第50話 帰路につく

 そろそろ、タルダに帰らないと。

 依頼掲示板でちょうどいい護衛依頼を探す。

 うーん、A、B、C、Dランクは全滅。


「これかな」

「良いんじゃない。帰り道だし、贅沢は言えないよ」

「じゃこれにしよう」


 あったのはEランク。

 乗合馬車の護衛だ。


 護衛は徒歩で移動とある。

 自前の車で移動しても良いよな。

 問題ないはずだ。


 集合場所に行くと人の好さそうなおじさんがニコニコとしていた。


「依頼を受けてきました」

「はい、よろしく。従魔が沢山いて、心強くていいね。こりゃ安心だ」


 御者のおじさんはライオン達を見て感心したように言った。


「出発しよう。みんな乗り込んで」


 御者のおじさんが声を張り上げ、乗客は馬車に乗り込んだ。


「【具現化】オープンカー」


 御者のおじさんが目を丸くするのが分かった。

 こんな物で驚いもらっては困る。

 こんなの基本技だ。

 御者のおじさんに自慢しても仕方ないから、しないけど。


 車輪が軋んだ音を立て、乗合馬車がゆっくりと進む。

 長閑だな。


「マリー、警戒を怠るなよ。シェードの野郎がどんな策をしてくるか見当がつかない」

「うん、気をつける」


 2日目の野営までは問題なかった。

 3日目、前方によろよろと歩く人の姿が見える。

 その歩き方はゾンビを思わせ、不気味な感じがした。


「おじさん、馬車を停めて。敵襲だと思う」


 馬車を停めて、ゾンビと思われる人に近づく。

 風体はぼさぼさの髪に手入れのしていない皮鎧。

 やっぱりゾンビかな。

 すると突然ゾンビと思われる人が倒れた。


 行き倒れ?

 それとも盗賊の囮。


「イオ、調べてきて」


 ライオンのイオが頷くと倒れた人に近づく。

 匂いを嗅ぐような仕草をしてから、帰ってきた。


「演技か」


 首を振るイオ。


「もしかして、死んでるのか」


 頷くイオ。

 おー、行き倒れか。

 これは何かの策略なのか。

 でも疑っても損にはならない。

 時間を取られるだけだ。


 ええと、考えられるのは毒、伝染病、行き倒れ。

 この三つが有力候補だな。


「イオ、毒はあったか」


 首を振るイオ。

 毒は可能性から消えた。

 伝染病かどうかはどう聞けば良いのやら。

 素直に聞くか。


「病気で死んだと思うか」


 首を振るイオ。

 なんだ行き倒れか。

 いや待てよ。

 偶然にしては出来すぎている。


「イオ、行き倒れだと思うか」


 首を振るイオ。

 おっ、行き倒れじゃないのか。

 じゃ何だ。


「マリー、死因は何だと思う。毒、病気、行き倒れは除外できる」

「そんなの決まってるわ。魔法よ」


 その推測はありなんだが、術者がそばにいない。

 それに不可視の攻撃は限られる。

 真空にして殺しでもしたか。

 何のために。


 そんな事が出来るなら、俺達も窒息しているはずだ。

 攻撃魔法の線はないだろう。

 血しぶきも上がってない事だしな。


「不可視の魔法って何があると思う」

「呪いね。恋のさや当てに呪いは不可欠」

「呪いか。考えてもみなかった。イオ、呪いか」


 頷くイオ。

 おいおい、呪いか。

 伝染するタイプじゃないだろうな。


「イオ、呪いの核となるような物があったか。あるなら持ってこい」


 イオが男の遺体をまさぐり、本を一冊咥えて戻ってきた。

 見るからに禍々しい本だ。

 血の色の表紙に灰色で髑髏が書いてある。


 その時、本の周囲が歪み、数十のスケルトンを生み出した。


「ライオンさん、スケルトンをやれ」


 ライオン達がスケルトンをかみ砕き退治する。

 物騒な本だな。

 触ったら呪われそうだ。

 イオが咥えてもなんともない所から、ポリゴンに対する影響はないと見た。


「マリー、呪いはどうやって解く」

「聖魔法を使うのよ。聖職者なら使えるわ」


 そんな物の持ち合わせはない。

 ええと、形だけ真似たらなんとかならないかな。


「【作成依頼】教会を頼む」

「作成料として金貨58枚を頂きます」

「分かった」

「作成完了」


 ええと封印する為の箱を作ってと。

 あれ、魔法テクスチャーに聖魔法がある。

 もしかして、教会は要らなかったかな。


「まあいいや。【具現化】教会と封印の箱。イオ、封印の箱の中に本を入れて」


 本が封印の箱の中に収められる。

 俺は魔力を流し聖魔法を発動した。


「浄化出来たと思うか」


 首を振るイオ。

 しょうがない教会の中に封印の箱を納めよう。


 教会の扉を開け祭壇の上に封印の箱を置く。

 そして紙に封印の箱の説明を書く。

 ここの管理を誰かやってくれないかな。


「おじさん、アンデッドを吐き出す呪物は封印したけど、魔力が切れるとまたアンデッドを吐き出すと思う。毎日、魔力を奉納してくれる人が必要だ」

「そりぁ、大変だ」


「あのう、私が残りましょうか」


 みすぼらしい女の人が名乗り出た。


「こんな何もない所で暮らすのは大変だよ」

「ええ、ですが。実家に帰っても、どうなるか分からないのです」

「なら金貨30枚を寄進するから生活物資を買うと良い。食料もいくらか置いていくよ」


「私の馬車がここを通る時は面倒をみます」


 呪いの本騒動は治まった。

 シェードの野郎、見境がないな。

 だが、奴がやったという証拠はないがな。

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