第115話 敵の本拠地に潜入する機人たち 1
「よし、エネルギーパックもパンパンだ。これで五十発は撃てるぞ。……まあお前が会った本物の『阿修羅先生』のライフルほどでかくはないかもしれないがな」
拓さんはそう言うと、新品同様に磨かれた旧式のプラズマライフルを構えてみせた。
「僕はマグナムと、小ぶりのブラスターを一つ持っていくよ。本音を言えば撃ちたくはないけど」
「閃光弾は一人三個にしよう。自分もやられるから、使うのはここぞという時だけだ」
当たり前のように潜入作戦を口にする拓さんに向けて、僕はずっと言いあぐねていた問いを口にした。
「本当にいいのかい?拓さん。しくじったらここに戻ってこられなくなるかもしれないし、瑠佳さんとも二度と会えなくなるかもしれないんだよ」
「構わないと言ったろう?俺は自分の意思で行くんだ。それに俺はなにをするにも失敗をイメージすることはない。危険が待ち受けているような場合でもな」
「失敗をイメージしない……」
「そうだ。成功することしか考えてないから、もししくじったらなんて想像は意味がないのさ。……まあ強いて不安な点を上げれば、エレベーターに乗り込む予定の二人が、どちらも弱そうだってことだな。俺にもお前にも迫力ってものが足りない」
「研究者のふりをするんだよね、確か。迫力はいらないと思うな」
僕がそう言って肩をすくめかけた、その時だった。
「俺も行くよ。三人いれば、すこしは迫力も出るだろ?」
そう言ってフロアに姿を現したのは、徹也だった。
「徹也……」
徹也の強いまなざしには、僕にははかり知れない悲しみと覚悟の色があった。
「――わかった。一緒に行こう。ただし僕らは死にに行くんじゃない。ジュナたちを救いだし、無事にここへ戻ってくるために行くんだ。全員、怪我ひとつせずにね」
僕が徹也に告げると、拓さんが「おっ、早速イメージトレーニングか。いいことだ」と眉を下げながら言った。
※
「こいつはすごい。本当に岸から島まで道が続いてる。海の道だ」
僕らが暗いコンテナの中で息を潜めていると、運転席の方がらスタンリーの声がした。
「後ろの『死体さん』たちにも見てもらいたい景色だけど、まだ本番前だからな。悪く思わないでくれ」
僕はファスナーのついた袋の中で「いよいよ要塞の中に入るんだな」、と身を固くした。
やがて車が止まり、外で何やらやり取りをする声が聞こえた。警備に身分を問われているのに違いない。ここで押し問答になったら厄介だぞ、そう思っていると唐突に重々しい音がして、車が再び動き出した。どうやら無事に門を開けてもらえたらしい。
「ここからは私語厳禁だ。しっかり『死体』の役を演じてくれよ、みんな」
スタンリーが運転席から釘をさすと、コンテナのあちこちから「おう」という声が上がった。車が城塞都市の中を移動している間、僕らは一切、外の様子を見ることができない。僕らが目を開けるのは、物品チェックのために誰かが袋のファスナーを開けた時だ。
車は城塞都市の内部を数分ほど走ると、何度か曲がって唐突に止まった。
――やっと研究所の近くまで来たかな。
僕が息を殺して気配を窺っているとやがて、ごおんという音がして車が降下を始めた。
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