第210話 春近、遂に怒る

 お風呂にヒロイン全員集合してしまうという、まさかの展開に突入してしまった。

 右を見てもおっぱいおっぱいおっぱい、左を見てもおっぱいおっぱいおっぱいである。

 もう、訳が分からない――――



「お、おのれ、謀ったな! 我れに木太刀の一本なりともあれば!」


 春近が叫ぶ。

 気分は源義朝みなもとのよしともだ。


「こんな時でも歴史ネタのギャグを入れてくる春近君……さすがであります!」


 杏子が春近渾身のギャグに反応した。



 源義朝みなもとのよしとも――――


 平安時代の武士。

 保元ほうげんの乱で武勲を立て勝利するも、敵方に分かれていた父である源為義みなもとのためよしを、その手で斬首するという悲劇的な結末になる。涙ながらに父を斬るも、世のそしりを受ける結果となった。


 その後、平治へいじの乱を起こした源義朝だが、その原因は、父の助命を却下したとされる信西しんぜい憎しとも、平清盛たいらのきよもりなど平家一門との恩賞の格差への恨みとも言われている。


 しかし、平家の大軍に惨敗し敗走した源義朝は、一門も家臣も馬も草履さえも失い彷徨い続け尾張おわりまで辿り着き、家人である長田忠致おさだただむねの家にかくまわれる。

 しかし、平家からの恩賞目当ての長田親子に裏切られ、浴室で裸になったところを襲撃され殺害されたのだ。

 入浴中に襲撃を受けた際、「我れに木太刀の一本なりともあれば」と無念を叫んだとされる。


 源義朝は後の鎌倉幕府を作った頼朝よりともや超有名な義経よしつねの父親である。

 息子が父の無念を晴らし平家は滅亡し、裏切り者の長田忠致も悲惨な最期を遂げる事となるのだ。



 と、そんな歴史ネタなど興味もない彼女たちはジリジリと裸で距離を詰めてくる。

 杏子だけ反応してもらえただけ良しとしよう。


「しまったぁあああ! 歴史に思いを馳せていたら、完全に包囲されて逃げ場が無い!」


 こんな時でもオタク心を忘れない春近は大したものだ。

 だが、飢えた獣のようなエッチ女子に完全包囲され絶体絶命になってしまった。


「ま、待て! 話には続きがあるんだ。裏切り者の長田忠致だが、後に源頼朝が平家追討で挙兵した時には、ちゃっかり平家側から離反し自分が殺した男の子供である頼朝側についたんだよ。頼朝は、親の仇である憎き男に『大いに働いたら美濃尾張みのおわりを与える』と約束したんだ。長田忠致は功績をいくつも挙げたのだが、平家滅亡後に父の仇であるとして残虐な方法で処刑されたんだ。その理由が『身の終わりを与える』と約束しただろってギャグだったんだよ! どうだ」


 春近が黒百合ばりに『ふんす!』という感じにオチを話したのだが、誰も聞いていないかのようにジリジリと距離を詰められていた。


「くっ、ダメだったか……もう万策尽きた……」


 壁際に追いつめられた春近に、笑顔のルリがボディーソープで泡泡の手をニギニギする。


「ハル、泡泡になってイチャイチャしようね♡」


「ううっ……ルリぃいい、そ、そんな魅惑的なプロポーションと煽情的な表情で泡泡とか言われると、もうそれだけで限界になってしまいそうなんだけど……」


 ルリの横には獲物を狙うような目つきの天音もいた。


「ハル君っ♡ 気持ちよくしてあげるねっ! ぐへへぇ♡ 私がカラダの隅々まで洗ってあげる♡」


「あ、天音さん……その天才的なテクニックで色々されたら……大変なことになってしまいそうな……」


 更に恐ろしいの渚である。


「は、春近、その……あの……今は屋内だから良いわよね……」


「渚様ぁぁぁ! そんな恥ずかしがって変なこと言うのは、何されるのか分からなくて怖いからぁあああ!」


 昼間に砂浜で顔の真上にしゃがまれた恐怖が甦る。いくらドSな彼女が好きでも、超えてはいけない一線はあるのだから。



 風雲急を告げる浴室に、一人だけ歴史ロマンに浸るヒロインがいた。


「うんうん。繰り返される争いに権力を手にした者も滅びゆく無常観……歴史的ロマンでありますな」


 誰も聞いていないのかと思われた春近の話だが、一人だけ聞いて感銘を受けていたヒロイン。言わずと知れた杏子であった。



「ぐわあああああっーーーっ!」


 皆の手が伸びて春近のカラダが泡泡にされて行く。

 ただ洗うだけでなく、興奮した彼女たちによってエッチな手つきでコチョコチョされているのだ。


「お、おのれ、このまま負けてたまるか!」


 春近は力を込めて跳ね返そうとした。

 いまこそ鬼神王の力を見せる時だ。


 ただ、そんな春近に最強の肉体を持つ彼女が立ち塞がった。

 裸だと一際グラマラスでダイナマイトな肉体が際立つ忍である。


「は、春近くん、行きますね♡」


 ふにょっ――――


 忍の大きくムッチリしたカラダが、春近の顔の上に降りて来てピッタリとハマってしまう。

 同時に両手をロックして動けなくしながら、顔にかかる重量を加減し痛くないようにしてくれている、優しさも兼ねた完璧な騎乗スキルだ。

 体重はかけないように気を使いながらも、密着度は数段増してグリグリとめり込ませながらも、たまに息ができるよう隙間も作ってくれている。


 このところ、忍の騎乗スキルが飛躍的に向上し、一流の格闘家ファイターである上に一流の騎兵ライダーにもなれそうだ。

 意味が分からないが自主規制なので仕方がない。


「んっ――――っ! もが――――っ!」


 両足も誰かに乗られてしまい、完全に無防備無抵抗になった春近に、彼女達全員の何十もの手が伸び、春近のカラダは色々な個所を一斉に撫でまわされる。

 もう、何が何やら分からない。


「ハルぅぅぅ~」

「春近!」

「ハル君、すごいっ!」

「はるっち~」

「春近君」

 ――――

 ――


んんんんんっもう限界だぁ――――っ!」


 チュドォォォォォォォォォーン!

 春近が限界突破し、まるで夏の花火のように高く宙を舞い飛び散った。

 取り囲んでいた彼女たちも茫然とする。


「「「あっ…………」」」


 その光景に全員が固まってしまう。

 凄いテクを持つエッチ女子が全員で攻めてしまったのだ。

 元からM攻めに対する抵抗力があり、鬼になって格段に強くなった春近でも、最強エッチ女子軍団全員の攻めを耐えられるはずもない。



「えっと……ハル……大丈夫?」


 わなわなわな――――

 春近は、体をわなわなと振るわせながら起き上がる。


「もおぉぉぉぉぉー嫌だぁああああああ! 皆の見ている前でだなんて恥ずかし過ぎる! もう、怒ったからああああああ!」


 ドタドタドタドタドタ!

 春近は……そう言うと、走って浴室を飛び出して行った。


 ――――――――




「どどどおおおおしよぉぉぉぉぉーっ! ハルが怒っちゃった!」


 ルリが頭を抱えて右往左往している。

 今まで何をしても優しく接してくれていた春近が怒ったのだ。

 ルリは完全にテンパってしまった。


「だから言ったはずです。春近が優しいからといって、自分の欲求ばかりをぶつけていては、いつか破局が訪れてしまうのだと」


 アリスが、前から何度も言っていた話をする。


「あああああっ、ごめんなさいいいいいぃぃぃーっ! って、アリスちゃんも一緒に触ってたじゃん!」

「ギクッ!」


 普段は大人しいアリスだが、この時は興奮する皆にあてられ昂ってしまい、一緒にモミモミしてしまっていた。


「うううっ、性欲に負けてしまって自己嫌悪です……」


 アリスがヘコんだ。


「あああっ……あたしの春近……ああああっ……」


 渚がショックを受けて放心状態になっている。今にも気絶しそうなほどの大ダメージだ。


「おい、渚が何かヤベェぞ」


 倒れそうになる渚を、咲が支えている。


「この子、意外と打たれ弱いから……」


 あいが一緒に支えて渚をソファーに寝かせた。




 その頃、春近は――――

 部屋のベッドに潜り込んで羞恥に悶えていた。


「くうぁああああ~っ! い、いくら何でも皆の前でだなんて……は、恥ずかし過ぎる……。皆で同時にだだなんて……そりゃ気持ち良かったんだけど……。でも、ちょっと強引過ぎるだろ……とにかく今は恥ずかしくて無理だ……皆に合わせる顔が無ぇ……」


 怒りよりも恥ずかしさでいっぱいになり、一人閉じこもっていた。

 だが、皆で弄られたご褒美的展開には、体の芯がジンジンと熱くするものがあったのも事実である。



 果たして、春近を怒らせてしまった彼女たちは、仲直りしてラブラブな夜を過ごす事が出来るのか。

 彼女たちの、『春近ご機嫌直して作戦』が始まろうとしていた。

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