第29話 Dランクに昇格

「改めて、助けてくれてありがとう。君達がいなかったら多分僕は死んでいたよ」


 魔物の素材を回収し終わると、助けた冒険者の男はお辞儀をして礼を言った。


「まぁギリギリだったもんな」

「そのうえ素材まで頂いて……この恩は必ず返すよ」

「気にすんなよ」


 魔物の素材を剥ぎ取らないのはもうめんどくさいので。

 わざわざ素材剥ぎ取る必要なくね?

 回収するのも楽で価値も高い魔石だけで十分金になるわけだから。

 それに金に困ったら【アイテム作成】があるしな。


「そうですよ、ロアさんは多分素材を剥ぎ取るのがめんどくさいだけですから……」


 ソニアにはバレていたみたいだ。

 鋭いな。


「そういうことなら、この素材の換金額は君に返すよ。流石に助けてもらって素材までもらうのは悪いからね」

「お、本当か? だったらありがたく貰うぜ。剥ぎ取ってくれてサンキュー」


 貰えるものは貰っておく主義なので、断る理由もない。


「ははは、さっきまで死にそうだったのに何だか君と話していると気が抜けてしまうよ」

「それは助かったからだろう」

「かもしれないね」

「とりあえずダンジョンから出るか。転移石は持ってるか?」

「それが……僕が転移石を使おうと取り出したときに魔物から攻撃されて砕けちゃって……」

「お前ドジだな……」

「ああ……君達が助けてくれてなければ自分のドジで命を落とすところだったよ」

「これからは気を付けることだな──ほれ」


 俺は《アイテムボックス》の中から転移石を取り出して、彼に渡した。

 転移石は《アイテムボックス》の中に10個ほど予備がある。

 一種の命綱のようなものなので、少し多めに持っている方が安心できるし、《アイテムボックス》にぶち込んでおけばかさばらない。


「い、今の一体どこから取り出したんだ……?」

「ん、《アイテムボックス》って魔法だよ。やっぱりみんな知らないんだな」


 商人のマーシャも知らなかっただけで冒険者は知っているもんかと思っていたが、そんなことはないらしい。

 よくよく考えればソニアが知らなかった時点であまり知られていない魔法なのかもしれない。


「へーそんな魔法があるんだ……君はどうやら凄い人みたいだね……」

「いや、ただのEランク冒険者だ」


 そういって俺は青銅(ブロンズ)のギルドカードを見せた。


「Eランク!? その実力で!? ……ああ、もしかして冒険者になったばかりとか?」

「冒険者歴は一年だな」

「一年!? いや、それはそれでランク低すぎじゃないか!?」

「……思えばロアさんの現状を説明するのってちょっと複雑ですよね」

「そうだな。まぁこういう話を今するのもなんだし、とっとと帰ろうぜ」

「あ、ごめん。僕の方から色々話しかけちゃって」

「大丈夫だ。むしろフレンドリーに接してくれて助かってるぜ」


【魔法創造】を手に入れる前は基本的に罵倒から会話が始まっていたからな。


「ありがとう。じゃあこの転移石、ありがたく使わせてもらうよ」

「おう」


 そして俺たちは転移石を使用して、ダンジョンから帰還するのだった。



 ◇


 ダンジョンから帰ると、まずは助けた男の怪我の手当てをした。

 男の名前はエリックでどうやらDランクの冒険者のようだ。


 怪我の手当を終えると俺たちは冒険者ギルドに向かった。

 そして戦利品の換金を済ませる際にエリックは俺たちにダンジョンで助けてもらったことを報告した。

 状況を詳しく聞かれた後、俺とソニアはギルドカードを職員に渡した。

 なんとDランクに昇格らしい。

 Eランクに昇格したときと同様、翌日にギルドカードを受け取りに来て欲しいとのこと。


 肝心の換金額は魔石だけで7万2千ムル。

 魔物の素材を換金したエリックから5万ムルもらった。

 結構魔物の素材もお金になるな。

 でも、お金の使い道分からないし、1日で7万ムルも稼いでたら十分だと俺は思う。


 ギルドの酒場の席に座り、俺とエリックはエール酒を注文した。


「エリックはパーティとか組んでないのか?」

「組んでいたけど最近実力についていけなくて除名されたんだ」

「冒険者の間ではよくある話ですね」

「へぇ〜、だから一人でダンジョンにいたのか」

「ああ、だけど今日で自分の実力不足を思い知らされたよ。そろそろ僕も冒険者を辞める時期なのかなって」

「またどこかとパーティを組めばいいんじゃないか?」


 そう言うと、エリックは首を横に振った。


「その通りなんだけど、もう冒険者を続けていく自信がなくなったんだ」

「ふーん、だったら辞めた方がいいかもな。働く先はあるのか?」

「実家の道具屋を継ぐことにするよ」

「おお、いいじゃないか道具屋。冒険者の経験も上手く活かせそうだ」

「ははは、ロアは優しいんだね」

「うむ。俺もそう思う」

「……ロアさん、そういうのは自分で言うものじゃないですってば」

「俺は謙遜するよりも自分のいいところは素直に認めたいんだ」

「なんともロアさんらしい理由ですね……」

「ぷっ、はははっ! なんだか君達のおかげで吹っ切れたよ。お礼に今日は僕におごらせてくれ。もちろん借りはこれだけで返すつもりはないから安心して」

「別に貸しを作ったつもりもないんだが……」

「いいからいいから。すみませーん! エール酒もう2杯くださーい!」


 店員を呼んで、エール酒を追加で頼むエリック。

 なんだか最初よりも明るくなったようで良かった。

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