


 うん!


 茂樹君、修学旅行、行かないの?


 うん、俺ね、集団行動苦手だから、行かない。


 そうなんだ。


 俺ね、人混みも嫌いなんだ、小さい時も、家族旅行も俺は着いていかなった。


 そっか~


 俺ね、ノリが悪いんだ。楽しめないんだ。


 じゃあ、茂樹君、何が楽しいの?


 美咲と2人でこうして話すことさ!


 話すだけ。


 違うよ、こっちにおいで。


 うん!


 こうしてね、美咲の頭、撫でるのが好きさ。


 (…本当に安心する…)


~~~~~~~~~~~~~~~

【修学旅行の後】


 美咲、どの写真買った?私、いっぱい写ってたから、全部買っちゃった。


(…写ってた?、自分からカメラの前ばかり行ってたくせに…)


 私は一枚しか写ってなかったよぉ~


 いいじゃんか、美咲、1人のアップの写真でしょ!いい記念になるよ。


 (…本当、この子、人を無意識に傷つける天才だよなぁ…、あの身分証みたいなのが記念になるかい!…)


 あっ、美咲、「正」の字が2画ついてるよ!


 えっ、私は「0」は流石に悲しいから買ったけど、1枚にしたよ。


 誰だろう?美咲、美人だから、隠れ美咲ファンがいるのかな。


(…隠れキリシタンみたいに言うのやめろや…)


 デビルマンじゃないかな?


 吉川君?、吉川君、今、4組の美幸に気があるみたいだよ。

「中野美幸は、俺のこと好きなはずだ!」って言ってるみたいだよ。


 (…流石、デビルマン、ブレてないわ…)


 中野さんって、「正」の字が10個、50枚!凄いね~


 うん、彼女、我々と違い大人の女だからね、お子ちゃま男子に大人気!女子ウケ、悪いけどね。


(…必ず毒のあるオチを言う女…)


 まぁ、美咲、2枚ならそこそこじゃないの、アップだから、美咲ファンもなかなか勇気出して買えないよ!


 (…ファンならアップは買うだろう、普通…) 


……………………………………………


えー、今から写真部から修学旅行の写真、配ります。


 はい、紫穂ちゃん10枚ですね。


(…おぉ、オネェーの慎吾ちゃんじゃん、茂樹君、面倒よくみてるもんね!…)


 はい、美咲ちゃん、1枚ね。


 慎吾ちゃん、私のもう1枚、誰が買ったの?知りたい~、教えて~


 ダメよ、それは写真部でタブーになってるから、ダメ!


 わかった~


……………………………………………

【放課後】


 よう、美咲、登ってこいよ!


 茂樹君、手!


 もう~、1人で登れるくせに、甘えん坊だなぁ~


 だって、茂樹君の手を握りたいの


 よし、離すなよ!ヨイしょっと!


 ありがとう茂樹君!


 美咲、修学旅行、楽しかったかい?


 全然、茂樹君いないから、全然、楽しくなかった。


 でも、この写真、綺麗に写ってるぜ!


 あっ、茂樹君だったの、買ってくれたの?


 そうだよ、慎吾に内々に頼んで、絶対内緒ってことでね。


 茂樹君、慎吾ちゃんのこと、可愛いがってるもんね!


 うん!アイツは嘘つかないからね、信用できるんだ!


 ありがとう茂樹君、買ってくれて!


 本当に綺麗だよ。このね、黒い綺麗な瞳、俺、大好きさ!


 瞳だけ~?


 いや、全部好きさ、こっちにおいで。


 うん!


 この鼻も、この唇も、このお目目も、この耳も、このほっぺも、全部好きさ!


 私も、この高い鼻、この深い彫りのある目、大きな耳、全部好き! 私も茂樹君の写真、欲しいなぁー?


 これならあるぜ!


 あっ、これ学生証じゃん、また、怒られるよ!


 構わないさ、ちょっと待ってて、切るから。


 ほら、帰ったら綺麗にハサミで切ると良いよ!


 ありがとう!カッコいい!


 俺の何かを美咲に持っていて欲しかったんだ。


 うん!


 俺ね、毎晩、例の美咲の写真、

見ながら寝るんだ、そしたら、安心して、怖くなくなって、ゆっくり眠れるんだ。


 茂樹君、何が怖いの…


 美咲が俺から離れて行くことさ!


 私からは絶対に離れないよ!


 俺も離れないよ!死ぬまで一緒さ!


 うん!死ぬまで一緒…

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