第3話 小さな復讐

「私がついて行かないで大丈夫?」

「ああ、待ってろ。昨日の借りを返してくる」


 マリーから聞いて奴らのねぐらに行った。

 いたいた。

 これからやられるとも知らないでのんきにパン食ってやがる。


「ばーか、ばーか」


 俺はやつらを挑発した。


「なにおう。やるぞ。今日は許さねぇ」

「【具現化】【具現化】【具現化】……【具現化】」


 俺に向かって駆け出してくる三人。

 俺はモデリングしておいた四面体を出してばらまいた。

 なんちゃってまきびしだ。

 その名もガラス片。

 反射率を抑えて出来る限り透明にした一品だ。

 透明にし過ぎると例によって具現化エラーになる。


「痛た」

「何か透明な物があるぞ」

「くそっ」


 はだしだから痛いのは当たり前だ。


「いつまで耐えられるかな」


 俺は四面体の位置を頻繁に変える。

 アニメーション機能は無いが、位置を変える事は出来るんだよね。


「くそっ、痛くて歩けない」

「強盗するから天罰だよ」


「おい、その手に持っているのはなんだ」

「馬糞だけど」


「おい、まさかな」

「そう、そのまさかだ。臭くなっちまえよ」


 馬糞をさんざん投げつけてやった。


「覚えてろよ」

「そうだ。足の傷が治ったら仕返しに行くからな」

「その時は許さねぇぞ」


「その時があればね。あー、すっとした」


 ポリゴンを全て消して、マリーとの待ち合わせの場所に急ぐ。

 途中、井戸で手に付いた馬糞を落とすのを忘れない。

 水を汲む桶を覗き込むと、知らない顔があった。

 髪の毛はなんと青。

 地球の人類にはない色だ。

 某SFでは原罪を現す色だったっけ。

 それにディザって名前は女の子みたいだ。

 文句を言っても仕方ないが。


 土産物屋の前でマリーを見つけ俺は微笑んだ。


「やっつけたの」

「ああ、やってやったさ」

「売り物は用意できたかい」

「ああ、12個。銅貨120枚くれよ」

「はいよ、銀貨1枚と銅貨20枚」


「よし、マリー宿を取ろう」

「宿屋に泊まるのは初めてなんだ。楽しみ」

「ちなみにマリーは何歳なんだ」

「分かんないけど、たぶん6歳ぐらいかな」

「俺も6歳だ。同い年なんだな」

「えへへ、ディザと一緒」


 宿屋街に行くと道行く人が俺達の事を白い目で見る。

 やばい、容姿の事を考えてなかった。

 泊まれるだろうか。


 素泊まり銅貨30枚の宿があったので入ってみる。


「浮浪児がなんのようだ」

「金ならある。泊めてくれ」

「駄目だ。帰った帰った」

「そんな」


「泊めてやりなよ」


 女冒険者が俺達に助け船を出してくれた。


「お客様、宿屋の方針に口を挟まないでもらいたい」

「この宿は身分で差別するのかい。かくいう私も浮浪児の出身だよ。そんな事をいうと冒険者が全てこの宿から居なくなるよ」


「ぐっ、仕方ありませんな。おい坊主、金は持っているのだろうな」

「はい、銀貨1枚。おつりの銅貨40枚を忘れないでね。こう見えて計算は出来るんだ」

「二人部屋なら銅貨50枚だ」

「ならそれで。お姉さんありがと」


「どう致しまして。坊主は何か大物になりそうな予感がする。冒険者としての勘だよ」

「実はスキルを持っているんだ」

「へぇー、覚醒者様か」


 覚醒者について聞いてみよう。

 ディザの記憶にもスキルに目覚めた者という以外の情報はない。


「その、覚醒者ってなんだ」

「知らないのかい。スキルを持っている人の事さ。生活に根ざした物を獲得するとされている。一般人の数百倍の戦闘力があると言われているよ」

「数百倍? うーん、ないな」

「ちなみに坊主のはどんなスキルなのさ」

「生産系かな」


「それは微妙だね。でも金持ちにはなれそうだ」

「うん、宿に泊まれるぐらいにはね。マリー、行こう」


 スキルを持っていると言った時に女冒険者の目が光ったような気がした。

 目を付けられたかな。

 まあ、スキルは隠せないから、仕方ないだろう。


「うわー、ふかふか。柔らかすぎて、今夜、眠れないかも」

「眠れないなら、お話をしよう」

「どんな」

「俺って何時から路地裏に居る?」

「分かんない。出会ったのはええと」


 指を折るマリー。


「ええとね。十日がまた十個ぐらいかな」

「百日ってところか」


 ディザの記憶とも大体合っている。


「たぶんそのくらい」


 帰るのはどうか。

 スキルの使い方が分かったので、いまさら元の家の門を叩いてもな。

 使い潰されるのが目に見えている。

 それに身元を保証するような物も持っていない。

 たぶん訪ねても門前払いだろうな。


「マリーは何時から路地裏に?」

「一年前に捨てられた。お母さんが死んだから」

「父親はいないのか」

「うん、いないよ」

「スキルの事はどこで知った?」

「お母さんの口癖がスキルを持つ男と一緒になって、ごみ溜めを出るんだだったから」

「それはなんとも。一つ謝りたい事があるんだ。マリーと出会った時にはもう俺はスキルを持ってたんだ」

「なんだそんな事。何か隠してたのは知ってたけどそれだったのね」

「捨てられた原因なんだ。それで言いたくなかったんだと思う」

「べつにいいよ。みんな言いたくない事が一つぐらいあるでしょ。それに打ち明けてもらったから」


 ディザの記憶にあるマリーへの罪悪感が消えはしないが減ったような気がした。

 俺はディザの魂を乗っ取ったような物だから、これが罪滅ぼしになるといいな。


 今、俺が恐れるのは監禁されて金を生み出す道具にされる事だ。

 そうなったら抜け出すのは容易ではないだろうな。

 あの女冒険者には既に知られている。

 彼女に思い切って相談してみるか。

 悪い奴だった場合は死なばもろともぐらいは出来るだろう。

 よし、明日の朝、相談してみるぞ。

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