爆弾拾いがついた嘘【改稿版】
生津直
序章 負の遺産
1 従兄
「タッちゃんち」は田舎だ。
車でずーっと走っても走っても、田んぼに、畑に、林に、また田んぼ。
緑、黄緑、深緑、青緑。
冬にはそれもこれもすべてが真っ白になる。
「今週末はタッちゃんちだからね」
母が言うと、国道を外れてからの一本道が目に浮かんだ。
遠くに高い山。近くに低い山。左右は田んぼで、空がバーンと大きい。
遊びに行くといっても、本当は遊びじゃないことを一希は知っている。叔父、つまり父の弟が一希たちにとって大事な人だから、たまに会っておく
着いたらみんなで昼ご飯を食べ、「タッちゃんと遊んでらっしゃい」、と追い出されるのが最近のパターン。
タッちゃんこと
外を歩いていても、アニメの歌を大声で歌ったかと思えば、突然何かになりきって見えない敵と戦い始める。一希を巻き込んでこないのが救いだが、一緒に遊ぶというより、不思議な生き物を観察している気分になる。
そんな忠晴も、迷路みたいな林道を歩くときは頼りになった。道案内もさることながら、一希が上れない斜面などは避けてくれているのがわかる。
何となく見覚えのある場所に差しかかったとき、唐突に忠晴が切り出した。
「今日、何の話してるか知ってっか? 親たち」
「知らない」
いや、本当は知っている。
忠晴は
「オレたちのー、けっ、こん! の話だぜ!」
――あーあ、これだから男子は……。
忠晴の姉である優穂は、中学に入ってからほとんど遊んでくれなくなった。友達と会うのに忙しいらしい。
母も以前は「優穂ちゃんち」と言っていたものだ。それがいつしか「タッちゃんち」に変わった。
忠晴は、自分の世界に
――なんで
そうはっきり言われたわけではないけれど、母には「仲良くしなさいよ」としつこく念を押されるし、叔母には「お似合いね」なんてからかわれるし、実際、二人をくっつける計画が大人たちの間で進んでいる。
忠晴はそれを喜んでいるのか、はたまたよくわかっていないのか。一希にはさっぱり見当がつかない。
調子っぱずれな歌を聞かされながら
「切り通したにしては雑よねえ」と叔母がいつか言っていた通り、平らにならされてすらいない土のままの林道だ。道幅も、両脇の岩壁の高さも、ころころ変わる。
こんなところに一人で取り残されたらと思うと恐ろしいが、人の気配はそれなりにあった。国道を走る車の音が
右に左にと枝分かれする道。その一つが脇に
突き当たりに向かって先がすぼまるにつれ、両側の岩壁も低くなる。ここからなら、壁の上に登ることができた。今日も忠晴は得意そうに岩の上に登っていく。一希も後を追った。
壁の上は、低木が不規則に生えた
不意に、
「じゃあな」
と告げると、かけっこ並みの勢いで走り出す。
「ちょっ……」
一希も慌てて駆け出すが、草の
「いった……待って! タッちゃん!」
忠晴は見向きもせずぐんぐん遠ざかると、
「タッちゃん! やだ、置いてかないで!」
何とか立ち上がり、忠晴が向かった方へと走る。しばらく行くと
「タッちゃん! 待ってってのに!」
縁の先に、忠晴の秘密基地よりだいぶ広い新たな
忠晴の姿が見えず、焦りが
一希は後ろを向いて四つん
「何だこれ?」
と、忠晴の声。
――なあんだ。
ここにいたのだ。隠れて驚かそうと、壁に張り付くようにしゃがんでいたのだろう。一希は安堵し……同時に、妙な胸騒ぎを覚えた。
そのまま壁にかじりついて下りるつもりだったが、慌てたせいで滑った。ずり落ちたその
バツン、と花火のような大きな音。
何かが飛びかかってきたような衝撃。着地した体が大きく右に流される。
――何⁉
左耳の中がキュイーンと鳴り、ぎゅっと縮む感覚。そこだけ水の中にいるように閉ざされ、激しい目まいに襲われた。地面についた両手が波打って見える。強烈な吐き気。草をつかんで
――苦しい、気持ち悪い、助けて……。
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