第4話 思い違い
1週間ほどして2通の合格通知が宿屋に届けられる。ルーウェンは悩んでいた。
ルーウェンが思っていたよりもメルは優秀な人材である事を今回の試験で知ってしまった。これからも側にいて欲しい気持ちは1番であるが本当にそれでよいのだろうか。
望むならここで別れよう。マルス王国はもう無い。ここでケジメをつけないと3年拘束してしまう事になる。
合格通知を渡しながらメルに無理に士官学校に通わず自分の道を探して欲しいと伝えた。
メルは激怒した。今まで何度かけんかになることがあったが今回は比じゃない。こうして食事を共にしているが口を聞いてくれない。
「メルさん、機嫌を直して頂けませんか?」
メルに対して使ったことのない丁寧語で話し掛ける。あ、グラスが割れた……。
数日経ってもメルの機嫌は直ることはなかった。どうしたものかと考えたがなかなか思いつかない。なにかプレゼントをしようにもお金はメルが管理している。プレゼントを買いたいからお金を下さいと言うのか?マヌケすぎるだろ。ルーウェンは半ば諦めの気持ちで風呂場に向かうことにした。
「メル、背中流すよ。入っていい」
返事はなかった。しかし、カギが空く音がしたので服を脱ぎ中に入る。いつ振りだろか。ここ数年は一緒に入ってなかった。年頃の男子にはメルの裸は刺激的過ぎるので遠慮していた。
緊張しながらメルの元に向かう。
「許してくれないか?」
スポンジに石鹸を含ませながらメルに問いかける。湯気でメルの顔が見えないので反応は良くわからなかった。メルの返しを待つためゆっくりと肩からお尻の手前までを洗う。お互い黙ったままだった。最後にお湯で流しルーウェンが風呂場を出ようとしたとき、ようやくメルの口が開いた。
「いいですよ。たまにはこうやって昔のようにお風呂をご一緒して下さいね。約束ですよ」
風呂場から出てきたメルはいつもの様子を取り戻していた。ルーウェンは覚えいないようだったがケンカしたときや叱られたときは決まってメルとお風呂で背中を流し合っていた。
ルーウェンが風呂場にやって来たときメルは懐かしい思い出をルーウェンも覚えていると思い嬉しかった。
背中を洗っているときにメルはルーウェンが覚えていないことに気付いたが忘れていてもこうして来てくれた事実で十分だった。ルーウェンはメルの大事な弟。頼まれたって離れたりはしない。
窓から2月の風が溢れてくるがメルは暖かい気持ちで外を眺めていた。士官学校の合格通知はメルにとって良いものではなかったけれどルーウェンが行くのなら。
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