カフェ物語 ブルーグレーの花束

ゆうき

れんあい のエトセトラ

 花屋「Edenz」で働くようになって数ヶ月。仕事にはだいぶ慣れてきた。職場のみんなは優しくて、お花のことを知っていけるのも楽しい。

(これでお給料がもらえるなんて、あたしってば幸運すぎない?)

 時折、そんな気持ちになってしまう。

 大学にも慣れていたし、上京したての頃の不安は、もうない。

「おはよう、優ちゃん」

 テキパキと働きながら声をかけてくれたのは、バイトの先輩。

 そして、優が密かに思いを寄せている人物。悟さんだ。

(あー、今日もかっこいい!)

「おはようございます」

 平常心を装いながらも、心の中ではテンションが急上昇してしまう。

 しかし、

「みんな、おはよう」

 店長の礼子さんが現れる。

 優は、チラリと悟さんの表情を盗み見てしまう。

(やっぱり。目がキラキラしてる……)

 好きな人の表情変化など、恋する乙女にして見れば手に取るようにわかるもの。

 落ち込まないようにとは思うけれど、礼子さんは女優みたいな美人だし、仕事もできる。

(好き、なんだろうなぁ)

 落ち込むくらいなら、バイト先を変えればいい話なのかもしれないが、店長の事も大好きなのである。悟さんのことを好きなのなら、彼の恋を応援するべきなのか、なども考えてしまうのである。

(もしも2人が一緒になったら……)

 礼子さんの息子の翔太くんだって嬉しいだろう。なんか、これがハッピーエンドなんじゃない?

「おーい、大丈夫か?」

「あ、ごめんなさい」

 思いっきり手が止まってしまっていたようだった。悟さんが声をかけてくれた。

「考えごと? 眉間に皺が寄ってたよ」

 優はちらっと悟さんの顔を見る。なんの疑いもない、いつも通りの爽やかな表情だ。

(私の気持ちなんて、これっぽっちもわかってないよなー)


「そりゃそうよ、だってあんた、なんも言ってないじゃん」

 そう声をあげたのは、親友の瑠美だ。

 ここは大学のカフェテリア。優は持参のお弁当、瑠美はサンドイッチをつまんでいる。

「なんもって、なんも言えるわけないよ。そこまでの仲じゃないもん」

「あんたね、それじゃ、進展なんかしないよ? ただのバイト仲間、年下女子ってだけでしかカテゴライズされないよ」

 手厳しいが、全て確信をついてきているだけに、優は机に突っ伏した。

「だって……」

(彼は、礼子さんが好きなんだもん。そして、あたしは礼子さんに敵わないんだもん)

「負のループ、か」

 瑠美は、どうしたもんかと優を眺める。優が礼子のことを気にしているのは前から話を聞いているから知っている。優が礼子のことを尊敬していることも知っている。

だけど……。

(今の感じの優じゃあ、本来の良さが出ないし、あたしも疲れちゃうな)

 ぶぶっと携帯の振動音に、優は顔をあげる。瑠美が携帯を取る前に、「田島くん?」と聞いてくる。

 田島くんは、今瑠美といい感じになってきている男性だ。付き合っているわけではないが、今度映画を見にいく約束をしているのだ。そう言う話も、今の優にはしにくいのだ。

「うーん、そうだね」

 気のない感じで返す。いいなぁと優は再び机に突っ伏す。

「あのさ」瑠美は意を決した。

「あんた、ほんとに悟さんのこと、好きなの?」

 虚をつかれたような表情の優に、瑠美は言葉を続けた。

「礼子さんと一緒になってもいいと思っているのなら、本当に好きじゃないんじゃない」

 

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