第二十九話 四条一道の実力
「僕が協力するには条件がある。藍澤君、僕と勝負してくれ。それで僕は皆に協力するか決めようと思う。」
突然の四条さんの言葉に僕は思考が追いつかず、皆も最初は言葉が出ていなかった。
「ど、どうして藍澤君と戦うことになるんですか!?」
紅が立ち上がり、両手をテーブルにつけて叫んだ。
「これはあくまで僕の問題だ。だから身勝手に思うかもしれないけど、武田さんたちだって僕たちに戦って欲しいと頼むこと自体、そっちの身勝手じゃないか? だからまぁ、等価交換みたいなものだよ。」
どうやら四条さんは僕たちが身勝手を通すのだからこちらの身勝手も通して欲しいのだと思った。それに対し僕は理解できたが、四条さんの能力を思い出す。
「四条さんの能力って、弓ですよね?」
僕は分かりきっていることだというのに、恐る恐る聞いた。
「あぁ、僕の能力は弓だ。それに加えて弓兵としての視力強化もある。僕はアーチェリーも弓道もやったことはないが、能力発動時は弓の扱い方も当然上手くなる。」
四条さんは淡々と自分の能力について明かしていく。四条さんは武田さんと同じく武器系の能力、つまり戦闘に向いているように感じられた。それに比べて僕の能力は氷だ。氷の力で戦う漫画やアニメのキャラクターは一杯いるが、熟練度で見ると僕はまだまだだった。だが、戦わなければ四条さんの協力が得られないなら、戦うべきだと思った。戦力は多ければ多いほどいい、考えをまとめると僕は四条さんを見上げて答えた。
「分かりました。」
全身から一気に冷や汗が噴き出してきているのを感じた。四条さんがどこまで本気なのか、それを僕ははかりかねていた。
「いつやるんですか?」
僕はまだ動揺を隠しきれないまま、四条さんに聞く。
「今からだ。」
四条さんはスパッと言う。だが僕には意味がわからなかった。
「い、今からって、まだ夕方ですよ!?」
「そうですよ、こんな時間にやったら、私たちのことがバレちゃいますよ!」
僕と紅は四条さんに反論した。今から戦うということは世間に僕らの存在を知らしめるようなものだからだ。だからこそ武田さんと僕は深夜にダイバーと戦っていたのだ。
「大丈夫だ。戦う場所はロストシティ、誰もいない場所だ。」
四条さんは冷静に話していく。
「あの一帯は工事なんかも無い完全に無人の場所だ。あそこなら誰にも見られる心配は無い。」
この会話を聞いていた武田さんに大門地さんはもちろん、僕と紅も返す言葉は無かった。
「さぁ、急ぐよ。夕飯までには終わらせたいんだ。」
そう言って四条さんは出かける準備をする。あっけらかんとしている僕の背中をを武田さんがポンと叩いた。僕は荷物の準備を急いで始める。紅は心配そうに見ているが、四条さんは
「紅と武田さんも来てほしい。」
紅は驚いていたが武田さんが分かったと言ったので慌てて準備し始めた。大門地さんは行ってらっしゃ〜いと僕らを送り出してくれた。こうして四人でロストシティへと向かうことになった。
ロストシティに着く頃には夕陽が綺麗に見える時間帯になっていた。僕たちは周囲を見回して誰も見ていないことを確認してからロストシティへと入っていく。さらにそこからは能力による身体強化を用いて走り、奥部へと走っていく。数分走ったところで四条さんが止まった。
「藍澤君、ここで戦おうか。」
そう言って四条さんが指定した場所は廃ビルに囲まれ、外からは見にくい道路だった。木々はとっくに枯れ果て、ビルも多くの窓ガラスが割れている。僕は茫然とビルを見回していると、四条さんが口を開く。
「僕と藍澤君は最初数十メートル離れ、僕が藍澤君に矢を放つ。君に当たった矢の本数が制限時間内に三本以内に抑えられていたら藍澤君の勝ちだ。そしてお互いにその場から動いていいのは半径一メートル圏内とするよ。」
「矢って、本物の矢なんですか?」
僕は恐る恐る聞く。本物の矢ならこの戦いは命懸けのものとなる。僕は本物の矢を使うと言った場合、どう行動するかを考える。いくら身勝手を許したと言っても命を懸ける道理は無い。その場合は即座に凍らせようと脳内で思考する。心臓の鼓動は高鳴り、ドクンドクンという音を感じる。
「あぁ、僕が使う矢は矢先に吸盤が付いてる矢だ。お祭りの景品とかにあるようなおもちゃ用の矢の大きいサイズバージョンと言えばいいかな。当たっても怪我はしないよ。」
その言葉に僕の脈拍は正常へと戻っていく。
「制限時間は三分だ。武田さん、測っておいてもらえますか。」
そう言って四条さんは学ランのポケットからスマホを取り出し、武田さんに渡した。
「四条さんと紅さんは離れていてくれ。」
紅と武田さんは四条さんに促されるまま道路の脇のガードレール付近まで離れた。僕と四条さんは車道に沿って二十メートル弱離れる。
「武田さん、合図をお願いします。」
武田さんは軽く返事をしてから高らかに声を上げた。
「よーい、スタート!」
一瞬、何が起きたか分からなかった。武田さんの合図から一秒だろうか、僕は気付けば尻もちをついていた。僕は自分の周囲を見ると、四条さんが放ったと思われる矢が僕の近くに転がっており、胸部に痛みを感じていた。
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