第5試合 漫才 林家ピー・ポー

「どーもー! 林家ピー・ポーでーす」

「よろしくお願いいたしますー」

「ポーちゃん。俺ねえ、会社員に憧れてるんだよねえ」

「会社員?」

「そう」

「大変だよー! 毎日、朝から晩までコキ使われて」

「うん。だから漫才でやってみたいんだ」

「いいけど」

「じゃあ、俺が課長やるからポーちゃん、バイトやって」

「え? 社員じゃないの?」

「試用期間があるからね」

「どれくらい?」

「2年くらい」

「長くね?」

「あ、ポー君ちょっと」

「何ですか? ピー課長」

「ピー課長って言うな! 放送禁止の人間みたいだろ!」

「仕方ないでしょ!」

「何でだよ!」

「そもそも、林家ピーが可笑しいでしょ!」

「お前もポーだろ!」

「わたしのポーはサウスポーのポーよ!」

「俺のピーは何だよ?」

「ヘボピーのピーよ」

「何だよ、ヘボピーって」

「下手なピッチャーよ」

「俺も左利きだよ!」

「じゃあ、ヘボサウスピーよ」

「ポーじゃないのかよ!」

「うるさいわねえ、課長! 用件は何ですか?」

「実はポー君、明日から海外に出張してきて欲しいんだ」

「え! バイトで試用期間なのに?」

「時給、弾むから!」

「いや、そう言う事じゃなくて!」

「頼むよ、海外出店する事にしたんだ」

「うちは輸入雑貨専門店ですよね?」

「逆輸入だよ」

「どういう意味ですか?」

「とにかく、ボルネオに行ってくれ」

「ボルネオ?」

「嫌なら、マダガスカルでもいいよ」

「比較がよくわからない」

「とにかく、良さそうな店舗を探してきて欲しいんだ」

「熱帯雨林のイメージしかないんだけど」

「イメージだけだろ?」

「いや、実際、そうだと思うけど」

「行った事ないだろ?」

「行った事はないけど」

「行ってみようよ!」

「何でそんなにしてくるんだよ! 何かの勧誘か?」

「ボルネオはいいよぉ」

「行った事あるんですか?」

「無いけど」

「無いのかい!」

「じゃあ、マダガスカルでキツネザルを捕まえて来てくれないかなあ」

「店舗じゃなくて?」

「店舗もね」

「店舗のあるような所にキツネザルはいないんじゃないですか?」

「いないよねぇ」

「いないのかい!」

「困った奴だなあ、文句ばっかり言って。バイトのくせに」

「あ、パワハラですよ、そう言うの!」

「バックスクリーン3連発ね?」

「それは槇原まきはらです、て誰も知らないだろ!」

「そんな事ないよ、『どんなときも♪』だろ?」

「いや、マッキーも微妙だな」

「頼んでるのはモンキーだ」

「まだ言うのか!」

「ポー君ねえ、同一労働・同一賃金って知ってる?」

「正社員とアルバイトの仕事が同じなら同じ待遇にしないといけないっていう法律でしょ?」

「そうだね」

「同じにしてください」

「駄目だね」

「何でですか?」

「ネタ考えてるの俺だから」

「え? 急に現実?」

「そうだよ! 何でそれで折半なんだ?」

「課長がネタ考えてる間、わたしは生活費を稼ぐためにコンビニでバイトしてるんですよ!」

「漫才だけじゃ食べて行けないからな」

「そうでしょ! その稼ぎで課長も生活してるんでしょ!」

「そう言うことになるかな」

「わたしの方が損してるぐらいなんだから」

「どうして?」

「課長はバイトしてないでしょ!」

「ネタ作りで忙しいからね」

「売れないネタね!」

「厳しいね」

「厳しいわよ! それでギャラ7対3て。10でもわたしのバイト代より安いのに!」

「うっ……」

「何よ?」

「俺がボルネオに行ってくる……」

「嫌ならマダガスカルでもいいわよ」

「時給、上げてよ」

「現地通貨でね」

「アリアリ」

「つまんねえ」

「団交だあ!」

「何よ! 団交って!」

「賃上げ交渉だあ!」

「わたしはバイトなのよ!」

「じゃあ、組合に入りなさい」

「誰と団交するのよ?」

「輸入雑貨協会と」

「それは談合でしょ?」

「失礼なことを言うな! 我々はダンピングはしても談合など一度もした覚えはないぞ!」

「ダンピングも良くないし、覚えていないだけでしょ!」

「じゃあ、こうしよう」

「何よ?」

「カルテルしよう」

「カルテル?」

「そう。カルテル、トラスト、コンツェルン」

「社会の暗記かよ!」

「水平のリ―べ、僕の船」

「元素記号ね」

「take、take、連れて行く」

「何だそれ!」

「いい国作ろう岸田内閣」

「鎌倉幕府じゃないのかよ!」

「人に不意打ちジョー90」

「承久の乱だろ! ジョー90って何だよ!」

「泣くよ、坊さん、HEY! タクシー」

「平安京だろ!」

「勝って兜の王貞治」

「緒を締めろよ!」

「ブルータス、お前ブルーマウンテン」

「モカでしょ」

「泣いて、美食家切る!」

馬謖ばしょくを、だろ!」

「敵によしおを送る」

「誰だ? よしお、って。小島か?」

「ロボコン、川を渡る」

「ルビコン川を、だろ?」

「お婆さんは川へ洗濯に、お爺さんは山にしばかれに行きました」

「柴刈りだろ! 何やらかしたんだ、爺さん!」

「母をたずねて三千院」

「近いな!」

「さよなら三角、また来て仁鶴にかく

「四角だろ!」

「終わり良ければ、スベって良し!」

「そんなわけ、あるかあ!」




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