第37話 GW編Ⅶ 恋人つなぎ
旅館をチェックアウトしてから、咲に肩を貸してもらって歩く。
一睡もできなくてフラフラだった春近は、誰かに肩を貸して欲しいと辺りを見回し咲に頼んだのだった。
ハルがアタシを選んでくれるなんて……嬉しい――――
咲は、そう思いニマニマと頬を緩ませている。
「いいな、いいな」
拗ねてプク顔をするあい。
「するーい!」
ルリも不満を口にする。
他の女子も同じように文句タラタラだ。
どうして咲を選んだかと言えば――――
ルリとあいはスキンシップが激しすぎて余計にフラフラになりそうで、渚は扱いが激し過ぎるという理由だ。
春近にとって一番安全そうな咲になった。
咲は変なスイッチが入らない限りは、とても良い子だから。
春近が咲を見ていると、ふと目が合った。
「なに、見てんだよ……」
咲はテレて顔を赤くしながらうつむく。
そして昨夜のキスを思い出す。
うわぁぁ……ハルとキスしちゃったんだよな……恥ずかしくてハルの顔をまともに見れねぇ……
「え、えっと、別に……」
同じように、春近もキスを思い出していた。
うぅぅぅ……オレ、キスしたんだよな。咲がいつもより可愛く見える……
二人共、心の中で同じ事を考えていた――――
「良い雰囲気ですね……旦那様……」
後ろから栞子がダークオーラを垂れ流しながら覗き込んでくる。
「栞子さん、なんか目が怖いです……」
「ふふっ、そう見えますか?」
「は、はい……」
「次の目的地はココですよ!」
再び杏子が張り切っている。
鶴岡八幡宮、
「源頼朝といえば栞子さんが思い浮かんでしまう……」
「土御門君、源氏といっても、
春近の
前から春近が思っていたように、鈴鹿杏子は歴史に詳しかった。いわゆる歴女である。
「源氏といえば、
「おぉぉ!
杏子が早口で語りだす。
彼女の、このオタクっぽい感じが、春近とは気が合うようだ。
「というか、源氏は鬼の敵じゃなかったのか……」
「まあまあ、土御門君、今は皆と楽しくやってますし、源さんも敵じゃなくなったみたいですし」
当の栞子は、当初の任務などすっかり忘れ、新たな特級指定女子を攻略する任務も半分以上忘れて、今は春近の
二人で色々話していると、横にいる咲が割って入ってくる。
「何だか二人で楽しそうだよな」
少しだけ嫉妬した顔の咲が二人を引き離し、春近の手を引っ張って歩いて行く。
頬をぷくっとして
「ふふっ」
「何、人の顔見て笑ってんだよ! どうせアタシはルリみたいに可愛くねーし……」
「咲は可愛いよ……」
「えっ、か、かわ……何言ってんだよ……」
不思議と自然に可愛いなんて言葉が出てしまい、春近自身も驚いてしまう。
一人でいた時には気付かなかったが、人から好意を向けられるのがこんなに温かい気持ちになるなんて。
テレて顔を赤くした咲と手をつないだまま歩く……
つないだ手が、いつのまにか恋人つなぎのよう、指を絡ませる形になっていた――――
階段を下りて行くと、ルリと渚が口喧嘩をしていた。
ケンカといっても、前のような呪力で戦うようなものではなく、口で言い合いをしているだけなのだが。
この旅行で少しは仲が良くなったのだろうか……
そんな風に考えながら、春近は口喧嘩する二人を眺めていた。
その後は、大仏を見たり食事をしたりと観光を楽しむ一行。
何人もの個性的な美女を引き連れて歩く様は、街行く人の注目の的になってしまい春近は落ち着かない。
そして、今は帰りの電車に揺られている――――
両隣はルリと渚にガッチリと固められ、膝の上にあいが乗っていた。
ただ、座り方が逆だが。
あいは向き合うような形で座り、春近に巨乳を向ける恰好だ。
もう
栞子が帰りこそ隣を確保しようとしていたが、渚の迫力に圧されて泣く泣く席を譲ってしまい、再びダークオーラを出してしまった。
そして、大嶽渚が至近距離から
彼女は、とにかく圧が凄い。
睨んでいるから怒っているのかと思えば、腕を絡ませて抱きつくようにしているので怒ってはいないようだ。
少しでも隙を見せると、襲われそうで身の危険を感じる。
この旅行で春近は感じていたが、これが彼女なりの愛情表現なのかもしれない。
「はるっちー 楽しかったねぇー むぎゅ~」
あいが大きな胸を春近の顔に押し付けてくる。
「う、うぁ、ちょっと、くるしいよ」
当然のように渚の威圧感が上昇する。
「ちょっと、あい! あたしの春近に、そんなの押し付けないでよ!」
「渚っちも同じようにすれば良いじゃん むぎゅ~」
「やめなさいって!」
むぎゅっ!
何故か渚まで胸を押し付け、あいと渚に挟まれる格好になった。
「もおっ、ハル! 私の方を見てよ!」
ルリまで胸を押し付けてくる。
「うぅ……せめて外では止めて……恥ずかしすぎる――――」
電車内の注目を集めまくって、春近は羞恥心の限界突破したまま電車に揺られていた。
学園に戻ったら、残りの特級指定されている百鬼アリスと阿久良忍を攻略する事になるのだが、果たしてこのまま流されていて良いのだろうかと春近は自問自答していた――――
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