第28話 愛しい香り

目を覚ますと

栞の匂いに包まれていた

彼のベッドに寝かされていた


体を起こすと

栞は私を心配そうな顔で見つめていて

向こう側には

さっき会った綺麗な女性と

外人モデルみたいな男性がこちらを見ていた


「悠ちゃん、よかった~!!目が覚めないかと思った」栞


私はキョトンとした顔で回りを見る

三人はホッとしたように顔を見合わせて笑った


「紹介するよ

ジョエルとミシェル

ジョエルは同じ大学に通うルームメイトで友達

ミシェルはジョエルの彼女だよ

ミシェルは別に暮らしているんだけど

よくココに来て

三人で食事したりするんだ」栞


良かった・・・栞の恋人ではなかった・・・


栞はニコニコして私に二人の説明をする

二人も私の事を聞いていたようで

こちらへ来てはぐしてくれた


しばらくしたら

二人は用事があったのか?

気を使ってくれたのか?

私たちを置いて出かけて行った


二人になると栞は私に温かいミルクを手渡して横に座った


「悠ちゃん、突然来るからびっくりしたよ

嬉しかったけど」栞


優しい顔で笑う

少しまた大人っぽくなったみたい

横顔を見つめる

窓から入る自然な光が栞の肌を反射しているようで綺麗

見とれてしまう


「どうしたの?」栞


私の方を見る

綺麗なオレンジ色の瞳

そこに映る自分が幸せそうにしている姿が分かる


「会いたかった・・・

どうしても会いたかったから

色々考えないで来た

涼太の部屋からこれを勝手に持ってきたの」悠


私は栞にエアメールを見せる

栞はそれを受け取ると

笑いだして


「悠ちゃん無謀だよ!!

これだけでココまで来たの?

凄いな!!」栞


そう言って私を抱きしめてくれた


懐かしい温かさ

柔らかくて

良い匂いがして

優しい

包まれたその胸は以前より大きく思えた


私はこれを求めていた

このためにここまで来たんだ!!


二人で抱き合って泣いた


不安やら

安心やら

苦しさやら

嬉しさやら


よく分からない感情はどれもお互いに同じで

失った人だと思っていたから・・・

それがとても愛しくて


その気持ちはとてつもなく熱をおびていて

私たちは何の言葉も説明もいらなかった

何度も何度もキスを繰り返し

求め合った


・・・ ・・・ ・・・


何時間たったのだろう?

裸のままで

一つの毛布にくるまって私たちはまだじゃれ合っている


感情のままに脱ぎ捨てた服や下着はベッドのまわりに散らかしたまま


栞は私の背中から抱きつき撫でるように指を絡ませる

私も彼の白く柔らかい指をそっと握る


「悠ちゃん、好きだよ」栞


私は振り返り

栞の顔をじっと見つめて


「本当?」悠


栞はにっこり笑って頷く


「・・・会いたかった

もう会えないって思ってたから・・・嬉しい」栞


私は彼の胸の中で

早川から聞いた事

早川のプロポーズを断った事

栞を好きなことは私にとって揺るぎないと言う事を

全て包み隠さず話した


栞はずっと私を抱きしめ

髪をなでながらそれを聞いていた


言葉はなく

静かに

彼はただ

優しく私を抱きしめていた


私はそれだけで

彼の思いが分かり

十分に心ごと満たされていた







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