8_ついてくる者たちが必ずしも譜代とは限らない ②

 待つこと数分。

 チャットのグループ【平原軍団】への招待通知が届いた。

「アイツニシチャ悪クナイスピード感ダナ。コレガ新山ノ唯一ノ特技ッテワケカ」

 手早く招待を承認してグループに加入する。


ゴッドスター:『あとは俺の信者どもがグループに入れば業務連絡が簡単にできるな』


新山鷹章  :『グループはそういう時に便利だよね。今までグループに入ったこと

        なかったけど』


ゴッドスター:『お前は友達がいないからな』


ゴッドスター:『で、早く他のメンバーも招待しろ』


新山鷹章  :『いやいや。俺はそいつらの連絡先知らないから無理だよ。連絡先を

        知ってるならお前が招待してくれ』


ゴッドスター:『俺様に負担をかけさせる気か!?』


新山鷹章  :『俺がお前から負担をかけられまくってるんだけど……』


ゴッドスター:『ったくしゃーねーな。招待方法分からないから調べるわ』


新山鷹章  :『大して難しくないからすぐできるはずだ。頑張れ』


ゴッドスター:『上からでウゼェな。こんなことでマウント取っても虚しいだけ

        だぞ、雑魚が』


新山鷹章  :『はいはい』


 新山とのチャットを切り上げ、グループの招待方法をネットで検索して先ほど連絡先を交換した一年坊どもをグループに招待した。あとは連中が承認するのを待つだけだ。

 実は俺もチャットのグループはお初だが、新山が同類扱いしてくるかもと想像したらとてつもなくウザかったので情報は開示しないでおいた。全てを曝け出すだけが同胞ってわけじゃないからな。

「コレデ、ニックキ永田大地トバスケ部ヲ潰スオ膳立テハ整ウナ」

 あとは実行のタイミングと、事前会議の場を設ける必要があるか。

「ヨウヤク本腰ヲ入レテ動ク時ガ来タナ」

 もはや何度目かすら数えてない直接対決に向けて、戦力を増強させていくぞ。


    ♪


 翌日。

 無事に一年メンバー全員が俺のグループに参加したため、グループチャットからメンバーを一年の廊下に招集した。

「これからどこに行くんですか?」

「俺ノ野望ヲイツモ、イツモ邪魔シヤガル不届キ者ノ面ヲ拝マセテヤル」

 宿敵、永田大地に平原軍団の勢力を見せつけてくれるわ。我が兵数に恐れ慄くがよい!

「上級生の教室って緊張します」

「意地悪ナ上級生ニ何カサレタラ、俺ガ倍返シデヤリ返シテヤルヨ」

「されないようにフォローはしてくれないんですね……」

 俺は軍団を引き連れて、永田大地のクラスに乗り込んだ。

「オイ永田大地! デアエデアエ~!」

 例のごとく教室の扉を乱暴に全開し、獲物ターゲットの名前を叫んだ。

 すると教室の一角でクラスメイトと雑談していた永田大地が気怠げに俺の元へとやってきた。

 その際にいつもとは違う俺の登場に、俺と背後に立つ兵士たちの顔を交互に見た。

「圭……知らない面々を引き連れてどうした? 今度は人質戦法か? お前、人の命で相手を脅そうとは、いよいよ落ちるところまで落ちたな。この人でなしめ」

「バッキャロ! 俺様ガソンナ卑怯ナ真似スルワッキャネーダロ!! コイツラハ俺ノ生キ様ニ一目惚レシタ信者ドモヨ!」

 どこまでも無礼千万な輩だな! いつ、この俺様がそんな卑劣な手段を行使した?

「圭の信者……?」

 永田大地にしては珍しく引きつり笑いを俺の信者どもに向けた。

「お前たち、正気か? 圭はただのクレイジー野郎だぞ? こんなんのどこに感化される要素がある?」

「フッ、愚カナ」

 所詮は凡人バカタレ不細工野郎。俺の偉大さは一生理解できないわな。残念だよ。

「ヲ前等! コノヴァカニド派手ニグサットカマシタレ!」

 俺の一声で、一年たちが一歩前に出る。

「まだ一年生で人生経験が浅い僕たちにとって、平原先輩はパイオニアなんです!」

「この人についていけば、普通なら味わえない体験をの当たりにできます! 俺は平原先輩についていきますよ」

「平原先輩のような、自ら刺激を生み出せる人はそうそういません。この出会いに感謝です」

「えぇ……お前、一年生に何したんだ? 変な薬でも飲ませたか? さすがに俺もこの超展開にただただドン引きしてるんだけど」

 永田大地はおでこに手を当てて項垂れている。敗北が見えてきてビビってるに違いないぜ。

「俺ハ一年ノ廊下ヲ颯爽ト歩イテタダケダゾ」

 俺レベルの天才にもなると、ただ校内を移動するだけでも自然と信者が沸くんだよな。

 ま、分かる奴には俺という人間の深みがちゃんと分かるってことだ。これまでそんな奴が誰一人としていなかったのが不思議なくらいだったが、この学校もまだまだ捨てたもんじゃないな。

「圭一人でもかったるいってのに、こんな状況になるとは想定してなかったわ。お前を見くびりすぎたようだな」

 ほほう。素直に自分の愚かさを認めるか。明日は雪でも降るか?

「今更焦ッテモモウ遅イゼ! 俺ハ勢力ヲ蓄エタ。貴様モ含メ、ニックキバスケ部ナンザ一捻リヨ! 震エテ眠レヴァ~カ!」

「いたいけな一年生相手に下劣な真似を――お前たち、待っててくれな。俺が洗脳を解いてやるからな」

 は? 何言ってんだこのペンギン体型野郎は。

「オ薬ヤラ洗脳ヤラデ現実逃避シタイヨウダガ、全テ俺様ノ純粋ナ実力ヨ! ヨッテ解クモクソモアリマッシェーン!」

「そうです。僕の思考は正常で、その考えで平原先輩の信者になりましたから」

「平原軍団万歳!」

「平原軍団最高!」

 ホレ見ろ永田大地よ。こいつらは平常心で俺につく道を選んだんだぞ。簡単にその意思が揺らぐものかよ!

 うむ、こいつらとは非常に長い付き合いになるな。断言できるぜ。

「あぁ、カオス度が半端ない……どう収拾つけるんだこれ」

「グッ――クファファファファ! キョホホホホーーーーッ! 困レ! 苦シメ!」

 あぁー最高だなぁ、永田大地が困った表情してら。爽快ですな。

「ダガナ、貴様ヲ闇ニ葬リ去ルノハ今デハナイ。機ガ熟シタソノ時ニマタ乗リ込ンデヤル。覚悟シテオケ。ソノ時ガ貴様ノ最期ダ。ヲ前ガイキッテラレル僅カナ残リ時間ヲ精々堪能シテオクコトダナ!」

「よく喋る口だな」

 永田大地は後頭部を掻いて半目で俺を一瞥すると、

「いつでも来いよ。お前だけを返り討ちにして、他の面々は正気に戻す。誰でも一時いっときの気の迷いは起こすものだからな」

 永田大地はかかってこいよとばかりに手で挑発するが、それに動じる俺ではない。

「ホザケ――ソレニ、コッチニハ新山ッテアホデ使エナイ最終兵器モイル」

「…………誰だ?」

 新山の名を聞いた途端に永田大地も含め、その場の全員の目が点になっている。

「オイオイ、永田大地ハトモカク、ヲ前等ハ同ジ平原軍団ノグループナノニ知ラネェノカヨ」

 俺は思いの外薄情な一年ズを咎めるが、一年ズはお互いに顔を見合わせて首を傾げた。

「その新山って人は、この場にはいないんですか?」

「あっ、チャットグループにいる『新山鷹章』って人ですね? 今初めて見ました」

「ヲ前等マジカヨ……一応ハグループノ生ミノ親ダゾ」

 近年の国民はドライで、都市部を中心に近隣との関係が非常に希薄と聞くが、ここまで同士に興味を示さないとは。これはチームワークに関わる問題に発展する恐れがあるぞ。

「で、その新山とかいう使えない最終兵器はどこにいるんだ? 何年何組?」

「ハッ、ダカラ貴様ハ視野ガ狭インジャ。新山ハ高校生ジャナイ。我々ヨリ三ツ年上ノ短大二年生ダ」

 勝手に邦改の生徒と思い込んでいる永田大地の低レベルな問いかけを一蹴し、俺には年上の手下がいることをアピールする。

「なぜまたそんな人が圭とつるんでるのかは完全に謎だが――年下、年上。お前という人間をよーく理解してる同学年の生徒は一切合切いない構成だな。虚しい奴。そこから自身の人間性の悪さが出てるって分からないところも痛いあぁ痛い」

 永田大地は哀れなものを見るような視線を俺によこしてきやがる。目、潰されたいのか?

「オイオイオイオイ。今コノ場デ俺ヲキレサセテモ知ラネェゾ!? コノ人数ガ相手ジャ貴様ト言エドモ歯ガ立タナイゼ? 謝ルナラ今ノウチデハ?」

「はいはい。多分だけど、このクラスの奴らの大多数は俺の味方についてくれるぜ。みんなお前の悪事には散々迷惑を受けてるからな」

 永田大地が教室を見渡すと、奴と目が合った生徒は全員頷いていた。

 その中には、かつて俺が姉の紹介を懇願した、デブダルマこと大原の姿もあった。

 そんなことより、どうにも解せない点が一つあるんだが。

「ハ!? 悪事ナンザ人生デ一度タリトモ働イタ記憶ガナインダガ??」

 俺はこめかみに人差し指を当てて自身の記憶を掘り起こすものの、心当たりは全くなかった。

「本人に悪いことをしてる自覚がないのが一番厄介なんだよなぁ」

「オオオオンッ!? 自分ニ都合ガ悪イコトヲ全テ悪事扱イシテンジャネェゾギラギラピアス野郎!」

「とりあえず適当に目についたものをけなしたれって考えはそろそろ捨てたらどうだ」

「アァン!? 言ワレタクネェナラ初メカラ――」

「ストップ、ストーップ! 二人とも、その辺でやめませんか? このまま続けても堂々巡りになりますって」

 俺と永田大地の応戦に業を煮やしたのか、一年の一人が間に割って入り、仲裁をしてきた。

「……そうだな。一年生のみんなも、巻き込んで悪かったな」

「あ、いえいえ」

「ヲイ永田大地。俺ノ信者ヲたらシ込モウトスルノハ遠慮シロ!」

「してないしてない。とにかく、この場はお開きってことで解散な」

「フッ、寿命ヲ引キ延バシタトコロデ結局死カラハ逃レラレナイカラナ」

 俺は永田大地の顔に指を差すが、奴は気にも留めなかった。おいコラ、俺様のふつくしいフィンガーだぞ。何かしらの反応くらい示せや。

 結局、一年のなだめによりお互いクールダウンしてしまったため、俺たち一行は永田大地の教室から退室したのだった。

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