第25話 黒ギャル

「やはり、そうなりましたか」

 栞子が言う。


 翌朝、栞子と教室で話し合い、春近が最初に聞いた言葉だ。


「百鬼アリスさんには謎の呪力があり、これまで陰陽庁も手を焼いて来たのです。偶然が重なったり読みが全て外れて計画が失敗したり……もしかしたら、彼女は運命を操る呪力があるのかもしれませんわ」


 そう栞子が説明した。


「それって最強クラスのチートスキルなのでは?」

「そうですね……」

「会えないことには何もできないけど」


 困った顔をした春近に、栞子が別の提案をする。


「取り敢えず、百鬼さんは後にして他の女子と接触してみてはどうですか?」

「そうですね……」


 阿久良忍の顔が思い浮かぶ。



 昨日、ぶつかってしまった阿久良さんは、とても良い人そうだったな――

 こちらからぶつかってしまったのに、逆に申し訳なさそうにしていてオレを気遣ってもくれたし。

 阿久良さんと話してみようかな……。


「じゃあ、阿久良さんに――」

「ハぁぁルぅぅ」

 ぼよんっ!


 喋ろうとしたオレの頭の上に、ルリが巨乳を乗せてくる。

 柔らかくて弾むような感覚だ。


「ハル、もうすぐゴールデンウィークだよ! 遊びに行こうよ!」

「うわぁぁ、乗せないでーっ!」

「行きたい! 行きたい! 行きたい!」

 たゆん たゆん たゆん


 ルリの動きに連動して、頭に乗った“おっぱい”が、たゆんたゆんと動き春近を刺激する。

 このままでは、超破壊力のチチノセ攻撃で、春近の身体の一部分が大変な事になってしまいそうだ。


「良いですね。旅行とか……」

 何故か栞子が顔を寄せ、手を春近の下半身に伸ばしてくる。


「ちょっと、栞子さん! 何するんですか!」


「旅行に行って……初夜を共に……旦那様……」

 栞子は、まるでヤンデレキャラのような顔をして暴走気味だ。


「ちょっと! するい! 私も!」

 ルリも負けじと春近の下半身に手を伸ばす。


「ダメだって! やめろってば!」


 春近は必死にアソコをガードする。

 教室内で、もしもの事があっては大問題だろう。

 破廉恥禁止である。


「耐えろ! 耐えるんだオレ!」


「耐えなくて良いよぉ」

「むしろ突き進むのみですわ!」


 耐える春近に、二人の女子はグイグイ行く。

 こまった二人だ。




 昼休み――――


 春近は、校舎の屋上で一人考えを纏めていた。

 教室ではルリたちのエチエチ密着攻撃が激しくて、全く考えが纏まらないのだ。隙を見ては屋上に向かったのだった。


「困ったな……」


 他のクラスの女子と仲良くなるといっても……

 この学園に入ってから、急にモテモテになり女子と頻繁ひんぱんに話すようになったけど……。前までは陰キャオタクだったオレには、他のクラスの女子をナンパするような行為は苦手だし。

 いやいや、今までも受け身だったし……

 どうしようか――――



「あれ~キミ噂のハルチカ君じゃ~ん」


 突然、後ろから声をかけられる。

 ちょっと元気で可愛い声なのでビックリする。


「えっ」


 振り向くと、そこには黒ギャルが立っていた。

 オレンジ色のハイライトが入ったふわふわした髪、活力溢れるツヤツヤの褐色の肌。制服の胸元を大きく開け、ムチッとした胸の谷間が丸見えだ。同じくムチッとした脚には、少しくたびれたルーズソックスを履いている。



 羅刹らせつあいさんだ――――

 これは凄い偶然だぞ!

 いや、これも鬼寄せのスキルなのか?



「キミ、凄い噂になってるよぉ」

 少しギャル風で舌足らずな感じに彼女が話す。


「あ、あの、初めまして。土御門春近です」

「きゃはっ、まじめか!」


 笑われてしまった……


 胸元が大きく開きすぎて、派手な色のブラや大きな胸の谷間が見えまくっている。

 そんな彼女の姿に、春近はチラチラと胸元に目が行ってしまう。


「あっ、今、胸見たでしょ!」


 速攻でバレた。

 一瞬のチラ見を彼女は見逃さなかった。


「さわりたい? おっぱいさわらせてあげよーか?」

 あいは胸元を広げて、おっぱいを向けてくる。


「あっ、そのっ、えっ……」

「うっそー! きゃははっ、キョドりすぎぃ~ 期待しちゃったー?」


 からかわれてしまう春近。


「あの、何か用ですか?」

「何ってぇ、噂の男子が、どんな子なのか見にきたの」


 そういって彼女は春近の隣にきて、イタズラっぽい感じの目を向ける。


「ねえ、はるっちはさぁ……」

 いきなりあだ名呼びだ。


「酒吞瑠璃と付き合ってんの?」

「はあ?」


 な、なな、何を突然――――

 ど、どうなんだろ? 傍から見れば付き合っているように見えるだろうけど、咲からも告白されているので、不用意な事は言えないし――――


 春近が返答に困っていると、あいはとんでもない事を言い出した。


「あっ、四股だったっけ?」

「ええっ! そ、それは……」

「ねぇ、はるっちぃ……」


 あいは春近の首に腕を回して体を引き寄せた。

 大きく開いた胸元から魅力的な褐色の肌が見え、プニッと胸が顔にあたる。


「ちょっとぉーおっぱい見過ぎでしょー」

「近い、近いですよ! そんなにしたら見ちゃいますって」


 最初に春近が資料の写真を見た印象は、苦手そうなギャルという感じだった。だが、実際に話してみるとフレンドリーで良い人そうに感じている。


 こ、これは、もしや、二次元にしか存在しない“オタクに優しいギャル”なのでは――?

 いや、そんなギャルは二次元にしか存在しないだろ……



「はるっちは、酒吞瑠璃が鬼だって知ってんでしょ?」


 ギャルについて考えている春近だが、突然、彼女から核心を突く一言が発せられる。

 それは、ふざけて絡まれエッチになった気分を、一気に現実に引き戻す一言だった。

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