第53話
なんだか目がさえてしまった。光子は水を飲もうと居間に向かった。
水を飲んで一息ついた光子は考えた。広也と広隆のことを。
自分は子供達と向き合ってこなかった。それは確かだ。だが、それがわかったところで今更何が出来るだろう。光子は広隆のことを考えた。決して悪い関係だったとは思わない。広隆はいい子だったし、なんの屈折もせずに立派に育った。——嘘だ。
光子は自分を張り飛ばしたい気持ちで考えた。正広が死んだ後、広隆は崩れた。それまでの明るい良い子の仮面を捨て去った。何もしゃべらず、笑わない。あの時の広隆は助けを必要としていた。それがわかっていながら、光子は何もしなかった。何をすればいいのかわからなかった。
結局、時が経つにつれ広隆は明るさを取り戻していった。
胸が痛かった。 広隆は誰にもすがれずに、全てを一人で抱え込んできたのだ。何故それに気付かなかったのだろう。いや、何故見て見ぬふりをしたのだろう。広隆は大切な——息子だったのに。
光子は台所を出て、まっすぐ自分の部屋には帰らずに座敷に向かった。襖をそっと開けて中を覗いた光子は空の布団を目にした。
広也がいない。
光子は全身がすっと冷えるのを感じた。
トイレだろうか。いや、廊下の途中にあるトイレには電気がついていなかった。では、広隆の部屋だろうか。
光子は足早に二階の広隆の部屋へ向かった。だが、二階に上がるまでもなく、広隆は階段下の玄関にぽつりと座り込んでいた。妙に小さく見える背中に広隆と声をかけると、彼は驚いたように振り向いた。その顔があまりにも幼く見えて、光子は駆け寄って広隆を思いきり抱きしめた。
広隆の手から落ちたビー玉が、玄関で固い音を立てて転がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます