スローライフを送りたいので追放してくれ

佐倉そう

第1話

「はぁ、お前たちは自由でいいな」


 時は昼下がり、侯爵家の屋敷の中庭にて小鳥に餌を与えながら俺はつぶやいた。


 好きな時に好きなことをし、好きな時に好きな場所に行ける。そんな小鳥たちが羨ましかった。


 俺は侯爵家の三男に生まれ、何をするにも自由などなかった。


「はぁ、俺には才能なんかないのだから、追放でもしてくれたら自由になれるのに」


 小鳥の頭を撫でながら俺は5年前の祝福の儀を思い出していた。

 祝福の儀は10歳の時に行われ、スキルと呼ばれる特殊な技能や能力が与えられる。

 スキルは祝福の儀以外で得る方法は現在確認されておらず、ほぼ全ての者がスキルを得られる。


 スキルがあるのとないのでは雲泥の差がある事は周知の事実で、得たスキルにより将来の職業が決まると言われている。

 

 だというのに、俺はその祝福の儀でスキルを得ることができなかった。つまるところ無能なのだ。


「やはりここにいましたか。アルベール様そろそろ夜会のご準備をされてはいかがですか?」


 俺に声をかけてきたのは、専属メイドのマリアである。


「もうそんな時間か。気が進まないが部屋に戻って着替えるとするか」


 今日は第一王女の誕生日のため、王城にて夜会があるのだ。

 スキルがないと分かった年から社交界では侮蔑の的になっている俺にとっては憂鬱な事この上ない。


 最初の頃はあの手この手で逃げ回っていたが、父上も母上も俺を社交界に連れていきたがるのだ。


「アルベール様、贈り物はご準備されたのですか?」


「…いや、してない。いつもマリアが用意してくれるだろ?」


 俺は冷たい汗が背中を流れるのを感じる。

 誕生日を祝いに行くのに手ぶらは流石に不敬だ。


「ご自分でご用意なさると仰っていたと思いますが?」


「いや、ちゃんと用意していたよ、これがプレゼントだ」


 そういって俺はさっきまで見ていた小鳥を捕まえて見せる。

 まぁ、そこそこ可愛い鳥だし大丈夫だろう。


「はぁ、また、そんな雑に選んで、そのような事を続けているとその内不敬罪になってしまいますよ」


 マリアは呆れたような感じで言う。


 ちなみに去年も同じやりとりをしていて、その時はこの中庭にたくさん咲いている花を贈ったのだ。


「まぁ、いいじゃないか。俺が手塩をかけて育てた小鳥なんだから」


 いつの間にか住み着いた小鳥たちに毎日中庭で餌をあげていたのだから、俺が育てたといっても過言ではないだろう。


 マリアは納得していないようだが、大丈夫だろう。

 そもそも、好きなものをすぐに得られる王族に何を贈れというのだ。





 王城に向かう馬車の中、俺は膝の上に先ほど捕まえた小鳥が入った鳥かごを抱えていた。

 ちなみに父上と兄上たちは王城で働いているので現地で合流する手はずとなっている。


 俺の向かい側に座る母上は今年で42歳であるが、まだまだ20代と言われても違和感のないくらいに若く見える。ちなみに名はリリアナである。


「あら、アル君はその小鳥ちゃんをあげるのね?」


「母上、私はもう15になったのです。アル君と呼ぶのはやめてください」


 15歳といえばもう成人と見なされているのだ。子供のように扱われて恥ずかしく感じてしまう。


「あら、アル君はアル君なのだからいいじゃない。それよりこの小鳥ちゃんを選ぶなんてアル君は流石だわ」


 母上がそう言うのだから、俺の選択は間違っていなかったのだろう。

 どや顔で母上の隣に座っているマリアを見る。マリアは癪に障ったのか

「奥様、アルベール様は贈り物のご準備を忘れて、中庭にいた小鳥を捕まえてきただけですよ」

 と言う。


「あら、アル君が一生懸命に餌をあげていた子たちじゃない!アル君の愛情の詰まったプレゼントだなんて素晴らしすぎるわ!」


 母上はさらに俺の用意したプレゼントの価値を褒めてくれる。


 どうだ!この小鳥は雑に選んだのではないのだと俺は内心ほくそ笑んだ。


「母上、マリアはこの素晴らしい贈り物を雑に選んだだけと言っていたのですよ」


 いつも小言ばかり言われているから少しばかりマリアに仕返ししてもいいだろう。


「あら、マリアそんな事をアル君に言ったの?」


「いえ、それは…その…」


 しどろもどろにマリアが返答に困っていると、馬車が止まった。


「あら、着いたみたいね」


 ちょうど王城の前に到着したようで、マリアがすぐに馬車を降りていく。


「アルベール様、あとで覚えておいてくださいね」


 俺が馬車から降りると耳元で怒りに震えたマリアにそう言われて震えあがったのは言うまでもないだろう。


 やばい、やりすぎた。

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