第80話 荒野の風に吹かれる機人たち 12


「まあ、周さんからもらった『変面シート』は余分にあるから、やろうと思えばできなくはないと思うけど」


 突然の申し出に面喰いつつ、僕は真剣な表情のナナに当たり障りのない言葉を返した。


「やってみてもいいですか?」


「ナナ、慣れない道具を試してもし、君の人工皮膚にトラブルでも起きたら……」


 徹也がやんわりと釘を刺したにも関わらず、ナナは僕からシートを受け取るとためらうことなく自分の顔に押し当てた。


「あの……すみませんがデビーさんという方の画像を見せていただけますか?」


「あ、ああ……これだけど」


 僕がデビーの映ったディスプレイを手渡すと、ナナはしなやかな手つきでシートを撫でたり伸ばしたりし始めた。


「――どうです?似てるでしょうか」


 数分後、ナナが僕らに向けた顔を見て、全員が目を瞠った。


「デビーだ。……本人にしか見えない」


「――よかった、全然似てないって言われるんじゃないかと思いました」


「ナナ、そのくらいにして……」


「テツヤ、私もあなたの計画に参加させてもらえないかしら。あなたの役に立ちたいの」


「駄目だ。ゴメスの街を出てこの工房に来たこと自体、すでに無理がかかってるのにこの上、危険なミッションに足を突っ込ませるわけにはいかないよ」


 僕は二人のどちらに加勢してよいかわからず戸惑った挙句、スタンリーに「どう思います?」と尋ねた。


「彼女が花屋の仕事を放りだしてまで来た、と言うことの意味を考えた上で決めればいい。あくまでゴメスから身柄を預かっただけ、というならそれはそれでやむを得ないことだ」


「徹也、ナナはお前に会いに来たんだ。僕らのことは考えなくていいから、二人で話し合って決めてくれ」


 僕がジャッジを任せると、徹也は「参ったな……」と言って唸りながら宙を睨んだ。


「――わかった、デビーの役は君にやってもらおう。……ただし、ミッションの遂行中はできるだけ俺の目が届く範囲で行動すること。いいね?」


「ありがとう、テツヤ!」


 ナナは目を輝かせると、テツヤの太い首に抱きついた。


「うーん、そうすると僕の役割はどうなるのかな」


 僕が問いを放つと、スタンリーが「二人の友達という立場で加わればいい」と言った。


「友達?」


「メイクをちょっと変えれば、デビーと親しい不良娘という感じに見えなくもない」


 僕は思わず苦笑した。確かにミッションの中心はデビーとアンソニーだが、二人を外から見守る役というのも案外、必要なのかもしれない。


「よし、これで決まりだな。女性二人と男性一人の奇妙な誘拐チームの出来上がりだ」


 僕は完璧な仕上がりのデビーとアンソニーを前に「よろしく頼むわね、お二人さん」と、女の子にしてはハスキーな声で言った。

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