理想の箱庭ができるまで
おとしもの
第1話 主人公は二度死ぬ
僕は10歳の頃、国指定の難病にかかってしまった。小学校はぎりぎり車いすとかで登校できたけど、13歳の頃にはもう入院しなければ生きることができない体になっていた。
中学校の入学式にも出ることができなかったけれど、親がパソコンを買ってくれた。診てくれる先生も病室には光ファイバーを引いてくれた。おかげで、病室にいながら広い世界を知ることができた。
ただ13歳だったその時から今の今まで、パソコンを使っていたのはあるゲームをプレイするためだったのは、ほんの少し罪悪感を覚えるけれど。
イデアルダンジョンシミュレーション(Ideal Dungeon Simulation)、IDSと略されたこのゲームはシミュレーションゲームの割に作り込みと自由度が高すぎる、とリリース当時話題だった。
どうにも制作会社はユーザーがダンジョンを作りその攻略難度で競う、みたいなオンラインゲームを作りたかったらしい。というかそのゲームは殆どリリースできるところまで完成間近だったらしい。
だが創ったダンジョンの難易度を測定するためのプログラムが、なんというかどうしようもないくらいに稚拙だったらしいのだ。
一つの例としては、あるダンジョンとあるダンジョンの比較がまともにできないというもの。
①1㎢の内部面積を持つものの通るルートが一つのくねくねした造りの大洞窟。
②0.01㎢の中に狭い通路で作り上げた分岐が大量にある迷路。
大洞窟にはドラゴンが5匹棲んでいる設定で、迷路のほうには簡単な落とし穴しかない。
テストプレイの際に、このような条件で試した結果、迷路のほうが”ギリギリ”難しいと判定されていた。
攻略する上で①ではドラゴンをすべて倒せばいいのに対し、②ではトラップの警戒を分岐した先ごとに行わなければならないというプログラムのために、”ギリギリ”難しいという判定が出た。
テスターも、”ギリギリ”であればまぁそういうものなんだろうと見逃していた。
しかしあるときデバッガーが、①にドラゴンを5匹と言わずに、10匹、100匹、1000匹ならどうかと思いやっていた。
すると、ドラゴンを何匹配置しようが”ギリギリ”で迷路のほうが難しいと判定されたいた。
モンスターやトラップ、ルート分岐、など様々な要素から攻略難易度の判定がされるのだろうが、何故かルート分岐を増やしていくとモンスターに関係なくルート分岐が多いほうが難しいと判定される。
リリースまで2か月を切っていた制作会社は、”ダンジョン製作×競い合う”という方針から、”ダンジョン製作×美少女”という方針へと大きく方向転換した。
制作会社はダンジョン特定階層守護者として、美少女の3D キャラクターのカスタマイズができるようにした。種族や容姿だけでなく名前や、誕生日、性格、好きな食べ物、嫌いな食べ物、生い立ち、ダンジョンマスター(主人公)に対する好感度などなど、気持ち悪いくらいに作りこめる。
制作会社はそんなことをしているうちに狂いだしたのか、オンラインゲームとして使うはずだったサーバーの契約料金を、更なるカスタマイズ先に突っ込みだした。
ダンジョンの管理室、兼守護者やダンジョンマスターの居住区。つまり、建物とその内装。そしてさらに気持ち悪い要素として、守護者たちのメッセージを表示するためだけにAIに様々な作品のヒロインのセリフを深層学習させ、設定された性格や過去の境遇、好感度などから出てくるセリフを自動生成できるようにした。
まとめるとこうなる。”シミュレーションゲーム”として、ダンジョン(各階層の内装、天候、出現モンスター、等)、美少女(名前、種族、容姿、性格、等)、ダンジョンマスター(名前、種族、容姿、等)、ダンジョン管理室兼居住区(名前、外装、間取り、内装、等)の設定をした上で、ダンジョンを攻略しようとする敵の強さを選んで、どれくらい攻略に時間がかかるのかをシミュレーションできるゲーム。それがイデアルダンジョンシミュレーション。IDSなのだ。
当時中学生だった僕からしても、そりゃあ話題にもなるだろうなぁという感じだ。
そんなゲームをプレイしていたらいつの間にか16歳になっていた。三年間毎日プレイできていたわけではないが、気づけば合計プレイ時間は10000時間を超えていた。
……僕の命も、もう永くないのはわかってる。実際、半年前位から手は動かしづらくなってきてたし、最近なんか視線のセンサーでパソコンを操作してるくらいだし、思考を口から出すこともできなくなってきた。
だからこそ先週位から、僕の理想を再現できたダンジョンと少女達の設定を深く読むことにした。
もちろん遺書らしき文章もちゃんと書いた。
あぁ眠たい。ちょうど全員の設定を読み終えることもできたし、今日はもう寝るとしよう。
一週間もかかるって、どれだけ作りこんだんだ僕は……。
どうせ明日も見ることになるだろうゲーム画面を閉じて、とりあえず遺書のファイルを開いておく。そして、病室の電気を消す。
おやすみなさい。
**************************
え?
「え?」
眩しくなり目を開けてみると、天井に柄がついていた。病室と同じで白いのには変わりないのに、なんで模様があるんだ?
え?なんだ?何が起きている!?
まず僕は、なんで病室の天井が変わっているんだ?という事に驚いた。その次に、”声が出たこと”に驚いた。
頭の中で病室の天井とは少し違う天井のことを処理しようとする前に、声が出てしまったことを処理しようとしている。
だめだ。一旦目をつぶろう。落ち着け、冷静になるべきだ。
……え!?指が動く!?どういうことだ?いきなり病状が回復したのか!?寝ていた間に何があった!?
僕は咄嗟に目を開けて、ガバッと起き上がった。
起き上がった!?え!?
首をグリングリン捻り、自分の上半身がベッドから離れていることをこの目で確認できた。
「何か月ぶりだ……?いや、年単位か……?」
え?なんだこの現象は。なんだ?何が起こってるんだ?昨日まで動かしたくても一切動かなかったぞ。なんだ?訳が分からない。
落ち着くなんてこともできずに視線をさ迷わせていると、ドアとベッドと窓の位置関係に見覚えがあった。薄茶色の壁に、よくわからない絵画。ローマ数字でもアラビア数字でもない時計。そしてこの寝室にしては病室なんか比べ物にならない広さ。この部屋のすべてに見覚えがある。
何せ自分で配置した間取りなんだから、覚えていて当然だろう。
「ここって、僕のダンジョンの自室じゃないか!」
思わずそう叫んだ直後、僕の目の前に1人の美少女が突如として現れた。
得意な武器を持ち、僕を射殺さんばかりの視線を向けながらではあったが。
「レ、レティーシャ?]
僕が設定した守護者だ。なんで、なんでなんだ?本人なのか?なんで存在しているんだ?なんで怒っているんだ?
「何故私の名前を知っている!ここにいるだけでなく、更に私を怒らせる気か!」
しかし、守護者統括のレティーシャ、フェニックスをモチーフにして真っ赤な髪色のレティーシャは待ってくれない。
「ま、待ってくれ。僕だって知りたいんだそれは!レティ、なぁ少しでいいから待ってくれ!」
「その愛称で呼んでいいのは、あのお方だけだ!」
普段呼び出すとき、レティと打ち込んでいたためそう呼んだのだが、火に油を注ぐだけだった。
僕が認識できない速度で何かをしたらしく、一瞬の熱さを感じたが、それを認識する前に僕の意識は切れた。
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