悪役令嬢vs暴力三男坊
マクシミリアンの声かけが罠だと気付いた瞬間、サリーは急いでその場を離れた。一瞬後、サリーのいた場所をランドルの右拳が襲う。
動きやすい服に着替えていたとはいえ、運動する機会などなかったサリーは体が思うように動かせずに苦労した。地面を転がってすぐに立ち上がる。
ためらいなく拳を振ったその姿にサリーは戦慄した。初めて殺意を受けたのだ。
「本気で殺す気ですか!」
「ちぃ! いい勘してんじゃねぇか!」
これを合図にルナも他の二人との戦いを始めた。それを尻目に、サリーは呪文を唱えて滅びの杖を出す。ろくに触ったこともないのにやたらと手に馴染むのが気持ち悪かった。
突然現れた武器を見てランドルが笑顔を見せる。
「なんだ、やっぱテメェも持ってたのか。しっかしまた似合わねぇモンを使うねぇ」
「似合わないという点には同意しますわ」
「そうかい。ま、どのみちまともに使えるとも思えねぇがなぁ!」
言い終わると同時にランドルは拳を構えたままサリーへと急速に近づいた。
危険を感じたサリーは逃げようと右へ逸れるが、ランドルは当然のようについてくる。振り切れないと悟ると滅びの杖を両手で構えた。次の瞬間、ランドルの右拳が杖に当たる。
杖とナックルがぶつかる金属音を聞きながらランドルが驚いた。衝撃で数歩後退するサリーを見ながらつぶやく。
「へぇ、このブラックナックルを受けられるのかよ。タダモンじゃねぇな、その武器」
一方、サリーも自分がランドルの一撃を受けられたことに驚いていた。相手の拳はほとんど見えなかったので闇雲に滅びの杖を前に出しただけだが、偶然防げたようだ。
いや、そうではないとサリーは思い直す。何も考えずに杖で防ごうとしたが、体は滑らかに動いたことに気付いた。杖を使う場合は魔法の支援を受けられるらしいことを知る。
「意外と戦えそう?」
光明が見えた次の瞬間、再び近づいて来たランドルが今度は左右の拳を繰り返して振い始めた。後退しつつ滅びの杖で受け止める。
思った以上にしぶといサリーにランドルは眉を寄せた。苛ついた様子でつぶやく。
「体の動きはまるっきり素人のくせに、武器の扱いはやたらと慣れてやがる。どうやったらこんな風になるんだよ?」
相手の歪さに首をかしげつつもランドルは攻撃の手を緩めない。
このまま防戦一方ではじり貧だと自覚しているサリーは反撃の機会を窺うが、そもそも実力差がありすぎてどうにもならなかった。
そこに、その存在を忘れていた妖精が現れる。
「目くらましはいかがかな?」
「うぉっ!?」
突然サリーの隣に姿を現したリトルキッドが、ランドルの目の前に光の球を出現させた。
たまらず後退しようとするランドルに対して、サリーは好機を逃さすに滅びの杖で殴りつける。
「いてぇ!?」
予想以上に速く動いたランドルは直撃こそ免れたものの、棘の付いたハート型の塊を左手に受けて砕かれてしまった。そして、左手のブラックナックルが消滅する。
怒りの形相のランドルが叫んだ。
「テメェ、やってくれんじゃねぇか! ぶっ殺してやる!」
「正気に戻るためにも、おとなしくこれに殴られてください!」
「バカかてめぇ!? 死んじまうだろ!」
滅びの杖の性能を知らないランドルが目を剥いた。
元の実力差のせいで右腕一本のランドルとサリーは以後互角の戦いを展開する。
慎重に戦うようになったランドルはサリーに隙を見せなかったが、同時にサリーやルナの頭上を飛び回っているリトルキッドも見えていないらしかった。
またしばらく二人と戦うルナの支援をしていたリトルキッドだったが、マクシミリアンが倒れるとサリーの元へと駆けつける。
「ほら、もう一回!」
「覚悟!」
目くらましの光の球でランドルが怯んだ隙に、サリーは滅びの杖を思い切り振った。先端に付いた棘付きハート型の塊が今度こそ相手の左側頭部へと命中する。
そうしてようやくランドルが崩れ落ちたことで決着が付いた。
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