第七章 その③「本当のお昼休みに」

 成行が一息ひといきつけたのは、十四時半を過ぎた頃。

 八千代と見事の後でシャワーを浴びて、再度、特定ドアで西東村の別荘に戻っていた。そこには勿論もちろん、見事、八千代、雷鳴の三人もいる。


 見事は学校のジャージ姿に戻り、八千代は新しく体操服を着替えていた。

「岩濱君、どうしたの?それ」

 八千代は成行の顔を指さした。

「いやあ、今日は色々あって・・・」

 力無く答える成行。彼の頬は赤くれていた。まるでビンタを受けたようなあとである。

「これくらい何ともないわよ」と、彼の隣に座る見事が回答した。

「そうですね。はははっ・・・」

 頬が痛くておにぎりを咀嚼そしゃくできなかった成行。とりあえず、お茶を飲んだ。


「で、話を整理すると、練習中に立夏と御庭番が現れたのだな?」

 雷鳴は三人に対して午前中の出来事を確認する。

「ええ。立夏さんはともかく、御庭番の子は初めて見ました」

 成行は答える。話しながら彼は思い出していた。三毛猫と言う名の少女。自分と歳が変わらないような子が御庭番とは・・・。

「見事や八千代は知っているか?その三毛猫を」

「御庭番のことに関しては、私はノータッチで」

「私も知らないわ」

 見事も八千代も面識がないと回答する。


「三毛猫ねえ・・・」

 コップにお茶を注ぐ雷鳴。それを一口飲む。

「ママは知っているの?」

 見事もペットボトルを手にして、自らのコップにお茶を注ぐ。

「いや、知らない。『三毛猫』って呼び名は、コードネームだろうな。写真とか撮ってないよな?」

「そんな暇はなかったわよ。ただ、立夏さんは三毛猫と面識がある雰囲気だったわ」

「そりゃあ、そうだろうな。執行部か、御庭番か、どちら側が言い出したかわからんが、ユッキーに注目しているという証拠だろう。で、その後、二人はどうした?」

 八千代に向かって質問する雷鳴。

「二人?ああ、あの後は学校へ向かいましたよ。私たち三人でソフトクリームを食べて、道の駅でおしゃべりして、その後、現地解散。二人は学校からの迎えの車に乗っていきました」

「学校?西柏餅か?」

「ええ」


 雷鳴と八千代の会話に登場した『西柏餅』という単語。この西東村にある魔法使いの学校・西柏餅幸兵衛学園のことだろう。

「あれ?二人とも、あの格好で道の駅にいたの?」

 今の八千代の話を聞いて、ふと思う成行。立夏と三毛猫は、あの後、迷彩服姿で道の駅に行ったのか?それはさぞかし目立ったのではないのか?全く隠密的な行動になっていない気がする。


「さすがに迷彩服で行かないわよ。私の体操服を貸してあげたわ」

 誇らしげに語る八千代。

「どんだけストックがあるのよ・・・」

 呆れた様子の見事。

「体操服で?それはつまり二人も―」

「・・・」

 成行の発言をさえぎるように、見事から無言のあつが来る。彼女は成行が何を言い出すのか察知したようだ。

「ええと、それはさておき、今日はこれで終了ってことでいいかな?いいんちょ」

 見事の顔色をみて、急ハンドルを切るように話題を変えた成行。自分の言いたいことに感づかれたと思ったからだ。


「そうね。私的には岩濱君の能力を見ることができたし、文句はないわ。見事も、今日はおひらきってことでいいでしょう?」

 八千代は見事に確認する。

「まあ、八千代がそういうなら、構わないわ。私も疲れたし・・・」

背伸びをする見事。

「それじゃあ、これで今日はここまでだな。悪いがユッキーと見事は、残ったおむすびとお茶の片づけを頼む」

「わかったわ」

「わかりました」

 成行と見事は、それぞれお皿とペットボトル、それにコップを手にして、片づけを始めた。


「八千代には話がある。外へ」

「はあい」

 片づけをする成行と見事をよそに、雷鳴と八千代は別荘の外へ向かった。

 雷鳴と八千代の動きが気になる成行だが、二人が何をしに行ったのか調べる気はなかった。もはや、そこまでの気力も体力もなかったのだ。

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