第52話 リザの涙

 「ちょっと踏ん張ってて。」倫弥はパンッと軽く手を叩く。すると近くでドアが開いて、そこでリザが手招きしている。レイとナズナがドアに駆け込むとリザはドアを閉める。パタン。

「もうあそこ嫌だ。」レイは壁に手を付いて呼吸を整えている。ナズナは入ってすぐにへたり込む。

「見せたかったのよ。彼は。」リザは言う。

灰色の壁に囲われたこの場所は二人には心地よく思えた。リザが傍にいることも。倫弥はそこにいなかった。

「おじさんは?」レイはリザに尋ねる。

「交渉してるのよ。」

レイとナズナにはそれ以上質問する気力はなかった。リザはあぐらをかいて座り頬杖をつく。レイも座り同じ格好をする。ナズナも座りなおしドアのあった方に体を向ける。入ってきた所は壁になっていた。

「お茶飲む?」リザは尋ねる。二人は黙って首を振る。


 「わたしもね、あっちに行くことがあるの。」レイとナズナはリザを見る。リザは別の所を見ながら話をしている。

「彼なんかは、ほぼこっちに順応しちゃってるから生きづらいんじゃないかしら。何回もグルグルと同じこと繰り返して、終いにはわたしのだすお茶も飲まないしね。無理やり飲ませようと思ったけど、見ないふりをしたわ。なにするつもりだか知らないけど…これ内緒ね。意味のないことをただただグルグルグルグル。あのメンタルは尊敬するわ。」レイとナズナにはどの部分が内緒なのかわからなかった。

「そんな彼を見てると、わたしもまた行ってみようかなって思うのね。あっちは魂の精錬所みたいな場所でね。別に行かなくてもいいの。それでも彼は行くのよね。誰かがいけばいいのにね。わたしがズルいのかな。」時々リザは寂しそうな表情をする。

「それでわたしがこんな役割り。ここにずっといるからって凄くも偉くもないのよ。これはわかってて。リザは落ちこぼれだって思ってていいから。あっちはもう…うんざり。」リザはあぐらをかいたまま空を見上げ、涙が目尻から首につたっていく。

「これもわたしの演出ね。」涙を流しながらリザは笑って、手のひらで涙を拭う。いつのまにか空には星が散りばめられていた。

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