明くる朝


ぱた、ぱた、ぱた....。

なんの音かしら?って


ああ、お屋根に来た小鳥さんの足音ね、と

わたしのお部屋(と同じ)なので、見当がついた。


山の手のこのあたりは、緑深いので

野鳥がたくさん、飛んできて。


朝は、お屋根で、ちょこちょこ歩くので

その足音が、ぱたぱたぱた、って。


かわいい目覚ましさん。って

わたしは思っていた。



レースのカーテンの窓に見える景色も、わたしのお部屋と一緒。

なのに、ここが異世界だなんて、まだ信じられない。




めぐは、まだ寝てるみたい。

窓のほうに、横向きになって

少し、まーるくなって。ダウンのブランケットをかわいい手で持って。


赤ちゃんみたいに、かわいい。


むかーし美術館で見た、天使の西洋画、ルノワールだったかしら?

そんな感じの絵画を思い出した。


斜めの朝の光が、レースのカーテン越しに

やわらかくって。



天使を、覚醒に、ゆっくり誘ってる....。




「.....。あ、おはようごじゃいますー。」



って、めぐは、ちょっと寝ぼけてる(笑)。


髪も、もしゃもしゃで。


ねぼけてるめぐも、かわいい。






それからわたしたちは、ルーフィと一緒に

ブレックファースト。


ミルクティー、カフェ・オ・レ。

焼きたてクロワッサン、クロック・ムッシュウ。

ビアンケッティ、トマトのサラダ。



のんびり、頂いて。


「いってきまーす。」って、わたしたちは

いいのだろうか(笑)のびのび居候。


めぐと一緒に、お家を出る。


「めぐが、学校に行っている間、わたしたちは

隣町の魔法使いさんのところへ、行ってみるわ」と

めぐに伝える。



「それなら、路面電車で駅前から、隣町への坂道を

ケーブルカーで登って、頂上の向うの町みたいです。」と

めぐは、よい旅行作家にもなれそう。(2w)。



あとでまた、図書館に行く、そう言って

路面電車の停留所で、スクールバスに乗るめぐ、と別れた。



赤いお屋根のスクールバス。

ボンネットが長くて、大きなヘッドライトがふたつ。

大きなお馬さんみたいね、って

めぐ、は

かわいらしい事を言って、わたしたちを和ませてくれる。


自然に、そう思うんでしょうね。

お花みたいな子...。





昨日は、無賃乗車(笑)で、危なかったけど

きょうは、ハイスクールの生徒の変装はしてないので

昨日のわたし、と見られる事も、ない。


めぐ、に似てるとは思われるだろうけど。

車窓の生徒たちは、わたしに気づいてはいなかった。


中折れの扉から、めぐがバスに乗って。


手を振りながら別れていくと、なーんとなく淋しかったりもした。






わたしたちは、路面電車に乗った。

「ねえ、魔法の絨毯とかで行けないのー。」と、わたしが言うと


ルーフィは「昼間っからそんな事したら、おまわりさんに捕まっちゃうよ」と。


こっちの世界は、どうかわからないけど(笑)それは確かに面倒かしら。



電車は、昨日のとは違って、最新型の2両連結のものだった。

床がとっても低くて、地面からほんのステップひとつ、そんな感じ。

モータの音も静かで、するすると走る。


「魔法の絨毯並みだね」と、ルーフィ。



「ほんと...。」と、わたし。



そんな風に、魔法の絨毯みたいな乗り心地は

科学が実現するのかも....。


「でも、魔法ならお金かかんないわ」と、言うと


「女の子だねぇ、ほんと」と、ルーフィは

やれやれ、と言う顔をして笑った。




2両つながってる路面電車は、カーブのたびに

つなぎ目が動いて、生き物みたいにうねうね。

電車の中で見てると、向うの車両と

空間がつながってるので、揺れ動いて

見てると楽しい。


「同じところに向かってるのにねぇ、右、左って

空間がねじれて」って、わたしが言うと



「そう、縦・横・高さ、って形があって

その容積は同じなのに、変形しながら進んでいくって

時刻の経過で進んでるので。つなぎめのところで見ると

空間が歪んで見えるね」と、ルーフィは難しい事を言った。


わたしにはわかんない(笑)。



駅に着いて、ケーブルカー乗り場を探すと

みんな、気忙しく歩いていて

それが、川の流れのようで。


なかなか、大変そう。



「....こういう気分だと、なかなか、思いやりを持って、とか言いにくいかもね」と

ルーフィ。



「ほんと。なんでこんなにセカセカするのかしら」と、わたしも思ったけど

それは、勤め人をした事がないわたしには

実感として分からない。


学校も、スクールバスだったし。

大学も、のんびり単位取ってたし。

その後は、トラベルライターになっちゃったし。


何かに追われて暮らしてると、イライラして、誰かに

当たりたくなるのかも...と、思ったりもした。



「そういう時、悪魔くんが憑くんだね。」と、ルーフィは怖い予想をした。


悪魔くんのエネルギー源になるような、悪い気持ちが増えるように

悪魔くんが、誘うのかな....。




「でも、追われるのが嫌だったら追われない暮らしをすればいいのさ。

悪い気持ち、って言うけど、僕らだったら、追われたって

人に当たったりできないもの。

そういう気持ちって、やっぱり、僕らと違うんだよ、どこか」と、ルーフィ。



ケーブルカー乗り場は、駅のすぐそばだった。


ケーブルカー、って言葉の響きから、山登りに行くときの

ゴンドラがケーブルに、ぶらーん、っを

想像してたから(2w)。


ここにあるのは、路面電車みたいなタイプで

坂道を登るのに、線路の間でケーブルを引っ張ってて。


見た目には電車。でも、電線がない。



「サンフランシスコのケーブルカーみたい」って、わたしが言うと


「ほんとだね.....。」と、ルーフィは言う。



あ、そっか。

昨日ルーフィが言った4次元、ってこういう事なのね。


目の前にあるケーブルカーは、縦、横、高さもある3次元のもの。

それを、記憶の中のどこかにあるサンフランシスコのケーブルカーと

比較するのは、アタマの中のどこか(笑)。

その時、目の前のケーブルカーは、なーんとなく大きさも適当に比較されてて。


伸び縮みするから、4次元なのね。時間の感覚もないし....。




「サンフランシスコー....って、行った事あったっけ?」と、ルーフィ。


「...どうだったかしら....いろんなとこ行ってるから」と、わたし。




「認知、だめだねー。」と、ルーフィは笑う。




....あ、そっか。行った事あるか、どうかを忘れちゃって。

なーんとなく覚えてるサンフランシスコのケーブルカー、ってイメージだけを

覚えてて。


ほんとかどうか、は、忘れてる。

これって事実認知ね...。って、昨日ルーフィが言ってた事を思い出して。



なので、いろんな情報を知ってると、ややこしくなるのかな....。


ちっちゃい頃、おばあちゃんが

いろんなこと、心配するんで

っちょっと、煩わしく思った事あったりしたけど...。


あれに、ちょっと似てるかしら。



それで、昨日の図書館で会ったおじさんも、イライラしてたのかな...。




ケーブルカーに乗って、わたしたちは

丘の上をめざした。


ケーブルが、どうやって線路の間に収まっているのか、が

ルーフィは気になるみたいで、つなぎ目を見たがっていた。


男の子ねぇ(2w)。



丘の上にあるケーブルカーに、お客さんが一杯乗ると

丘の下にある、こちらがスタート。


乗る人が足りないと、走り出さないって

とってものどかな乗り物なので

忙しいひとは、タクシーとかで登ってしまうみたいで

乗客は少なかった。



「そんなに急いだって、いくらもかわらないよ」と、わたし。


「まあ、その人なりの理由があるんじゃない」と、ルーフィ。

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