最終話 これからの2人。

「早く起きなよ。 講義に遅れるよ」


「うぅーん……あと5分……」


「まったく……だらしないわね」


俺と雫が恋人になってから9ヶ月が過ぎ、俺は大学二年生、雫は大学三年生になった。


今は2人でマンションを借りて同棲している。


同棲生活を始めて大変なことは多いけど、俺は今とても幸せだ。


「照。 1限に小テストあるとか言ってなかった?」


「……ヤベェ!? すっかり忘れてた!!」


俺はベットから飛び降りる。


エプロンをつけた雫は、呆れた表情で見ていた。


「朝ごはん作ってあるから、しっかり食べるんだよ? 食事は基本だからね」


「分かってるよ! それに、雫が作ってくれた朝ごはんを食べないわけないじゃん!」


「……バカ。 さっさと食べちゃいな」


そっぽを向いて雫は少し早足で寝室を出て行く。 う〜ん……俺の彼女は最高に可愛いなぁ。


「お待たせ〜。 おっ、今日も美味しそう」


着替えてから食卓を見ると、美味しそうな朝ごはんが並べられていた。


「じゃあ、食べようか」


「おう。 いただきまーす!」


俺はだし巻き玉子を食べる。 和風出汁が効いている玉子は、とても優しい味だった。


「今日はいつ帰ってくるの?」


「4限まで講義受けた後、バイトに行くから21時ぐらいだと思う。 雫は?」


「私は今日フルコマだから、バイトなし。 多分、買い物とかもしたら19時ぐらいには帰ると思う」


「そっか。 分かった」


「美味しいご飯作って待ってるから」


「ちなみに今日の晩御飯なに?」


「予定ではハンバーグとポテトサラダ、あとはコンソメスープかな」


「分かった。 全力で自転車漕いで帰るから!」


「ふふっ。 気持ちは嬉しいけど、事故には気をつけてね。 ご飯は逃げないから、安全に帰ってきて」


「はーい」


俺達は朝ごはんを食べ終わった後、歯磨きや髪のセットをして家を出る。


外に出ると春うららな日差しと、温かい風が俺達を出迎えてくれた。


「気持ちいい風が吹いてるね〜」


「そうね。 桜もそろそろ良さそうだし、花見したいわね」


「おっ。 それいいね。 どうせなら天文サークル部員らしく、星空を見ながら夜桜楽しまない??」


「それ、いいわね。 風情があって素敵」


「なら、その辺の話も帰ってからしよっか」


「そうね」


俺たちは手を繋いで大学へと向かう。


これから色々な困難や楽しいことがあるんだと思う。


でも、それを雫と一緒に支えて、乗り越えて行きたいなと思った。


「?? どうしたの照? 急に笑って」


「いや、雫と一緒で幸せだなぁって思ってさ」


「なにそれ……………私も、照と一緒で幸せだよ」


そう言って雫は立ち止まって、優しい笑みを浮かべる。


その瞬間に風が吹き、艶のある黒髪が揺れ、桜の花びらが舞い散った。


そんな中、凛と佇む雫は、まるで絵画の中に出てくるお嬢様のようだった。


「……綺麗だ」


「うん? 桜が?」


「いや、雫が」


「……ほんと、不意打ちでドキッてなること言うのやめてよね。 心臓に悪い」


プイッと顔を逸らす雫。


しかし、口元はだらしなく緩んでいた。


「あははっ!!」


俺はそんな雫が愛おしくて、思わず笑ってしまう。


雫は面白くないようで、口を尖らせていた。


「ほらほら、急がないと遅刻しちゃうよ。 不貞腐れてないで行こうよ」


「そうさせたのは照じゃない!」


俺たちは再び歩き出す。


あの一目惚れした日から約1年が過ぎた。


まだまだ人生は長い。 これからも2人で過ごしたいな。


そう思っていると、一陣の風が吹いた。


その時、運命の赤い糸がお互いの小指に繋がり、結ばれているように見えた。
















          完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る