2_サイコパス人間は自覚がないからこそサイコパス ③

 俺の説得に折れたのか、高岩は頭を揺らされながら、

「……仕方ないですねぇ。僕の力をとくと見せてやりますよ」

 高らかに宣言した。

 俺たちは戦いの場に参戦することに。

 そう決意を固めた直後。


「で、お前らさっきから何なん? ジロジロ見てんじゃねーよ」


 チンピラの一人が、騒ぎの成り行きを見守り続けていた俺たちに気づいてメンチを切ってきやがった。

「フッ。我コソハ将来ノ世界ヲ担ウ侍、平原圭ゾ」

「は? 侍? なーに言っちゃってんだコイツ」

「アナタのココ、大丈夫でちゅか~?」

 チンピラの一人は人差し指で自分の側頭部を数回つんつんする。

「ヲ前ゴトキニ心配サレルホド、脳ニダメージ食ラウ年齢ジャネェンダワ!」

 ったく、この身の程知らずの馬鹿者どもにはたっぷりとお灸をすえてやらんとな。

「ウッシ! 高岩、貴様ノ実力ヲ示シテミセロヤ!」

 まずは高岩のお手並みを拝見させてもらうか。

「はいはい、ダルいですが披露しましょうかね」

 高岩はやれやれと言った感じで指を鳴らす。

 そして標的の懐まで俊敏な動きで移動し――――


「ふんっ!」

「ぐほおおおぉッ!?」


「…………ンン?」

「な、なんでアイツ……」

 高岩は何を血迷ったか、チンピラどもではなく、いじめられている新山の鳩尾みぞおちに蹴りをおみまいした。

 俺とチンピラ全員がその場で唖然あぜんとする。

「オイオイオイ! ヲ前、喧嘩初メテカ? 力抜ケヨ。制裁ヲ加エル相手違ェダロ!」

「今ならこの人を合法的に殴れますからね。この人たちも新山さんアンチですし、僕の邪魔をする奴はいませんよね」

「合法的デモナンデモネェシ、誰ニモ邪魔サレナイ状況ヲ悪用シテ弱者ヲイタブルトカ、ヲ前サイコパスダワ!」

「僕は割と常識のある人間だと思ってますけど」

「ドコガヤネーン!」

 俺は右手で高岩の肩に軽くチョップをかます。

「さっきからボディタッチ多くないですか? 僕のこと好きなんですか?」

「アホ! 俺ニハ愛スル彼女ガイルワ!」

「平原さんに彼女……? その人、よほどの聖女なのか単に見る目ないのかどっちですか」

「俺ノマイハニーニ失礼ダロタワケガァ!!」

「……あんのぉ、漫才の練習なら他所行ってもらえませんかねぇ?」

「全然おもんないし」

「俺らの遊びの邪魔すんなよ」

 そうだよ。本来の目的は戸阿帆のイキリカス連中をボコることだ。

「オイ高岩、行クゾ」

「了解です」

 俺たちは頷き合ってチンピラの輪にカチコミをかける。

「悪ハ成敗ナリィーーーーーーーーッ!!」

「弱い犬ほどよく吠える――んなっ!?」

「コ、コイツ、ふざけた侍気取りのくせに強ぇ……!」

 俺はバカども二名にいとも簡単に制裁を加えた。

 ったく新山よぉ、これは貸しだぞ。今度飯奢れよな。

「ぐはぁっ! お、おいお前……!」

 その背後では高岩が殴る蹴るの蛮行に及んでいる。

「高岩、アンマリヤリスギンナヨ――――ッテ」

「ちょっタイムタイム! お前はさっきから何の恨みがあって俺をボコってるの!? 弱きをくじく最低最悪の人間なの!?」

 高岩は未だに新山に対してだけ、執拗しつように殴る蹴るを繰り返している。

「新山さんに恨みはないですよ。そもそも誰って感じです」

 面識すらない人間にそこまで暴力の限りを尽くせるサイコっぷりが一周回って逆にすげぇよ。

「ただ、今なら勉強とか部活の鬱憤うっぷんが晴らせるなぁって」

「恨みによる凶行よりもタチが悪いな!」

 新山はあれだけボコられてもツッコミを入れる元気だけは残っているらしい。高岩に抗議している。

「いやぁおかげ様で少しだけすっきりしました」

「いってぇ……お前……サイコ野郎かよ……」

 高岩は晴れ晴れとした表情で伸びをしているが、お前全くこの喧嘩に貢献してないからな。

「さっきから俺らをモブ扱いしてさぁ……!」

「お前らだけで会話を完結させてんじゃねーよ。主人公気取りか!?」

 蚊帳の外状態にされたチンピラどもが遺憾いかんの意を表明してくるが、所詮は端役はたやくの雑魚よ。精々この俺様を引き立ててくれや。

「気取リモ何モ、ハジメカラ俺様ガ主人公ジャボーケカス」

 この作品は俺の伝説の数々がテーマだからな!

「てんめぇ、ナルシストも大概にしとけや……!」

「取り囲んで挟み撃ちにしてやる!」

「フッ――――愚カナ」

「……おあっ!?」

 俺に足を引っかけられた一人がよろめき、そのまま対面にいたチンピラを巻き込んで押し倒した。

「勢イダケデ突ッ込ンデクル単細胞ハ単純ナ技ニスラ引ッカカルカラ楽ダゼ」

 こいつらはイキってはいるが、恐らく喧嘩慣れしていない。とりあえず至近距離まで突っ込めばいいと思ってる節がある。だったらその勢いを逆手に取りさえすれば事足りる。

「残ルハ一名――高岩、今度コソヲ前ノ武力拝見致スゾ」

「ま、やってやりますよ」

 高岩は軽くビビっている残党の元へと駆け出した。

「く、くそ……こ、これならどうだ――――新山シールド!」

「あっ」

 高岩がチンピラに拳を振り込むと、奴は新山を眼前へと差し出してきやがった。

 不意の行動に高岩は攻撃をキャンセルできず――

「おおおおおお! 鼻血が! 口から血が!」

 新山の顔面が攻撃を全身全霊で受け入れた。

「鉄の味が口に広がるぅぅぅ」

 そのまま地面に倒れ込んだ新山は、痛みと口内に広がる血の味を堪能しながら釣り上げられた魚のようにピクピクしている。

「ひぃ~、あぶねあぶね――――がはっ!」

「喧嘩ノ最中ニ隙ヲ見セルトハ愚ノ骨頂ナリ」

 新山ガードで一安心していたアホの背後に回り込み、側頭部を一殴りした。

「コレデ敵ハ全員成敗シタゾ」

「ふぅ~、疲れました。平原さん、僕たちやりましたね」

 高岩は手に付着した汚れをはたき、腕で額の汗をぬぐっているが。

「ヲ前ハ新山ヲボコッテタダケデナンニモ役ニ立ッテネーカラナ?」

 しれっと活躍した雰囲気を醸し出してんじゃねーよ。

「平原、助かったよ。借りができちゃったな」

 新山は鼻を押さえながら俺たちの元までやってきた。

 まぁ、あんな調子こいたクソどもが幅を利かせてるのは見てて腹が立つからな。

「借リハ牛丼特盛デ返シテクレリャイイゼ」

「借り……借りといえば、お前のノート写しのノルマを――――」

「ゴホッ!! ゴホッゴホッ!! ……エッ、ナンテ?」

「お前のノート写しのノルマを手伝った貸しが今回でチャラってことで――――」

「ゴボオォエエエエェェェッ!! 嗚咽おえつ! 嗚咽おえつガエグイ!!」

 そんな話は知らぬ存ぜぬで押し通す!

「都合の悪い話は聞く耳持ちませんってか……」

 新山は溜息を一つくと、高岩へと向き直った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る