第34話 GW編Ⅳ 天才軍師あい?

 渚は部屋の布団に寝かされている。

 幸い、症状は軽いようだ。

 今は静かに寝息をたてて横になっていた。


「良かった。安心したよ」


 春近は安堵したが、皆は渚を心配しながらも、何故春近がのぼせた渚を連れて来たのかと不思議に思っていた。

「「「ジィィィィィィ――」」」


 あれっ、皆が疑惑の目を向けているような……?


「何で、ハルがお風呂でのぼせたこの子をおんぶして連れてきたの?」

 ルリが疑問をぶつけてくる。顔は笑っているが、目が笑っていない気がする。


「い、いや、偶然……?」


「何で疑問形なんだよ。もしかして……また……浮気……」

 咲が疑っているようだ。


「あっ、それはね、渚っちが抜け駆けしたんだよぉ」


 あいが全てバラしてしまう。


「やっぱり! ハルぅ~」

 ルリがジト目で見る。

「もしかして……ヤったのか……?」

 咲がヤったとか言い出して、大騒ぎになってしまった。


「「「えええええっ!」」」

「やややや、ヤってないから!」


 そんな中、渚が目を覚ました。

「あれ……? ここは?」


「体調はどう?」

 春近が声を掛ける。


「あれ……あんたは……」

「急に倒れるから心配したんだよ」

「そういえば、あたし……



 渚は、ぼんやりしていた視界の焦点が合うと同時に、風呂場での一連の騒動を思い出す。


「っう、くぅぅぅぅ……」


 渚は全て思い出した――――


 そうだ、あたし、お風呂でのぼせて……

 下着……は付けている……

 と……いう事は……この男に下着を履かされ運ばれたのか――――


 理解したと同時に急速に羞恥心しゅうちしんが膨らんでくる。

 自分で裸を見せつけるのには抵抗が無いのだが、気を失っている間に色んな所を見られたと思うと恥ずかしくてたまらない。


「くっ……屈辱だわ……」

 渚は凄い威圧感を出して春近を睨んだ。


「えっ、どういう事?」

 ルリが聞く。


「汚された……もう、お嫁に行けない!」

 渚様がとんでもない事を言い出す。


「「「えぇぇぇぇぇー!」」」


「ちょっと! 何言ってるの!」

 

「ハルぅ、どういう事か説明して!」


 ルリにガッチリ捕まって問い詰められる。


「いや、だから何もない」

「そうは見えないよ」

「ええええ……」


 ふと、春近が渚を見ると、手で顔を隠した隙間からニヤっとしながらペロリと舌を出すのが見えた。


 わざとだ!

 わざと変な事を言って、皆を刺激して楽しんでる。

 意外とオチャメな所があるようだ……なんて、そんな事を考えている場合じゃない!


「いやいやいや、それ嘘だから」


「春近ったら激しくて、何度も何度も……それで彼の首筋を噛んで耐えたの……」

 渚は、更に追い打ちをかけるような事を言う。


 すぐにルリが春近の浴衣を捲り、首筋にクッキリと付いた綺麗な歯形を確認された。


「ハルのばかぁぁぁー!」

「本当に浮気しやがったぁぁぁー!」

 ルリも咲も大騒ぎだ。




 皆に揉みくちゃにされてから、渚はやっと誤解を解いてくれた。


「あはっはっ! 最高! 春近ったら良いリアクションするわね!」


 ご機嫌になって笑っている渚。いつの間にか春近を名前で呼んでいる。

 少し打ち解けたようだ。


 ガバッ!

 突然、渚は春近の襟元を掴んで引っ張った。


「春近! あんた気に入ったわ! あたしのモノになりなさい! たっぷり調教してあげるから!」

 渚は興奮気味に上気した顔で、春近を組み敷いてくる。


「ええっ、な、何を言って……」

 これは……デレたのか? いや、最初からこんな感じだった気もするし……

 でも、ちょ……調教というのは……


「ちょっと! どういう事!」

 再びルリが騒ぎ出す。


「どうもこうも、あたしたち主と奴隷の主従契約を結んでんのよ! 残念だったわね! もう、春近はあたしのモノだから! あんたたちはあきらめなさい!」

 渚は堂々と皆の前で宣言した。


「ちょっと、渚様! そんな契約結んでないでしょ!」


「“様”ってどういう事!? わぁぁぁぁぁー! ハルが奴隷にされちゃったぁぁぁぁぁー!」

 ルリが大泣きする。



 そんなハチャメチャ展開の中、あいは嬉しそうに笑っている。

 もしかして渚を皆の仲間に入れる為に、全て計算ずくだったのではとさえ思えるくらいだ。

 こう見えて、実は凄い人なのではと春近は思った――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る