第145話.チェックメイト
一方、リガル率いるロドグリス王国軍は、レオの奇襲のお陰でヘルト王国軍を
目指す場所はもちろん、ゲルトへの道中に潜んでいるであろう、ヘルト王国軍別動隊の
そこまでの距離は、あと1時間ほど。
その時、リガルの読みが正しかったかどうか――。
更にはこの戦いの勝敗までもが決まる。
だが……。
(ヤバい……今更になって緊張してきた。もしも読みが外れていたら……)
外れていたら、逆に一気に不利な状況になる。
レオには退却の判断は任せているため、ピンチになったらしっかり逃げてくれるだろう。
だが、それでも再び合流するまでには、それなりの時間が掛かる。
つまり、各個撃破されてしまう可能性が高い。
レオに煽られてから時間が経ち、再びリガルの内に眠っていた弱い心が顔を覗かせ始める。
しかし……。
(今更もうどうにもならないか。後はもう自分を信じて突き進むしかない)
今回は運良く、状況がリガルを支えた。
すでに、引き返すことが出来ない場所にまで来てしまったのである。
逃げようにも逃げられない。
結局、不安を胸に
ついに、目的地の1㎞ほど手前の地点に、リガルたちは辿り着いた。
到着すると、リガルはすぐさま斥候を放ち、その場所にヘルト王国軍別動隊が潜んでいるかどうかを確認させる。
その十数分後……。
「ご報告申し上げます! この先にヘルト王国軍魔術師と思われる人影が多数! ヘルト王国軍の別動隊で間違いないと思われます」
「よしっ!」
リガルの読みが正しかったという事を告げる報告が入る。
思わず、リガルは周囲を
――やはり、自分の読みは正しかった。
そう思っただけで、リガルは少しだけ心が軽くなったような気がした。
こうして、リガルは敗北から来る、不安という呪縛より解き放たれた。
天才リガルの、完全復活である。
「それじゃあ、行こうか。勝利を掴みに!」
そして、そう高らかに宣言すると、ロドグリス王国軍は歩みを始めたのだった。
ー---------
「いいか?
そして、ヘルト王国軍別動隊との戦いが始まった。
この戦いでは、敵の兵力を減らすことが目的となっているので、出来れば一人たりとも逃がしたくない。
という訳で、1000人以上がいると思われる別動隊に対して、少し難しいが包囲作戦を行うことにした。
戦闘を開始する前は、敵にバレていない状態なので、こっそりと敵の周りに魔術師を配置したのである。
その結果は、成功だった。
突然全方位か攻撃された敵は、何が起こっているのか分からないと言った様子で、一方的に殲滅されていく。
反撃はリガルが想定していたよりも、遥かに弱々しかった。
しかし……。
(読みが当たった以上、勝利するのは当たり前。その上で、敵魔術師をどれだけ逃がさないか。それと……)
「余裕があれば、敵魔術師は殺さずに無力化するだけにしてくれ!」
こうなると、もう勝つだけでは満足できない。
してはいけない。
とはいえ、逆に強欲になり過ぎて、包囲を破られてしまったら逆に大きな損失が出てしまうので、その辺の
敵魔術師の捕獲は、あくまで「余裕があれば」だ。
そんな風に、ギリギリまで強欲に、ただし最後まで気を抜いたりすることは無く、じわじわと敵を追い詰めていくこと1時間半。
ついに予期していた問題が起こる。
それは、ポール将軍率いる、ヘルト王国軍の到着であった。
(流石にレオも、こっちのカタが付く2時間の間、完全に足止めしきることは不可能だったか。だが、1時間半持ってくれただけで上出来だ)
今更ヘルト王国軍の援軍が来たところで、もうこの流れは止められない。
戦いが始まった時よりも、戦力差は圧倒的に開いており、包囲も分厚くなっている。
序盤なら、多少兵力を集中させれば突破できた包囲も、今はそう簡単に風穴を開けることは出来ないだろう。
そういうことを考えると、正確なタイムリミットは、2時間ではなく1時間程度だったと言える。
「さて、それじゃあポール将軍の率いている部隊の対応をしていこうか。面倒なのは、敵に回り込まれたりすることだ。別動隊を
リガルは戦いを終わらせるべく、落ち着いて指示を出していく。
複数の事を同時にやろうなどと、
だからこそ、別動隊の殲滅と、ポール将軍の率いる本隊への対応を同時に行ったりはしない。
まずは別動隊の
ポール将軍の対応はその後。
きっちり優先順位を付けて一つ一つ片づけていく。
勝ち急いでミスを犯すような愚行は絶対にしない。
そういった冷静さを、今のリガルはちゃんと持ち合わせていた。
そのせいもあって、ポール将軍は中々リガルに付け入る隙を
元々ポール将軍は、別動隊を救援すべく、レオ率いるロドグリス王国軍の別動隊を倒すことで必死だったのだ。
その後の作戦など考えていない――というより、そんな余裕などある訳ない。
結果、リガルのシンプルながら冷静で堅実な立ち回りを、崩すことが出来なかった。
結局、ポール将軍が正面突破を仕掛け、それをリガルがのらりくらりと
だがその必死の攻撃は実らず、時は無情に過ぎていき、ヘルト王国軍の別動隊は数を減らしていく。
ポール将軍もこれには焦りを見せ、必死に突破を目指すが、リガルにそんな単調な攻撃は通用しない。
落ち着いて相手と同じだけの数を使って対処する。
逆に、焦れば焦るほど沼にハマってしまい、突破どころか逆に押し返されようとしていた。
仕方なく一旦
しかし、ヘルト王国軍にとっての悪夢はまだまだ続いた。
それはまるで、波の如く。
まず、一番最初の変化は、ロドグリス王国軍が、ヘルト王国軍の別動隊を完全に
いや、まぁ殲滅というか、一部のヘルト王国軍魔術師は、投降したので滅されてはいないが。
しかしいずれにしても、別動隊が完全にやられたということに変わりはない。
そうなると、ロドグリス王国軍としても、全力を
これまでは
互いの兵力は、ヘルト王国軍3500に対して、ロドグリス王国軍は3800。
僅かだが、ついにロドグリス王国軍が、ヘルト王国軍に対して兵力で上回ったのである。
さらに、それだけではない。
このタイミングで、レオ率いるロドグリス王国軍の別動隊が、突如その姿を現し、ヘルト王国軍の背後から襲い掛かったのである。
実はこのレオの行動が、非常にファインプレーだったのだ。
レオは粘ったものの、ポール将軍との戦いで一時は敗れてしまう。
だが、兵力的な損害はほとんど受けなかったのである。
しかも、ポール将軍に敗北した後も、撤退したように見せかけて、その後を一定距離明けて追い続けた。
そのせいで、ポール将軍は再度の奇襲を警戒せざるを得ず、行軍スピードは低下。
これにより、1時間半もの時間を、ポール将軍は不意にさせられたのだ。
さらに挙句の果てには、最悪のタイミングで出現し、ヘルト王国軍を襲う。
もちろん、偶然このタイミングだったわけではない。
レオたち別動隊が到着してすぐにヘルト王国軍への攻撃を開始したら、ポール将軍は間違いなく撤退していただろう。
ヘルト王国軍の別動隊は、ポール将軍が到着した時点ですでに虫の息だったのだから。
そのため、レオは敢えてその時点では姿を現さなかった。
息を潜めて身を隠し、ポール将軍に、「まだ別動隊は助かるかもしれない」という希望を
そして、リガルがポール将軍への対応に全力を出せるようになったタイミングに合わせて、レオは攻撃を開始したのだ。
ポール将軍としては悪夢だった。
一つですら解決が困難な仕事が、一気に複数襲い掛かってきたような感覚。
天才ポール将軍と言えど、こうなってはもう手遅れだった。
――チェックメイト。
もう、この局面はポール将軍にとって詰んでいる。
あとポール将軍に出来ることは、リガルがミスをするように祈ることくらいだった。
しかし、リガルはミスなどしない。
確実に、じっくりとヘルト王国軍を追い詰めていく。
そして、日を
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