第12話 仕返し成功

 キングフロッグの素材とDランクの魔石を取得して、転移結晶に触れた。

 そしてその足で冒険者ギルドに向かう。

 ギルド内に入って、俺はキョロキョロと、中を見渡す。


 ──お、いたいた。


 パーティの仲間を一人置き去りにしてきたってのに、何も気にすることなく食事中のようだ。

 ほぉ〜、仲間だった奴が死んでるかもしれないというのに、談笑か。

 良い性格してるね、まったく。

 それならこっちも仕返しするのに、何も心が痛まなくて済む。


 ソニアと一緒にパーティメンバーの席に近づくと、3人は驚いた顔をした。


「な、なんで生きてるんだ!?」

「バカ!」

「いてっ」


 パーティメンバーの女が大声を出した男の頭をゲンコツで殴った。


「い、いや〜、悪かったなぁ〜ソニア。無事生きて帰って来てくれてとても嬉しいよ」


 リーダーっぽい男が自分の後頭部を手でさすって、苦笑いを浮かべながら言った。


「……」


 ソニアは無言で黙ったままだ。

 ガツンと、何か言ってやればいいのにな。

 仕方ない。

 仕返ししようと、提案したのは俺だ。

 俺が全部やることにしよう。


 《アイテムボックス(極小)》を発動させ、魔石(Dランク)を取り出して、テーブルの上に叩きつけた。


 ドンッ!


「ひいっ!」


 女がビビって声を出した。


「これ何だと思う?」


 俺はパーティメンバー達に問いかける。


「ロ、ロア……。な、なんだろうな〜、ただの魔石だろう?」


 俺はお前の名前知らないのに、お前は俺のこと知ってるんだな。

 どうでも良いところで俺の有名っぷりを実感する。

 ……誇れることではないが。


「もう察しが付いているはずだ。よく分かってんだろう?」

「い、いや〜、考えても分からないなぁ〜」


 この男は何としてでもパーティ外にボスの間であったことを知られたくないようだ。

 だから、こうして今もシラを切り続けている。


「そうか。じゃあ教えてやるよ」


 俺はスーッと息を吸い込んで、



「コイツら、ダンジョンボスのキングフロッグとの戦闘中に仲間見捨てて転移石で逃げたらしいぜー!」



 大声でそう言った。



「なっ……!」

「て、てめぇ……!」


 冒険者ギルド内の注目が一気に集まる。

 俺はそのまま大声で喋り続ける。


「いやー、俺が助けに行かなかったらこの子死んでたなー。ひでえよなー、タンク役のパーティメンバーを見捨てて自分達は転移石で逃げるとかさぁ。きっと新しいタンク役も同じように見捨てるんだろうなー」


 静まり返った冒険者ギルド内は、俺の声を聞いて、ざわざわとし出した。


「しょ、証拠はあるのかよ!」


 それをまたパーティのリーダー風の男が鎮まり返した。


「あるだろここに。Dランクの魔石はこの付近だとフォイルのダンジョン、それもダンジョンボスのキングフロッグでしか手に入らないぜ? 俺がこれを出すってことは十分な証拠だろ」

「う、嘘をつくな! お前が【アイテム作成】で作成したんだろう! 俺達に何の恨みがある!」

「なるほど、否定できないな。まぁどう捉えようが勝手さ。俺はみんなに有益なことを言っただけだからな」


 ここで大事なのは、実際に起きたか、起きていないか、ではない。

 周りの冒険者がどう思うかだ。


「ロアッ……! 貴様……!」

「それに、ソニアは何で仲間外れにされているんだ? ソニアはパーティメンバーじゃないのか?」


 この静かな空気だと、あまり大きな声を出さなくてもきこえるな。

 なかなかの注目度だ。


「……ちがう! 昨日ソニアはウチのパーティを抜けていったんだ! その逆恨みでソニアがお前にこんなことをさせたんだな! 今までパーティとして一緒に頑張って来たのに!」

「……」


 よくここまで被害者面出来るもんだな。

 ソニアは何も言わないが、軽蔑するような目で彼らを見ていた。


「やれやれ。俺達は逆恨みでこんな発言をしたみたいだ。ま、これを誰がどう捉えるかは自由さ。俺はこれ以上の言及はしない。あまりの嘘の上手さに呆れてしまったからな」

「ハッハッハ! 自分から吹っかけておいて、逃げるのか! 無様な奴め! お前はやっぱり無能だな!」

「ああ、そうだな。俺の評価は無能のままだが、お前らの評価はどうなったかな? この中に仲間を裏切るクズ野郎だと思った奴が一人でもいれば俺はそれで良いのさ」

「……ロアアアァァァァッ!」


 そこまで言うと、リーダー風の男は俺に殴りかかって来た。

 流石冒険者。

 荒っぽいね。

 ……まぁそうなるように煽った俺も俺で悪いんだが、元はといえばお前らが悪いよな?


「よっ──と。せいっ!」


 半身をずらして拳をかわし、そのまま俺はリーダー風の男の顔面を殴ってやった。

 自慢じゃないけど俺、喧嘩は割と強いんだよな。

 孤児院育ちってのもあってか、結構周りの治安が悪くてな。

 身体の使い方は、そんとき覚えた。


 魔物相手にはあんまり使い道のないところが悲しい。

 スキルとか使われたら流石に勝てないと思うけど、こんな室内でスキル使う馬鹿はいないだろ。


「うぶっ!」


 リーダー風の男は顔面を両手でおさえた。

 鼻血が出ている。


「ははは! いいぞー! ロアー!」

「やっちまえー!」


 わーっ、と冒険者ギルド内が盛り上がる。


「てめぇ調子に乗りやがって!」


 もう一人の男がタックルしてきた。

 俺はあえて抵抗せずに、タックルを受けて、テーブルの上に乗った。


「そらっ!」


 そして両足の裏で男の頭を思いっきり挟んだ。


「ぐへっ!」


 おかげでタックルは止まったので、俺はテーブルの上から降りた。

 そういえば今レベル60か。

 思ってたより強くやりすぎてしまったかもしれない。

 ……んな訳ないか。


「そこまでだ!」


 冒険者ギルド内に俺達以外の大声が響き渡った。

 見ると、その主はギルドマスターだった。


「冒険者間での揉め事はある程度までなら許容されているが、これ以上やるならお前らのギルドカードを剥奪するぞ」

「なぁ、俺は正当防衛をしただけだぜ」

「……なるほど。お前も何かと面倒ごとに巻き込まれる奴だな。……それでお前らはまだ続けるつもりか?」


 ギルドマスターがソニアのパーティメンバーだった男二人に問いかけた。

 二人はぶんぶんと、首を横に振った。


「ならば良い」


 そう言って、ギルドマスターは去って行った。


 威圧感が凄いな。

 ま、こんな風に釘刺されたらこれ以上俺も何も出来ないし、相手も何も出来ないだろう。


 だが、冒険者の間で噂話が広まるのは早い。

 もう既にこの一部始終を見た冒険者達の間ではこの話題で持ち切りだ。


 その光景を見て、ソニアのパーティメンバー達は顔を真っ青にしていた。


 これで少しはソニアの気も晴れればいいんだけどな。

 ま、この仕返しはある程度成功と言っていい結果にはなっただろう。

 ってことは、今俺たちがすべき表情は笑顔だ。


 俺はソニアに向かってピースをした。


 すると、ソニアも俺に微笑み返してくれたのだった。

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