20.神託の書に載ってないスキルって……ユニークスキルですよね!?
そうして僕たちは、冒険者ギルドに入った。
依頼掲示板の前には、すでに多くの冒険者が押しかけており、とても賑わっている様子だった。
そして昼間だというのに、お酒を浴びるように飲みながら、顔を真っ赤にしている冒険者の姿も見える。
僕はカウンターに進むと、受付嬢に向かって話しかけた。
「すいません、冒険者として登録したいんですけど……」
「かしこまりました。最近は狂暴化したモンスターが増えてまして……人手不足が深刻なんですよ」
受付嬢は完璧な笑みを浮かべて、そうしていくつか僕たちに質問をしながら、書類に何やら書きこんでいった。
「今後はティバレーの街を拠点に冒険者として活動されるつもりですか?」
「いいえ。基本的に1箇所に留まるつもりはなく、このまま東に進んで魔界を突っ切るつもりです」
僕の言葉に、受付嬢は驚きに目を丸くした。
「ま、魔界だなんて……。どうして、そんな命知らずなことを?」
「もちろん危険なことは知っています。それでも世界の果てを――師匠ですら見れなかった景色が見たい。夢なんです」
「ふふ、そうですか。分かりました――叶うと良いですね」
受付嬢が柔らかく笑う。
冒険者にとって、夢は様々だ。
未知のダンジョンを攻略して、財産を築きたい。
ネームドモンスターを倒して、有名になりたい。
そして未知の世界を求めて旅をする者も、また少なくない。
「それでは、最後に冒険者ランクを決めたいと思います。こちらの水晶に手をかざして頂けますか?」
「分かりました」
そう言って受付嬢が取り出したのは、ステータスを測定するための水晶。
まずはティアが水晶に触るようだ。
――――――――――
ティア・ムーンライト
LV:28
HP:236
SP:62
ATK:163
DEF:72
INT:91
SPD:66
スキル:剣姫
――――――――――
「おおお! その歳でレベル28とは、なかなか頑張っていますね。それにスキルも剣姫とは……将来有望だと思います!」
「ありがとうございます!」
ムーンライト領で、冒険者に混じって修行してきた成果だろう。
「どうよ、アレス!」
「すごいよ、ティア! また腕を上げてたんだね!」
「ふふん、私にかかれば楽勝よ!(アレスに置いていかれないよう、必死に修行して良かったわ……!)」
ティアは得意げな笑みを浮かべた。
「お兄ちゃん、次は私の番だね!」
――――――――――
リーシャ・アーヴィン
LV:13
HP:74
SP:147
ATK:31
DEF:26
INT:113
SPD:58
スキル:ーーー
――――――――――
「ふむふむ。こちらのお嬢さんは、魔法使いタイプですね。スキルはこれからですが……こちらも、将来有望だと思いますよ!」
「やったー!」
リーシャが無邪気にぴょんぴょんと飛び跳ねる。
神託の儀はこれからだ――スキルを持っていないのは当たり前だ。
――それにしても、リーシャ・アーヴィンか。
僕は、リーシャをしげしげと眺めてしまった。
先代のデバッガーであり、生まれるはずだったけど生まれなかった妹。
僕のスキル覚醒をきっかけに、現世に顕現した謎深い少女。
どうやらステータスを鑑定しても、リーシャは、僕の妹だと認識されるらしい。
「ほら、ボーッとしないでよ?」
「次は、お兄ちゃんの番だね!」
「もう。あんまり期待しないでよ……?」
2人とも、僕が外れスキル持ちだということは知ってるだろうに。
僕は渋々、水晶に手をかざす。
――――――――――
アレス・アーヴィン
LV:40
HP:332
SP:157
ATK:215
DEF:78
INT:132
SPD:41
スキル:チート・デバッガー
――――――――――
「レベルが……40!? 歴戦の冒険者にも匹敵する高さですよ。それに何ですか、そのスキル!? 見たこともないですよ!?」
「神託の儀では、神託の書に載ってないからって理由で外れスキルだと言われましたよ」
「そんな馬鹿な! 神託の書に載っていないスキルということは、ユニークスキルってことですよね!? どこの神官ですか、そんな馬鹿なことを言ったのは――!」
アーヴィン家が直々に雇った神官です……とは言えず。
僕は苦笑いで誤魔化す。
そうなのか……。
父上は飲み会で知り合った凄腕の神官だと、自信満々に話していたけれど。
そうか……。
――まあ今さらの話だ。
「どんなことが出来るんですか!? あ、ユニークスキルの内容ともなれば、重大な機密情報ですよね。もちろん話せる範囲で構いませんが……」
「ええっと……。アイテムを生み出せるようになって――」
僕は『アイテムの所持数増減』を選び、やくそうを出して見せた。
受付嬢は、ギョッとした顔で取り出したアイテムをしげしげと眺めたていた
8Gのアイテムを生み出す力――外れスキルだと断定された能力だ。
しかし、受付嬢の反応は予想とは違っていた。
「本当にやくそうですね! 実際に使えるんですよね……どんな旅でもHPの回復アイテム要らず――便利すぎる能力ですね!!」
「えっと。それだけじゃなくて、他にも魔法が取得できるようになったり、敵のステータスが見れるようになったり……」
「はあああ!? とても1つのスキルで出来るようになることじゃないですよね? ……長年、ここで働いてきましたが、アレスさんのスキルほど珍しいものは、初めて見ました!」
受付嬢は身を乗り出して、僕のスキルについて尋ねてきた。
というかそれはもう、冒険者ライセンスを作るのには関係ないよね? ということまで。
「……おほん。すいません、珍しすぎるスキルを前に、思わず興奮してしまいました」
やがて我に返った受付嬢は、少し恥ずかしそうに咳払い。
テキパキと冒険者のライセンスを発行し、僕たちに手渡してくれた。
これがあれば世界各地の冒険者ギルドの施設を使うことができる。
モンスターの素材の売買や、クエストの受注が出来るようになるため、世界を旅をするなら必須にも近いアイテムだ。
「そうよね。これが普通の反応よね――」
「さすが、お兄ちゃん!」
テンションの高い受付嬢を見て、ティアとリーシャは苦笑いするのだった。
そうして僕たちが冒険者ライセンスを受け取った直後――
「た、大変だ!!! なんでも街道に現れた例のカオス・スパイダーを、冒険者でどうにかしろって、お上からのお達しが出たらしい」
「な、なんでそんな無茶を――!?」
冒険者らしき男が、駆け込んで来る。
その言葉を聞いて、受付嬢は悲鳴のような声を上げるのだった。
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