024話ヨシ! 努力、孤独、勝利!

一瞬で肉薄する、巨大な蛇の口。


── シャアァァ……ッ!


それに自ら飛び込むように、ジャンプしている最中の俺。


普通なら、絶体絶命の状況が、超スローモーションから再開された。


だが、今の俺(覚醒済み)にとっては、焦るほどのピンチではない。


精神的にも肉体的にも、準備は万端だ。

何度も繰り返したイメージ通りに、左右の輝甲の籠手に全力を込めた。


襲いかかってきた巨大な白蛇首の、横開きにしたあごの先をつかんで受け止める。



「お前には、色々教えてもらった……

 ありがとな」



俺は、自分を食い殺そうとする、巨大な蛇頭に、そうささやいた。


こいつの始末など、簡単だ。



(さっきの『瞬瞳しゅんどう』の多重発動方法。

 あれはおそらく── )



不確かな記憶をたぐりよせる。

たしか焦って輝甲きこう眼保護具バイザーを作ってしまい、その下に ── つまり、輝甲と肉体の間・・・・・・・に ── 無理矢理に身体強化のオーラを注ぎ込むような無茶な事した。

その結果が、『瞬瞳』なら時間が止まったと勘違いする程の、超スローモーション。


性能の増強は、足し算というよりも、かけ算くらいの爆発的なものだった。



(── それなら、『身体強化』で同じ事を行ったら……?)



オーラで両手の籠手の下に、無理矢理オーラを注入すれば、どうなるか。

そんな俺の疑問に答えるように、両腕にうずくような軽い痛みが走る。


同時に、両腕に力があふれかえった。

巨大なあごみ殺されないようにと、さっきまで両腕の筋力全開で抵抗していたのが、今はウソのように軽い。



「── フン……ッ」



俺は、小さく気合いを入れた。

大きな段ボールを両手でへし曲げるくらいの簡単さで、魔物の顎関節がくかんせつを破壊する。



「もう一つ、試すか……?」



俺は、そう言って、口が開きっぱなしになった蛇頭を、左手で引き上げる。

蛇首は逃げようと必死になるが、超強化された俺の腕力を振りほどく事はできない。


暴れる首を、そばの木の幹に叩き付けて、大人しくさせる。



「さて……」



俺は、近くに落ちていた人間の頭大の岩を、右籠手こてを伸ばして掴んだ。

そして、蛇首のノドの奥まで、右籠手こてごと突っ込んだ。



「オーラを放出するエネルギー波系の技できなかったけど。

 こいつ・・・ならどうだ?」



籠手こてのオーラ密度を限界まで、高める。

具体的には、コイル状ばねスプリングを押しつぶすイメージ。


腕の圧迫感が半端ではない。

だからこそ、成功の手応えを感じる。


そして、急転換するように、一気にオーラの密度を低下させる。

コイル状ばねスプリングが解放され、激しく弾き飛ばすイメージ。


すさまじい勢いで腕が伸長し、ホースのように曲がりくねった蛇首の中を進んでいく。

そして、最末端、胴体へと行き着く。


── ドフォン!


と、蛇首の中から、小さな爆発のような音が伝わってくる。

高速で送り込まれた岩が、魔物の内臓を破壊した音だ。



「うん、いけるな……」



狙い通りの戦果だ。

籠手こてを引き戻し、ちょっとだけガッツポーズ。


── シャアァ……ッ


不意に、蛇のような声が響いてきた。


俺は、慌てて振り返り、身構える。


しかし、他の巨大蛇首ロングネックたちは、威嚇いかくの声を出しながらも、ゆっくりと退しりぞいていく。

どうやら、やすやすと仲間をほふった俺を、未知の脅威だと警戒したようだ。



「……仲間を殺されたって、逆上して襲いかかってこなくて、良かった……」



ただでさえ覚醒イベント(自作自演)をこなした後だ。

さすがに連戦するほどの気力は残っていない。


俺は、周囲への警戒だけは解かずに、城壁へ戻るため駆けだした。





▲ ▽ ▲ ▽



「坊や、どこにいってたの!

 探していたのよ!」



死角の方から城壁をよじ登り、母の元に戻ると、強く抱きしめられた。

大分、心配させたらしい。


見た目相応の口調で、あらかじめ用意していた言い訳を告げる



「おトイレー。

 あのね、ひとりで下まで行けたの。

 えらい?」


「そうなの、えらいわね。

 でも次からは、ひとりで行っちゃダメよ。

 ちゃんとママに言ってね?

 知らない人について行ってもダメ」


「うん……わかった。

 あの、お兄ちゃんは?」


「無事みたいじゃよ。

 護衛官の方が助けてくれたようじゃ。

 本当に、ありがたい事で」


(まあ本当は、魔物に襲われたのは、お兄ちゃんじゃなくて別の人だったけど……)



無線も携帯電話もない世界では、すぐに連絡を取りようがない。

情報が錯綜さくそうしても、仕方ない。


ただ、なんだか今回の騒動を思い返すだけで、微妙な気分になる。

人命救助とか、新技の習得とか、スッキリ要素もあったはずなのに。

なんで俺、人助けするたびに、気が滅入るブルーになるんだろうな?



「神様のご加護ね。

 一緒にお礼のお祈りをしましょう?」


「うう~ん……」



神サマかみさまとか、何も働いてない気がするんだが。

とういうか、マジそろそろ仕事してもらってイイですか、転生神かみさま


しかし、そんな意味不明な文句を言って、母を困らせても仕方ない。

だから俺は、別の事で話題を変える。



「── ママ、あれ何?」



特帯とかいうアクマ合体SL戦車に、出発時になかった、旗が揚がっている。

見ている内に、旗立ての竿が倒され、3色の旗が回収されていく。



「あれはね、『みんな無事です』っていう、お知らせだって」


「本当によかったよかったぁ……。

 家に帰ったら、もう一度、神様にお礼を申し上げんとなぁ」



しばらくの間、母と祖母と3人で夜明けの空の下で、遠くの都市へと旅立つ家族の無事を祈る。


見ている内に、SL戦車と3連結の客車・輸送車両が遠ざかっていく。

前世で、新幹線や飛行機を見慣れた俺からすれば、随分とゆっくりとした進行速度だった。

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