第5話 落ちてきた機体


 どれだけ走っただろう、だがまだ半分以上もある。

 


 その頃大会ではケイと、ナキートの戦いが始まった。ケイはその機動力を持って、ナキートを翻弄していた。 ナキートの機体はさっきとは少し違い、棘のついた、バッドのような鉄と、これまた棘のついた重そうなハンマー型の腕をした機体でケイを迎えていた。



 試合は夕方の5時で終わる。 今の時刻は4時を回っていた。 このペースでジープを飛ばせば、50分までには格納庫につくが、そこからシルフィーを飛ばしても、10分はかかる。

 どうしたって間に合わない。 だが、もし大会が何らかの形で時間が押していたら、そんな期待を込めて、2人は飛ばす。



 バビルはスポンサーたちを集めてなにやらもめていた。


「あのバカはなんてことを言うんだ。 あれで勝てる見込みもないくせして」


「申し訳ありませんバビル様」


「もし、あの青年が機体を持っていたらどうするつもりだったんだ。 あんなせこい真似をしても勝てんかったパイロットが」


「大変申し訳ありません。 彼も試合を目立たせようと、あのような過度な演出を行ったようでして」


「だったら、軽率がすぎる。 もっと考えて盛り上げるべきだろ。 特に発言に気を付けろさせろ。あれで、アイツが負けたら、金はどうなる」


「はい、おっしゃる通りです。 あれはあまりにも軽率が過ぎます。 本人にもちゃんときつくお灸をすえておきますゆえ。何卒多めに」


「今度何かあれば、もうここでの大会は行わん。 支援もな。 それと、あのパイロットは下ろさねばならんかもな」


「そ、そこを何とか。 我々だからこそ、この状態をうまく回せてこれました。 これを理解できるものが、この世界にそうはおりますまい」


 その言葉にバビルは考えさせられていた。 


「ふん。今度は気をつけろよ」


「はは」


「それで、今度の青い奴には勝てそうなのか。あのパイロットは」


「はい。それも、仕込みはばっちりですので」


「あまり、私を冷や冷やさせるな」


「はい。 申し訳ありませんでした」



 バビルに深々と頭を下げるスーツ姿の大人たち。 ナキートもまた負ける事が許されない。



「ダメだ。ライル、間に合う訳がねぇ」


 ライル達はまだジープを走らせていた。 それでも行くんだと。ライルも、間に合わない事を悟っていた。だが、やらずにはいられない。



 そんな時、空が煌めいた。 


「な、何だあれ」 


 ロデルはジープに身を乗り出して指刺す。 運転中のライルは見る事ができない。ロデルがその光が自分たちの方に向いて落ちてきている事に気づくと、すぐにハンドルを切って逃げろと叫んだ。 だが、ハンドルをきれば、自分たちの格納庫から遠ざかってしまうのでライルは、何を言っているんだと言う事を聞かなかった。



 そうしてジープを進めた先に、光がだんだんと大きくなり、ライルも肉眼で視認した。大きなものが落ちてきている。 それも自分たちの方に。ライルは慌ててジープを止めて下がる。


 だけどもう遅い、落ちてきた何かはライル達を目がげ、激突した。その衝撃にライル達は巻き込まれる。





 試合会場ではケイの機体が押していた。 ナキートの攻撃は2発当たったのを最後に、動きを読まれたように回避されていた。 だが、この時もケイの機体は今までよりもスピードや反応が落ちてたい事に違和感を覚えていた。 そのためにケイは二発の攻撃を食らって、頭とボディをへこませていた。


「ねぇ、ママ見て。 空から綺麗な星が落ちてきてるよ」


 観客席にいた家族連れの子供が一つの、空の物体を指さしていた。



 ケイの持つ日本刀のようなブレードがナキートを追い詰める。


「ありえない……、 こいつ、レミニア版をたたき切るだと!?」


 最後の一振りでナキートの機体を両断しようとした時だった。 



 バビル達も、口を開けて、この事態に驚いていたが、突然の振動が会場を襲った。

 悲鳴を上げる観客民。いくつもの瓦礫が落ちてくる。屋根がなかったことは幸いだったが、崩れ落ちるブロック塀をケイがジンクスで守っていた。 幸い、頑丈に作られた会場の為、崩壊することは無かったが、ケイのジンクスは右腕を破損した。



 ライルは埋もれた砂から顔を出す。 


「大丈夫かロデル」


「あぁ、あ。なんとかな」


 二人は生きていた。 


「一体何なんだよ」


 隕石でも落下したのか?こんな時に。と二人は落下物の近くまで見に行った。とてつもない熱を発していてなかなか近寄れない。 隕石なんて書物でしか読んだことがない二人は戸惑いだらけだ。


「何て熱だ」


 開けている目が、焼け落ちそうなほど熱かったが、2人は溶けた金属の箱を見て驚いた。中に入っているのは見た事もない、機体だった。


 ライルは急いで駆け寄ると、ジープに積んであった冷却スプレイ―を噴射した。


「これコックピットはあるのか? 動くのか」


「おい、下手に障るな。 誰か乗ってるかもしれないんだぞ。 まさか、変な生命体とか出てくるんじゃ」



 ロデルは、その機体のコックピットが開いているのを見た。


「これ乗れるぞ」

 

「ライル!」


 無邪気になっているライルをロデルが止める。 ライルはやけどを負いながらもその機体に乗り込んだ。


 コックピットの中は見たこともない形。探せど起動させるようなボタンすらなく、操縦席らしきシートに座るとそのまま操縦桿なのかわからないモノを握る。とコックピットが閉まって電源がつく。


「うわあぁぁ」


「ライル!大丈夫か、!何があった。 ライル!!」


 まるで食べられてしまったかのようなライルを助けるように、機体を叩いて安否を確認するロデル。


 急に画面が起動し、映し出されたのは一人のヘルメットをかぶった男だった。 ノイズがすごく酷い。


「やぁ、聞いてくれ。これに乗っている者に伝えたい。 これに乗っているという事は君が選ばれたという事か…。


 どういう経緯で乗ることになったのかは察するとして、俺もこのパイロットとして任命され、同じ道を辿る君に言う。君はこれにのまれてはいけない。 これはき……すぎる……、で、きるの、…ら、直ぐに―、れ、…して、ザァァァ゛ァァァァ゛――――――――――――」


 何を言おうとしていたのか、直ぐに映像は途切れ砂嵐にのまれて消えた。奇妙でしかなかった。 乗り込んで起動した瞬間に動画のようなものが映るロボットとはいったい何なのか?


 そして、それだけでは終わらず。 しばらく暗静が続いてからまるで映画館の演出の様である。 今度はコックピットに沢山のコードのような文字が現れ、スクリーンもないのに目の前に画面がいくつも表示される。


『こんにちわ。 私はニフティーあなたが私のパイロットですか?』


「ロボットが……しゃべった……」


『返答が確認できません。貴方が私のパイロットですか?』


 これ動かせるのか? ライルは不思議そうにしたが、どこをどうしたらいいのか、全く見たこともない造りの操縦桿に頭を悩ませる。 とにかく返事をする。


「そ、そうだ。 これは動くのか」


『かしこまりました。貴方のDNAデータを取り込みます。 じっとしてい下さい』


 そう言うとライルの体を、細い線が、上から下へと当てられた。


「痛って!」


 ライルの指に強い痛みを感じた。


『認証完了しました。 あなたをパイロットとして登録します。 あなたのお名前を教えてください』


「一体何なんだ」


 ライルは全くついて行けない。だが、コックピットからも出れそうにない。押せそうなボタンすら見当たらないからだ。 中はまるでプラネタリウム空間。 なら大人しくしたがって起動してしまった方が良いと考えた。


「ライル。 ライル=ハレミ―だ」


『ライル=ハレミ― 登録完了。ライルハレミ―。 これからよろしくお願いします』


「なぁ、お前喋れるのか?」


『はい、私はあなたと会話をしています』


「俺の言葉を理解している? これは動かせるか?」


『はい。可能です。 ですが、まだ完全ではありません。 今の状態では私はサポートする事ができません。また、沢山のプロダクトがかかっています。本来の機能を極限に制御された状態での起動になりますがよろしいですか?』


 ライルはこの機体にかけてみる事にした。 この機体なら、まだこれからジープを20分走らせてから出撃するより、この機体で普通に引き返した方が間に合うと思ったからだ。


「起動してくれ、どうしたらいいのか俺には解らない」


『かしこまりました。起動を開始します』


 急に室内が発光に包まれると、辺りに沢山の画面が映し出される。 そこには、SLIVED EKURIPUSUや、Nifutyと言った文字が表記されていて、また違う画面にはシステムを立ち上げる為のコードのような羅列や、パーツや部位の起動、動作を確認しているような画面が表示された。


 そしてそれらが終わると、急にコックピット内一面が、緑の発行で覆われた。 前にはまた文字が一文字表示される。


「これは、スレ、スレベ……スリベド? なんて読むんだ」


 すると女性の声の機械がしゃべり出す。


『スリヴドォエクリプス。 ニフティー起動します。 マスター、これから、共に争いを根絶しましょう』


 視界には外の世界が現れた。 まるでロボットに乗ってないほどに鮮明で、足元から、頭のてっぺんまで視界の360度が見渡せ、映像とは思えないほど、繊細にその風錠を映し出していた。 


「何だよこのコックピット。 これ本当に、現実か!?」


 ロデルは急に動き出したニフティーに銃を握りながら、機体を叩いて、ライルを救い出そうとしていた。 


 ビーンと言う短い音と共にコックピット内がピンクに光る。 腰近くで叩くロデルの姿が小さな画面に映し出された。 その画面はコックピット内全体に映し出されている画面とは別にライルの目の前に小さく表示される。 


『腰元に、一つの生体反応を検出しました。 このまま動かすのは危険です』



「どうすればいい。動かし方がわからない」


『現在の操縦は疎通モードとなっています。 一度、手動で動かす運転モードに切り替えられる場合、高濃縮電磁粒子の散布が必要です。 ニフティーに内蔵されている電磁粒子は100%。しかし、こちらは現在使用する事はできません。 緊急時に内蔵された、貯蔵タンク内の電磁粒子の散布が可能です。こちらを最小限におさえ、運転モードに切り替えられる分だけ散布されてはいかがでしょうか?』


「良く分かんないけど、それで動かせるならやってくれ」


『かしこまりました。 高濃縮電磁粒子の散布を開始します』


 そう言うと何やら、まるで風が流れ込んでくるような小音がする。


『散布完了、脳内にリンク。接続に問題無し。伝達完了。モードの切り替えが可能です』


「運転モードの切り替えをやってくれ」


『かしこまりました。 全手動、運転モードに切り替えます。 同時に、排出される電磁粒子の散布を停止、リンク状態の解除をします』


 そう言うと、コックピット内が動き出し、足元から蓋が開きペダルのようなもなものがいくつも顔を出した。 また、操縦桿のような手で握った丸い物体が動くように柔らかくなり、窪みに指が埋まる。指の形は両腕とも、PCマウスを握る様な感覚だった。


「で、これでどう動かしたらいいんだよ。 他のジンクスと同じなのか?」


『ジンクス? 少々お待ちください。 詳細が分かりません。 調べます』


 とにかく早く動かしたいライルはロデルに連絡を取りたかった。


「ニフティー、外に向けて喋れるか?」


『どうぞ』


 とは返事は返ってきたが、無線機もマイクも何もつけていない。これで話せるのか疑ったが信じてロデルに話しかけてみる。


「ロデル!聞こえるか。 俺は大丈夫だ。 この機体で会場へ向かう」


「ライル! 無事だったか? って? なんだって?これで向かう? この訳もわからん機械でか?」


「あぁ、そうしなきゃ間に合わない。 それに、どうも動かせそうなんだ、これ。 危ないから離れていてくれ」


 ロデルはそう聞くと、ジープの方まで走って距離を開けた。


『解析完了。 申し訳ありません。ジンクスと言う単語はデータにありません。 どのような物か差し支えなければお教えいただけますか?』


「まだ解析していたのか? んー、ロボットだよ。今からそれと戦う。行けるか?」


『情報が不明、状態が完全でない為なんともお答えできません』


 ライルは訳も分からずレバーを倒す。ジンクスに乗っていた感を頼りに、何度か押し間違えながら立ち上がらせてみた。


「おぉ、立ちやがった。 何なんだ……あの機体は。 地球じゃ見たことがない。本当にライルが? 

 しかし、……美しい。 中を見てみたいぜ」


 ロデルは日に照らされ反射する装甲板、発光するニフティーの姿に感動していた。



「なんとなく歩き方は分かった」


 ニフティーは走り出してしまった。操縦していて分かったこと。それはジンクスではありえない程の馬力を持っているという事。 ライルの体が揺れる。


「ニフティー、これ飛べないのか?」


『可能です。左右側、中央から2つ目のペダルを踏んでください』


「これだな、後、通信をつなげるか、さっきのジープに」


『やってみます。  ……完了しました』


「ロデル、聞こえるか。 そっちはジープで戻ってくれ」


「ライル、お前、行けるのか」


「大丈夫だ。任せてくれ」


 ライルは両方のペダルを力いっぱい踏もうとした。それは異常なほどのGがかかって高速で飛行した為、ペダルからすぐに足を離した。 ロデルは飛ぼうとしてずりコケる機体を目の当たりにライルの事が心配になった。


「……な、何だ、この機体。 速すぎる。 あり得ない。 出力は異常か。 知らずに目いっぱい踏んでいたら、こんなの死ぬぞ」


 自分の体に想像以上の負担がかるこんな機体は普通に体感したことがない。 体が無意識に足をペダルから上げるほどだ。もう数秒判断が遅かったら確実にライルは死んでいただろう。

 ライルはこの兆速の速さを利用して会場を目指した。



 大会は揺れが収まると再開していた。青の機体に乗ったケイが押していたかに見えた戦いはまた、ダンク達の計らいによって機体が動かなくなると言う状況に持ち込まれていた。 ケイの機体が3発ほど殴られ、頭と左足、そして右肩を潰されていた。


 最初は機動力すら鈍ってはいたが、押していたケイもこの事態に違和感を感じていた。 いや、何か仕組まれていたのはすぐにわかっていた。 が、もうジンクスは動かない。 観客は殴られ過ぎで機械がやられてしまったのだと思っている。 事態を覆すにはなんの証明もないこの状況は受け入れる事しか許しはしない状況だった。 



 ナキートはそのハンマーでケイの命を絶とうとしていた。こんな勝敗が決まっている舞台を早く幕下して、家族の下へと帰りたかった。自分はジンクス乗りではないから。


「言い残しておきたい事はないか?」


 ケイは覚悟を決めてはいたが、ふと、家族の事を思い出した。レミ、シア、ジュウ、シュンにエリ、そして、帰りを待つヤン姉。

 彼らの心配したような顔が浮かぶと、涙が零れ落ちた。 約束を破った自分とおごりに負けた自分に。


「ごめん皆。 俺は皆の所に帰れなくなった。 本当にごめん。 お前らに食わしてやる飯も持って帰れないで」



 ハンマーは勢いよくケイの機体に振り下ろされた。



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