第4話

「泣き虫さん、見いつけた」

 それは大嫌いなやつの声だった。

 アイリーンは膝も抱えたまま顔もあげない。

 泣きはらした顔を見られたくなかったからだ。

 大嫌いなやつ――クリスが苦笑したのが気配でわかった。

 なんの断りもなしに隣に座られる。肩が触れじんわりとあたたかく感じた。それで自分の身体がずいぶん冷え切っていることに気づいた。

「またマリアから逃げだしたんだって?」

「うるさい。おまえになにがわかる」

 この呪いを祝福だと言える――言い切ることができるやつが。

 アイリーンは囁くようにつぶいた。

「本当に、できると思ってるの?」

 悪魔が悪魔と呼ばれずに、呪いが堕技と呼ばれず、人々に受け入れられるようにするなど。

「思ってるよ」

 マリアから話したことを聞いていたのか、クリスは間髪入れずにこたえた。

「だって、このちからは祝福なんだから。みんながみんなそう信じて、これが天からの恵みなんだって気づいたときにこの世界は変わるよ」

 マリアの話を聞いた後では、まるでアイリーンに言い聞かせているようにも思える。

 もし、本当に信じたらなにかが変わるだろうかーー?

 いや、変わるわけがない。この世界は相変わらず醜悪だし、自分は悪魔で、堕技は呪いだ。

「できるわけないわ」

「できるよ」

 見なくても彼がやさしく微笑んでいるのがわかった。

 それが相も変わらず癇にさわる。

「さっさとどっか行って! わたしは今日ここで寝るから」

「そう」

 隣の体温がすっと遠ざかった。

 寒いと思った。

 そう思った自分を叱り飛ばすようにぎゅっと膝を抱える手に力を込めた。

 そこにふわりとあたたかな感触が身体を包んだ。

 反射的に顔をあげるとクリスの笑顔が目の前にあり、アイリーンは毛布に包まれていた。 

「おやすみ、アイリーン」

 指が泣きはれた目元にやさしくふれた。

 アイリーンはその指を振り払うようにまた膝に顔をうずめた。

 クリスが笑みを浮かべたのがわかり、苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。

 クリスは部屋を去る。

 悔しいが毛布は暖かかった。

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