第194話 感動の再会?
東の空が明るくなって太陽が顔をのぞかせる。
周囲が明るくなってくると、河原や土手などに呪力で派手に戦った痕跡が目立つ。ただ、住宅地から少し離れていて目撃者はいないようだ。
後は陰陽庁が適当に隠蔽してくれるだろう。
「はわわわわ~っ♡ ハルが、ハルが、何かよく分からないけどカッコいい♡」
ルリが春近を惚れ直したのか、更にデレデレになってしまった。
中二っぽいネーミングの必殺技名を叫びながら戦った春近だが、実際は天敵である蘆屋満彦を華麗に倒してしまったのだ。
何やら最強主人公っぽい感じにカッコつけていたら、ルリのハートにドストライクで突き刺さってしまったらしい。
もう、目がハートになって完全に蕩けてしまっている。
「ルリ、言ったはずだぜ。オレが守るって」
「きゃああああっ! ハルぅぅぅぅぅ~♡」
ルリのテンションが凄い。
散々心配をかけてからの、ド派手なバトルシーンを見せられ、心の振れ幅が大き過ぎて乙女心が大暴走なのだ。
「ルリ、おいで。ちゅ……」
「あっ♡ はむっ、ちゅっ……んっ♡」
ルリを抱き寄せ、軽くついばむようなキスをする。
軽く、くちびると触れ合わせてから離れた。
「ああっん♡ もっとぉ~」
「ルリ、また後でね」
「はう~んっ♡ ハルのいけずぅ~」
こんなことをしながらも春近は、内心ドキドキだった――――
アニメなどで最強の力を手に入れた主人公っぽい言動を真似してカッコつけているのだが、やめるタイミングを失って困っていた。
どどどどど、どうしよぉおおおおおう!
これ、もうちょっと続けた方が良いのか?
オレ最強みたいなのをやってみたかったけど、かなり恥ずかしいのだが。
まあ、ルリは喜んでくれてるみたいだけど。
そんな春近だが、更にやめるタイミングを逃してしまう。
「ハル~!」
咲の声が聞こえてきた。
「あれは……皆」
土手の向こうから咲たちがやって来るのが見える。
皆、春近を見つけると心配そうな顔で駆け寄って来た。
「ハル……よかった、無事だったんだな。でも、何か雰囲気変わったような?」
春近の前まで駆け寄った咲だが、前と違った春近の印象に戸惑っている。
「咲……実はオレ……お、鬼になったんだ」
「へっ?」
「「「「「ええええええええっ!!」」」」」
春近の一言に、彼女たちは一斉に驚いた。
「えっ、鬼……でも、ハルはハルなんだよな。何も変わってないよな」
抱きっ!
戸惑う咲に、何故か春近はハグで答える。
「咲、オレはもう昔のようなヘタレじゃないぜ! 最強の王に生まれ変わったんだ。もう、止まらねぇぜ! 今夜は寝かさねえから覚悟しとけよ!」
「ぶぶぶぶぶぶぅぅっふぁぁっ! ははは、ハル、何言って……ね、寝かさ……ねえって、え、えええっ! えへっ♡ それは嬉しいけど……ってそうじゃなくて! やべぇ……ハルが変になっちゃった。でも、ちょっとカッコいいかも……」
咲の腰を抱き寄せて、目を見つめながら今夜は寝かさないアピールをすると、速攻でふにゃふにゃになってしまい顔は今夜の事を想像してしまったのかトロトロだ。
春近の中二っぽい設定が、咲にも効果絶大だった。
そんなふざけた春近に、心配で心配で倒れそうだった渚が前に出る。
「はあ? ちょっと春近! ふざけてんじゃないわよ! こっちは心配してたのに!」
「おい、渚!」
「えっ? は、はは、春近?」
勢いよく出た渚だが、意表を突いた春近の名前呼び捨てと抱きしめ攻撃をくらって、何かもう訳が分からないくらい無防備になってしまう。
「オマエはオレの女だろ! オレが死ぬわけねえだろ。信じろよ。あと、オマエは夜お仕置き確定な!」
「は、は、は、春近! えっ、ええええっ……な、ナマイキよ! 春近のくせに。何かムカつく……ううっ、何かしら、カラダがジンジンと疼いて……あっ♡」
表面上怒っているような素振りの渚だが、内心は乙女な部分にクリティカルヒットをくらってしまい、膝がガクガクして起っていられない程になってしまう。
まさかのドS女王にまで効き目抜群だった。
続いて和沙が詰め寄った。
「お、おい、ハルちゃん……」
「和沙ちゃん。可愛い和沙ちゃんには、後でたっぷり甘やかしてやるからな。待ってろよ」
なでなでなでなでなで――
「ぐふうぅぅぅっ! ひゃ、ひゃい、待ってるぅ♡ いっぱいナデナデちてぇ♡」
一瞬で和沙が壊れ気味になってしまい、人前なのに変な口調になってしまった。
更に春近は和沙の隣にいる遥にも手を伸ばした。
「おい、遥!」
顎クイ!
「オマエも頑張ったな。後でご褒美やるからな」
「えっ、ええっ! きゃ、きゃああああぁ~ん♡ 春近君……いや、ハル様ぁあああっ!」
遥は元から少し強引なオレ様系春近がドストライクだった。
そんな中、このイケイケな春近にご不満な彼女がいた。
杏子である――――
「うーん……カッコよくなったりヘタレじゃなくなったのは良いとして、あまり調子に乗っているとアニメハーレムダイヤリーの佐藤君みたいにならないか心配です。バッドエンドだけは避けたいのであります」
杏子の呟きに、春近が彼女の耳元に顔を寄せる。
「杏子……だ、大丈夫だよ。鬼になったり強くなったのは本当だけど、中身は全然変わっていないから。ちょっと最強主人公系キャラを演じているだけだから。(ぼそっ)」
「な、なるほど。そうでありましたか。急にイケイケな陽キャになってしまったのかと心配しましたよ。やっぱり春近君は前の少しヘタレな方が私は好みでして……(ぼそっ)」
「ぐっ、そ、その気持ち分かるぜ。オレも大人しくてオタクだった彼女が、急にパリピみたいになったらショックだと思うから。(ぼそっ)」
杏子とは似た者同士なだけあって、考えていることも同じだった。
もう一人、春近を見抜いている彼女がいた。
ジィィィィィィィィ――――
天音がジッと春近を見つめている。
な、何だろう――
天音さんがオレをジッと見ている気がする。
ヤバい、すっごい見てる。
もしかしてバレてるのか……?
「ハル君っ!」
「あ、天音さん……」
「えへへっ」
「えっ……?」
「もうっ、ハル君は凄いねっ! 本当はツラくて大変だったのに、皆を心配させないようにわざと強がっているんだよね」
天音は、天使のような笑顔でそう言った。
そして、春近を優しく抱きしめる。
「ハル君可愛い♡ カッコつけてるハル君も可愛いよ」
耳元で
天音には何故か全部バレていた。
鋭い観察眼である。
「ハル君、もう元に共しても大丈夫だよ。ずっとそのままだと疲れるよねっ」
「えっ?」
「は?」
「ん?」
天音の言葉に一部の女子から驚きの声が出る。
「ちょっと春近……あんたまさか……」
「あの、渚様、一旦落ち着きましょう」
「やっぱり!」
渚に迫られてボロが出てしまい、もう完全にバレバレになってしまった。
やはり、カッコつけて攻め攻め春近は、長くは続かないようだった。
「まあまあ渚ちゃん、ハル君も悪気があったんじゃないんだよ。皆を心配させないように、わざとおバカなコトしてたんだから」
「天音……まあ、それなら……でも、春近は後でお仕置き確定ね!」
お仕置きが確定なのは、はやり春近の方だった。
そんなことを言っている渚も、内心は愛しの春近が無事だったのが嬉しくて照れ隠しなところもある。
なにしろ、先ほどまでは春近のことが心配で心配で倒れてしまいそうなくらいだったのだから。
そんなボロが出た春近だが、ルリはやっぱり惚れ直しているようでラブラブだ。
「ハルぅ♡ はぁ、ハルが無事で良かった。一時は死んじゃうかと思ったんだから」
「ルリ……心配かけてゴメン……」
「もぉ、ホントだよぉ。ハルは心配ばっかりかけるんだからぁ」
ルリが春近を支えるように体を寄せる。
本当に死の直前まで行き、ルリも大泣きしてしまったのだから。
ルリは、皆に春近が死にそうだったことや、アリスの因果反転が成功して復活した経緯を説明した。
「ハル! 心配させんなよ! バカっ!」
「咲、ごめんね」
「春近……うっ、ううっ……」
「渚様、泣かないで」
「泣いてないぃぃ~い!」
「はるっちが無事でよかったぁ~」
「まったく、心配ばかり掛けて。ハルちゃんにも困ったものだ」
「春近くん……本当に良かった……」
「みんな……ありがとう……」
少し余計な小ネタがあったが、皆は感動の再会を果たした。
涙を流す者、体が無事なのかペタペタ触って確認する者、抱きついて感情を爆発させる者など様々だ。
「本当にハルは凄かったんだよ、咲ちゃん。王子様になって、ドカァァァンって!」
「何だよドカァァァンって?」
ルリが皆に説明を続けているが、ドカァァァンとかズバァァァンとかが多くてイマイチ要領を得ない。
それにしても、春近は王なのか王子様なのか、ハッキリしなくてよく分からないところだ。
「それでね、蘆屋
「おい、ちょっと待て! 蘆屋って、あの蘆屋満彦のことか?」
「うん、ハルが倒しちゃって、そこに転がってる……」
「ん? うわぁああああっ! ホントに転がってるじゃねーか!」
咲が河原を見ると、確かに蘆屋満彦が倒れていた。
「「「きゃぁぁぁぁぁっ!」」」
今の今まで彼の存在に気付いていなかった彼女たちが、蘆屋満彦を見て一斉に声を上げる。
「ちょっと、大丈夫なの? 起き上がってまた攻撃したりしない?」
「遥ちゃん、大丈夫だよ。ハルが倒しちゃったから。『ドラヤキックカオスモンブランブレード!』シャキィィィン!」
「ドラヤキじゃねぇぇぇぇーっ!」
つい春近がツッコミを入れてしまう。
ルリぃいいっ!
それ全然違うぞ。
ついつい中二っぽいネーミングセンスを付けてカッコええって思ってたけど、他の人に言われると何だか小っ恥ずかしくなってくるような……
まあ、ルリが気に入ってくれているのなら良いかな。
「たぶん、もう蘆屋満彦は大丈夫だよ。オレが、じいちゃん……陰陽庁長官に連絡しといたから、じきに確保しに来ると思うのだけど」
満彦の件で陰陽庁に連絡したのだが、肝心の自分が鬼になったことは伏せてあった。
余計な面倒事を増やしたくないだけなのだが、まだまだ一波乱ありそうな予感である。
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