第11話 宝石と不明な突入経過
ノーンズ達5人が突入していくのを見送って、イアリアとアクレーは待機だ。もっとも、アクレーは小屋から出てくる相手を無力化する役目がある為入口が見える場所からあまり動かないが、イアリアは周囲に設置した魔道具に魔石を補充して回る為、谷が埋まって出来た平地の周りを歩き回る必要がある。
なおこの魔道具の事を、イアリアは「魔力を追い出すもの」と説明したが、正確には少し違う。正しくは「特定属性の魔力を引き寄せて中和、無属性の魔力に変える」ものだ。これを全属性分設置して「全ての魔力を引き寄せる」事で、効果範囲内から魔力を奪う、という形になる。
なので起動時には属性の無い魔力が必要だが、後は属性の魔石さえ切らさなければ中和されて発生した無属性の魔力で発動が維持される。魔力は生物の意思によってのみ操作、制御され、現実を上書きする力だ。それに干渉するのは、やはり魔力であり魔法しかない。
「ま、神様の力だというのなら、それも当然の話かも知れないけれど」
なおイアリアは全くの無自覚だったが、神様……この世界を創った創世の女神に連なる眷属の一番の下っ端もとい下位階級の、属霊、という存在と契約を交わし、魔力を融通してもらう事で扱える魔力の量が無限になっていたりするし、師匠こと「
さらに言えばそのナディネも恐らく同様に契約しているし、その上「魔王」と呼ばれる存在を討伐に向かいトドメを刺した際、呪われたせいで不老不死になって300年ほどを生きているとかいう爆弾情報が出てきたのが、この依頼を受けたアイリシア法国中心部の大聖堂での事だ。
まぁそこからも邪神だのその依り代だの邪教だのと色々出てきたし、その依頼というのは邪教の関係者がいるらしい場所に出向いて、出来る限り生きた状態で確保、その目的を阻止する、というものだったのだが。
「……やっぱり、思っていたより消耗が激しいわね。溜め込んでいる分なら途中から消費が減る筈だから、やっぱり
夜の山道、それも曇りの新月という視界がほぼゼロになる暗闇の中を移動するのは、実質自殺行為だ。ただしイアリアはこれも魔道具で、闇の中を見通す事が出来る……夜目が野生動物並みにきくようになる魔法が使える魔道具を作り、それを身に着けていた。
なので、全く光が無く、闇に沈んでいるといっていい中でも道を踏み外す事無く、余計な物音も立てず、魔道具の設置地点を回る事が可能だった。なお同じ魔道具はアクレーにも渡している。
ノーンズ達にも渡したが、当然ながら発動している間は強い光に弱くなるという弱点を伝えたところ、持ち込みはするが着けるかはその時々で変える、という形になっている筈だった。
「ま、それはそうよね。少なくとも、推定邪神の、人の心もしくは思考を操る能力は、強い光を浴びせる事で弱らせるか解除できるんだから。もちろん、邪教の神官にどこまで効くかは分からないというか、たぶん効かないでしょうけど」
まぁそんな独り言を呟きつつ、魔道具の設置点を巡って魔石の補充作業を続けているイアリアも、油断はしていなかった。なおイアリアでは本気で隠れて様子を窺っているアクレーがどこにいるかは分からないので、近くを通りかかるたびに会話する、とか言う事も無い。
逆に言えば、何か動きがあるかどうかは自分で確認するしかない状態だ。だからこそ魔道具に魔石を補充する為に夜の山を歩き回りつつも、拠点の地上部分である小屋に変化がないかはずっと気にしていたのだが。
「え?」
何の変化もなく、空は星すら分厚い雲に覆い隠されている為時間の変化が分からない。それでもイアリアは自分の歩くペースを基準として、1周で大体半時間ぐらいかかる事を確認し、経過した時間を数えていた。
もちろん多少のブレはある。だがその数え方で、2時間ちょっと経過したところだろうか。イアリアは、辿り着いた魔道具に残っていた魔石の量に首を傾げた。
マナの木は非常に魔力の伝導率が良い。だからこそ魔道具を作る為の材料に使った訳だが、わざわざそれで大きな箱を作って、本体である棒を真ん中に通すような形で設置したのは、魔石の量に余裕を持たせる為だった。
にも、関わらず。
「――[風よ吹け、吹いて回れ、回って巻き上がれ、あらゆるものが天の果てまで吹き飛んでしまうまで]!」
イアリアが確認した時、風属性の魔石が入ったその魔道具……土属性の魔力を引き寄せ中和するものの箱の中には、魔石はいくらも残っていなかった。
そしてそれはそのまま、効果範囲内。すなわち、あの小屋がある谷だった地形のどこかで、大量の土の魔力が放出されているか、土の魔石が作られている、という事だ。
そしてあの小屋は、少なくとも制御が未熟な魔法使いが作ったものであり。
土属性に適性がある魔法使いがいる事が、確定している。
つまりはこれは、内部でその魔法使いが魔力で何かしようとした結果であり、それは高確率で、突入したノーンズ達に害を与えるものだ。
「生憎、私が一番得意なのは風属性の魔法なのよ! [渦巻け逆巻け、空気の層は見えない刃、荒れ狂って万物を切り刻め]!」
もちろん、それを良しとするイアリアではない。魔力を消費し続ける代わりにずっと効果が出る魔法を立て続けに2つ構築し、大量の風属性の魔石を魔道具へと供給し始めた。ほとんど空になっていた箱が、あっという間に緑色の宝石のような物で埋まっていく。
……しかし、半分ほど埋まったところで、減っていく速度が追いつき始めた。それだけ土属性の魔力が発生し、引き寄せられ、ここで相殺されている、という事だ。
「……急ぎなさいよ、ノーンズ。魔力の量に底は無いけど、継続出力の勝負だとちょっとどうなるか分からないんだから……!」
もちろん、それを伝える手段は、無い。
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