第3話

あの後具体的な話しがしたいと言われ、ロックさんの家に行く事になった。


ロックさんの家はレンガ作りの一軒家であり、周りの家より二回りほど大きかった。


「帰ったぞー。」


「お邪魔します。」


「お帰りなさい、あなた。あらお客さん?」


ロックさんの家に入るとそこには金髪の清楚な感じの美人がいた。


「ロックさん、この美人さんは誰ですか?」


「嫁のミーシャだ。」


「ミーシャよ。よろしくね。」


「こんにちは、ミーシャさん。俺の名前はシュバルツです。」


こちらに微笑みを向けて自己紹介をしてくるミーシャさん。こんな美人さんが山賊フェイスのロックさんの奥さんだとは…いったいどこから攫ってきたのやら。


「シュバルツ、誰の顔が山賊顔だって。」


「何故俺の考えている事を!」


「声に出てたぞ。」


「ところで例のザック君はどこですか?」


「話しを逸らしやがったな。まあいい、こっちだ。」


ロックさんが階段を上がって行くのについて行き、2階の一番奥の部屋に入る。


そこにはベットに寝そべる8歳ぐらいの男の子がいた。


「この子がお前に話したザックだ。」


「どこも悪そうに見えませんが。」


見たところザック君の顔色はよく、どこか悪い所があるようには見えない。


「だろうな。だがこの病は外見では判断できないのが特徴なんだ。」


「シュバルツ、生物が全ての魔力を使い果たすとどうなるか知っているか?」


「知りません。」


「簡単にいうと死ぬ。」


「この子は、その魔力が減り続ける病に罹っている。」


「病の名は魔減病。病に罹った者は体内の魔力が回復しなくなり、日に日に魔力が減っていく。そして最後には全ての魔力がなくなり、死に至らしめる病だ。」


「しかも魔減病には治療法がないんだ。」


ロックさんの表情はとても苦しそうなものだった。自分の息子が不治の病に冒され、ただ緩やかに死んでいく様子を見ていることしかできないのは、親として歯痒いのだろう。


「医者には魔減病は人には直せないが、魔物なら治す事ができるかもしれないと言われた。」


「そんな時にシュバルツ、お前が現れたんだ。あんな強力な魔物を召喚できるお前なら、もしかしたらと思ってな。」


諦めという暗闇の中に浸っていた時に、一筋の光が差し込んだら誰だって縋ってしまうもの、仕方ない事だ。


まだ会ってほんの少しの時間しかたっていないが、ロックさんは根っからの善人なんだろう。


俺は誰彼構わず救うような聖人でもない。逆に気狂いの分類だと思っている。


だけど恩人には幸せになってほしいと思うのは、仕方のない事だと思う。


「ロックさん、やれるだけやってみますので、そこを退いてもらってもいいですか。」


「おお、すまねえ。シュバルツ、もし治らなくてもお前が責任を感じる必要はねえからな。」


息子の事で頭がいっぱいだろうに、俺の事を気にかけるなんて、呆れるほどの善人ぶりだ。


「始めますよ。」


ハスターは俺の実力で呼んだわけではなく、ガチャを引いたら偶々最高レアリティがでるぐらいの確率を引き当てただけだった。


だが問題はそこじゃない。問題は地球の存在をこの世界に召喚できたことだ。


俺の前世の趣味は神話・民話・童話などに登場する御伽話の存在を調べる事だった。


今こそ前世で披露することなく日の目を見ることなく終わったこの趣味を活かす時!


『汝は病の喰らい手、白き鳥の姿を持つ神の使いよ、我が呼び声に応え姿を現せ。』


『召喚・カラドリオス。』


空中に1メートル程の魔法陣が出現し、その中から、分厚い本を持った真っ白な千鳥が出てきた。


カラドリオスはザック君の真上まで飛んでいき、そこでホバリングすると、ザック君の体から黒いモヤが吹き出してきた。


カラドリオスは口を開けるとどんどんモヤを吸い込んでいく。


2〜30秒程で全てのモヤを吸い込んだカラドリウスは俺の方を見て、まるで終わったよとでも言うかのようにピッと一声鳴き、俺に分厚い本を渡すと消えていった。


「お、終わったのか?ザックはどうなんだ。」


「はい。もう大丈夫だと思います。もし手遅れだったらさっきの鳥は、何もせず飛び立って行くはずなので、もう大丈夫です。」


「そうか…」


ロックさんはそう言うと、その場に座り込んでしまった。安心して力が抜けたのだろう。


「シュバルツ。ありがとうな。」


それはこちらのセリフだ。貴方は見ず知らずの俺に随分親身になってくれたじゃないか。頼れる者がいない中で、貴方の優しさがどれほど嬉しかったか。


「気にしないでください。ただの恩返しですから。」


貴方にはまだまだ、恩返しさせて貰いますからね。

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