第68話 キャンプ編Ⅲ 淫靡な夜
春近は、ロッジの入り口のドアノブを手に取ったまま立ち尽くしていた。
この扉の向こうには、どんな色欲の園が広がっているのか。一歩踏み入れたら二度と戻れない、淫乱な魔女の夜会なのでは。
そんな妄想が頭をよぎる。
いつまでも立っているわけにもいかない。
春近は、恐る恐るドアを開けた。
ガチャ!
「ハル、遅いよー」
「トランプやろ~」
「早く来いよな」
至って普通だった――――
ルリたちはトランプを広げて春近を待っていたようだ。
これには一人でエロい事考えていた春近が拍子抜けする。
「じゃあ、オレもやろうかな」
部屋に入った春近は適当な場所に座る。
ふと、視線を感じて顔を動かすと、渚と目が合った。
一瞬だけ意味深な笑みが彼女の口元に浮かび、春近はさっきの激しいキスを思い出して顔が火照る。
「ハル、顔が赤いよ」
それを見ていたルリにツッコまれる。
「どうせエロい事でも考えてたんだろ」
咲にも言われてしまうが、まさにその通りである。
「くっ、オレのせいなのか。皆がエッチなせいでは……」
そう春近が言うが、余計なことを言ったら更にエロ攻めされそうな気がしないでもない。
トランプを一通り遊ぶが、アリスの圧勝で終わった。
強すぎて誰も勝てない。
さすが一人でゲームを極めた達人だ。
「ううん……むにゃぁ」
アリスがおねむ状態になってしまった。
「ほら、ちゃんとベッドで寝ような」
「んんんむにゃ……子供扱いするなです……すうすう……」
アリスを抱っこした春近が、優しくベッドに寝かせてあげた。さっきまでトランプで無双していたとは思えない。
そして夜も更け、皆それぞれ寝ることになった。
最後まで何事もなく春近としては、嬉しいような残念なような気持ちだ。
「皆、遊んで疲れてたのかな……(ぼそっ)」
小さな声で呟いた春近は、明かりを消して自分の布団に入った。
ロッジの中は二段ベッドが三組で六人が寝て、床の布団に三人が寝るようになっている。
春近は床の布団に寝て、両隣はルリと渚が確保していた。狙ったような配置である。
リリリッ、リリリッ――
外で聞こえる何かの虫の音に混じり、二人の小さな寝息が聞こえる。
春近は緊張で全く眠れないでいた。
ううっ、緊張する――
女子だらけの部屋で、男はオレだけとか。
こんなの興奮するなって言う方が無理だよな。
このまま眠りにつこうとした矢先、隣のルリが布団の中でゴソゴソしている音が聞こえた。
そしてルリは、春近の布団に潜り込んでくる。
ごそごそっ――
「ハル、一緒に寝よっ」
「う、うん」
ルリを布団に入れてあげた。
嬉しそうに抱きついてきて、絡み合ったままキスをする。
「ハルぅ♡ ちゅっ……」
「んっ、ルリ……」
ルリとイチャイチャしている春近の背中に、何やらモゾモゾとした感触がある。
春近が首を回して後ろを見れば、なんと渚まで布団に入り込んでいるではないか。
「春近、今夜は寝かさないわよ」
「えっ、あのっ、渚様?」
腕を春近の首に回し、足を絡めてキツく密着してくる渚。誰にも譲る気はないという表れだろう。
「春近、好きよ♡ ちゅっ……んんっ……ちゅちゅっ……」
脳が痺れるような激しい渚のキス。貪るような肉食系だ。
「ちょっと! 邪魔しないで!」
これにはルリが黙っていない。
強引に渚から引きはがして、春近の顔を自分の方に向ける。
「ハルぅ♡ 好きぃ~ちゅ……むちゅ……うぅん……」
ルリの蕩けるような魅惑的なキス――――
「邪魔はあんたでしょ!」
渚に無理やり引きはがされ、再び左向きにさせられた。
「春近ぁぁぁんんっ♡ ちゅっちゅっ……ちゅぱっ……むうん……」
渚の痺れるような激しいキス――――
グイッ!
再びルリに向きを変えられる。
「もう! ハルは私の事が好きなの! ハルぅ、ハルぅ、ハルぅ♡ ちゅ~っ」
更に渚が逆向きにする。
「だから! 春近はあたしのモノだって言ってんでしょ! 春近ぁ、春近ぁ♡ 全てあたしのモノ、誰にも渡さない! はむっ……ちゅ……」
二人同時の交互連続キスの嵐。
これには春近もたまらない。
「んんんっ……ぷはっ! ちょ、ちょっと待って! 騒ぐと皆が起きちゃうだろ!」
さすがに激しい求愛のキスの嵐に、周囲のベッドからカサカサと寝返りを打つ音が聞こえてくる。
むしろ春近の注意の声が大きくて目を覚ましちゃったようにも見える。
暗闇の中で、何人かのベッドからゴソゴソと音がしているのだ。
ふと、春近が枕元に気配を感じて見上げると、そこには忍が立っていた。
「あ、あの……忍さん……?」
「春近くん! 私、もう我慢できません!」
「あ、あの、忍さん?」
ガバッ!
忍は、春近を強引に引っ張り上げると、強烈なキスをしてきた。
「はぁぁぁん、春近くぅぅん♡ むちゅぅぅぅぅぅ……」
「えっ……」
「はあ……」
ルリと渚が、突然乱入した思わぬ伏兵に
「ずるい! アタシもハルとイチャイチャしたかったのに!」
そこに咲が乱入してきた。
「ハル、ハル、大好き!」
「もぉっ、みんなが寝てから、うちがしようとしてたのにぃ」
当然、あいも乱入している。
「はるっちぃ♡ ちゅぅぅぅぅぅぅぅ~」
何人もの女子に迫られハーレム状態だが、まさかの下半身にも誰かの手が伸びている。
「旦那様……わたくしにも
栞子だった。
「やっぱりこうなりましたか……皆が寝静まってから、こっそり添い寝しようとしてたんですけどね。考える事は皆同じですね」
杏子まで春近の顔を覗き込んでいる。
「んん~~っ! ぷはぁ! す、鈴鹿さん、見てないで助けて!」
「こうなってしまっては私には止めるのは無理ですね。でも、淫乱な責め苦に耐える土御門君の顔もなかなか……くふっ」
杏子は羞恥と苦悶に乱れる春近の表情を見ながら顔を上気させていた。
「うわわわわわぁぁぁぁぁ――――」
皆の怒涛のエチエチ攻撃により、春近は凄まじい快感に襲われ生命の危機を感じた。ゴールデンウィークの旅行の時とは、比べ物にならないくらいの快感が押し寄せた。
それもそのはず、エッチ女子が増え更に皆の淫乱ゲージが限界突破しているのである。
もう、ダメだ………………
春近は人の成し得る快感の極致に達して、そのまま意識が遠のいていった。
――――――――――――
チュン、チュン、チュン――――
「――――んっ、朝……?」
あれ、オレは何をしていたんだっけ……?
何か重要な事を忘れているような?
春近は布団から起き上がる。
「あっ……ハル、起きたんだ……昨日はごめんなさい」
ルリが突然謝って来た。
「春近、昨日は悪かったわね」
渚まで謝ってくる。
「えええっ! あの渚様が謝るなんて一体どうなってんの?」
「あのって何よ!」
立ち上がってロッジから出ると、皆が朝食の準備をしていた。
「ハル、コーヒー飲むか?」
咲がコーヒーを入れてくれる。
「旦那様、すぐ朝食の準備をしますから」
栞子が料理を作っている。
「春近くん、疲れてないですか? 肩をお揉みしますね」
忍が肩を揉んでくるた。
何故か皆が優しい……
「う~ん、何かを忘れているような? えーと……そ、そうだ! 思い出した! 昨日、凄いエチエチ攻撃を受けて」
あの後どうなったんだ――――
横で食器を並べている杏子に声をかけた。
「鈴鹿さん、一体どうなったんですか?」
「あの……その……私からは言えません……すみません……」
顔を赤くして、とても言い難そうにしている。
「気になる、余計に気になる! いったい何があった」
釈然としないまま朝食を食べ、帰りのバスに揺られている。
バスの中でも皆が春近を気遣ってくれて優しい。
それが春近は余計に気になってしまうのだ。
「誰か……そうだ、アリスなら」
アリスを見つめると、「よしよし」と頭を撫でてくれた。
「だから、余計に気になるんだよぉぉぉー!」
「あれ、ハル? どうしたのハル?」
「ちょっと、大変!」
「はるっちがー!」
春近が失神してしまった。
「ハルぅぅぅぅぅ」
「ちょっと、こういう場合は揺すらないで、そっと寝かせておいた方が良いんじゃないの」
皆、パニックになった。
「もう、うるさくて眠れないです!」
アリスが少し怒った顔でベッドを降りた。
「いいですか、あなた達! いくら好きでも、無理やり襲うのはダメです! 恋愛には駆け引きが必要なのです! 押してるだけでは逃げられますですよ!」
アリスが恋愛論を語りだす。(しかし、アリスも本やネットで観ただけの耳年増である)
「でも、ハルは性格の悪い私も好きだって言ったし……」
ルリが反論するも、アリスには敵わない。
「それです! 相手の優しさに
「ガァァァァァン!」
ルリは図星を突かれた!
そ、そういえば……告白されてからというものハルが優しくて甘やかしてくれるから、部屋も散らかしっぱなしだったり、だらしない恰好していたり、我儘ばっかりだったぁああっ! ど、どうしよう……ハルに嫌われちゃうぅぅぅぅ!
アリスの放った矢は、渚の的にも刺さった。
春近はあたしのモノだし、あたしの事が好きだって言ってたし、あたしは絶対に春近を逃がさないから大丈夫よね。でも……
春近が逃げていなくなることを想像する渚。
サアアアアアアアッ――
渚は、とてつもない喪失感に襲われた。
それも立っていられなくなるくらいの強烈な心の痛みに。
彼女は彼女なりに春近の事を大切に思っているようだった。
春近は、あたしのモノだから大丈夫だろうけど……もう少し……優しくしてやろうかしら……
当然、咲にも。
ハル……悪い事しちゃったな。アタシもイチャイチャしたいけど、皆で一斉にやるのはハルの負担になっちゃうよな……
忍にも
春近くん……ごめんなさい……いつも暴走しちゃって……性欲に負けてしまう自分が……
あいにも
はるっち……ごめんね……いつもやりすぎちゃう……はるっちを見てるとエッチな気持ちになっちゃうから……
「旦那様……もっと夜の営みを……でも、ご負担になるのなら……」
栞子は心の声が漏れていた。
そんなわけで、一番小さい(身長が)アリスが一番大人な事を言って、暴走するエッチ女子達を戒めたのだった。
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