Scene7/8

 大地は社の中に足を踏み込んだ。歩を進める度に埃が舞い、古い木造の床が子猫が鳴くようにキュウキュウと軋んだ。そして大地はうなだれる清の脇をすり抜け杏香の足下にあるナイフを広った。


「あと少しで大事な物を二つ失うところだった」


 杏香を拘束する縄を切り裂き、大地は笑った。


 そのとき、背後の清が嗚咽をあげた。


「認めない……私が大地くんの運命の人だよ。だって、大地くんが持っているチョコは全部私が用意したチョコレートのはずだもん」


 大地は振り向き、清に答えた。


「もらったチョコレートのうちの二つはお前のものだった。でも、一つだけは杏香のチョコレートだった」


 清は震える声で言った。


「どうして、杏香ちゃんのチョコレートは胡桃ちゃんが処分して……」


 そして清はハッとした。


「胡桃ちゃんは、大地くんに杏香ちゃんのチョコレートを渡したんだ」


 大地は苦笑した。


「大事な物は人任せにしちゃいけないだろ」

「胡桃ちゃんは私に従順だと思ってた」


 清は唇を噛みしめた。


「私には大地くんしかいないの。大地くんだけが私を大事にしてくれる。大地くんだけが私を守ってくれる。大地くんだけが私の体を綺麗っていってくれた……大地くんしかいないのに」


 瞳からポロポロ涙をこぼす清の頭に、大地の手が乗った。


「愛してくれるのは、嬉しいがでもやっぱり、オレはお前の恋人にはならないよ。お前はオレのたった一人の妹だからこそ、最後までお前の味方でいるんだ」


 清は掠れた声で言った。


「でも私、杏香ちゃんを監禁した……杏香ちゃんの体を傷を残そうとした」


「そうだ……お前は許されないことをした。だからお前は罰を受けてもらう」


 大地は真剣な表情で、清に言った。


「毎朝、必ずオレに挨拶しろ。それでつらいことがあったら必ずオレに話せ。絶対に兄ちゃんがどうにかしてやるから」


 清は溢れる涙を腕で拭い、後ろに束ねた髪を解いた。


「わかった。正直、もう恋愛できないかもしれないくらい胸が痛いけど、信じてみる……これからもよろしくね。お兄ちゃん」


 清はすっと立ち上がり大地に微笑んだ。


「それじゃぁ家に返るね……今は杏香ちゃんと二人きりになりたいでしょ?」


 そういって、清は足早に立ち去った。


 二月の風に清の解けた髪が靡いていた。

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