Love is still blue


「いや、僕は聞いてただけさ、それは、君のポテンシャル。

それと、ほら、君が音楽家になりたかったって言ってた、その思いが

そうさせたんだよ、きっと」


と、ルーフィは静かに囁いた。心のなかで。




「いいセッションだったね。若々しくて清らかなあなたのようだ、マドモアゼル」

モーリアさんは、にっこりと爽やかに。



「いつか、きちんとレコーディングしたいと思う。その時はまた、いらしてください。

タイトルはそう..."love is still blue"とでもしようか」






....そんなぁ、モーリアさんとレコーディングなんて....

と、わたしはうっとりとした。けれどもルーフィは....



「忘れてないよね、ここは1976年。」




...そうだった。わたしはつい、思いつきでタイム・スリップしちゃったんだった。


それに、"love is still blue"って、ヒットした[恋はみづいろ'77]のことでしょう。


そのセッションに参加するなんて、時間旅行者としては無理ね....。





そう、残念だけど

1976年のセッションに、未来から来た

わたしは参加できない。


時間の流れは、普通

過去から未来へとゆくものだから。


未来へ戻らなきゃ。


そう思った瞬間!



spark!☆


閃光と共に、わたしは異空間に飛ばされる。


「ルーフィ、ルーフィ!」


藁を掴むように、彼を呼ぶ。



「僕はここにいるよ」


と、深山の泉のように彼は、涼やかな声で答えるので

そのことに、わたしは安心する。




「どうなっちゃったの?」と

空間を漂いながら。


暗黒の空間のようで、でも

ところどころに光が流れる

不思議な感覚のなかで。




「うん、君は未来に戻りたいと思った、だから。」




ルーフィは、ほほえみながらそういう。


「それだけのこと?ルーフィが魔法を掛けたの?」

と、わたしが尋ねると、彼は



「いや、僕はそばにいるだけさ。」

と、平然とそう言うルーフィ。


わたしは、ちょっとびっくり。

自分の力だけで、こんなこと...



魔法って、こんなこと?



「ねぇ、ルーフィ?」



「なに?」




「あなたのご主人様の眠りを醒ます鍵って、なんなのかしら」




つい、聞いてみたくなった。唐突だったけど。



「...そうだなぁ。お伽話ならお姫様のkissとか」

と、ルーフィは楽しそうに答える。



そうだ、君がしてみたら、なんて言うルーフィ。


「怒るわよ」

私は反射的にそう言った。




どうして?とルーフィはちょっと驚いて。



「だって、好きでもない人とそんなこと」

それに、ルーフィ、あなたがそんなこと私に言うなんて。


その言葉は飲み込んだけど。



ルーフィは、ちょっと理解不能、と言う顔で


「pardon,ごめん、そうか。君って可愛いなぁ。」




なんて、言う。

どういう意味かよく解らなかったけど、でも

ルーフィに可愛い、って言われて

なんとなく、嬉しかった。


空間を漂う、不思議な旅だけど

ふたりきりで誰もいない旅。

結構、ロマンティックかな。


なんて、私はにこにこしながら。..そう、わたしの生まれるずっと前にレコーディングされた「恋はみづいろ’77」のアレンジに

わたしが関わっていたなんて。

ちょっと素敵、どきどき!


「あ」



わたしは、あることに気づいた。



「でも、過去を変えたことにならないの?」




ルーフィは、平然と答える。


「ほら、書いたのはモーリアさんだもの。君は

ピアノを弾いただけで。それに、作家はよく言うでしょ?

天からアイデアが降りてくるって。あれは、ひょっとすると

タイム・トラベラーが来たんじゃないかな。

ノストラダムスの時は宇宙人が来るって言われてたね。」




...そっか。わたしって宇宙人?


「ねぇルーフィ」


「なに?」



「あの曲って大ヒットしたのよね、わたしにも印税こないかしら(笑)」



ルーフィは、にっこり笑って

「女の子だなぁ、そういうとこは。どうやって未来に送るのさ、印税。」




..そっか、残念だなぁ。

そう思っているわたしに、ルーフィは



「でも、あのメロディだって君の記憶にあった

誰かのメロディが、君っていうフィルターを通して出来たものさ。ショパンか、シューマンか知らないけど。

ひょっとしたら、モーリアさんの曲かも。

音楽ってそういうものさ。今度は、あの曲を聞いた人が

新しいメロディを思いつくのさ。素晴らしい事だよ、それは。」




ルーフィの言葉に、わたしは清々しい気持ちになった。

そうよ、わたしは音楽をクリエイトしたんだわ...。




flash☆その、空間の旅も

長いようで、一瞬だった。


そう気づいた時のわたしは

普通の月曜日みたいに

坂道を歩いて、路面電車に乗って。


仕事を貰っている雑誌の編集部に行くところだった。



「あ、あれ?」

時計を見ると、月曜の朝9時。


1976年に居た時間も、こちらではほんの一瞬....



「そう。だから時間旅行って4次元なんだ」


ルーフィの声が、リアルに響く。



「4次元って?」

わけわかんないよぉ。



「うん、時間軸が伸び縮みする。まあ、異空間を行き来する間。ほら、2回日曜日が来たみたいに。」



....そんなのってあり?じゃあ、朝ご飯の後の

ほんの一瞬の間にわたしは、1976年に行って来た、ってことなの?




「そう、だから4次元の旅なのさ。」

ルーフィは、ことも無げに言う。

ぬいぐるみの姿のままだと、ちょっとユーモラスだけど。



「でも、ルーフィ、そんな大きなぬいぐるみ抱えて

編集部に行くのはちょっと...」

と、わたしが言った瞬間


彼はマスコットになって、わたしのかばんに収まった。


「そのくらいのほうがかわいいぞ」って、わたしは

ルーフィのほっぺをふにふに、とつまんだ



やめろって、こら。魔法かけちゃうよ、って

マスコットのルーフィは笑った。



ふつうに見てると、女の子が

お人形で遊んでるみたいにしか見えないと思う。


だけど、彼は魔法使いさん。



よく、女の子がお人形とおはなししてるけど

ひょっとしたら、あの中にも

魔法使いさんがいるのかなぁ、なんて

わたしは思った。


路面電車の停留所に、昇りの電車が来る。

からんからん、と鐘を鳴らしながら。ゆっくりゆっくり。


いつものようだけど、ちょっと違う月曜日がはじまった。



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