第31話 情報と孵化
手持ちからMPポーションがほとんどなくなった。残っているのは自分用に確保しているものだけ。
うん。差し出したMPポーション全部買い取られた。いや、売るために差し出したのだから取られたは変かな。MPはHPとは違って自己回復があるから買ってもらえるのは精々半分の100本くらいだと思っていたのだよね。まあ残ったものは委託に流す予定だったから別に構わないのだけど。
「じゃあ、MPをこのタマゴに流す感じ……ってどうやるの?」
そういえば私も最初、その辺の感覚というか仕様がわからなかったな。それに生産職ではなく戦闘職となればMPを注ぐとか、そんなことはしないだろうからわからなくても仕方ないかな。
「俺に聞かれても知らないぞ?」
「魔法を使う感じでは?」
「私は一切魔法を使わないから魔法を使う感覚っていうはがよくわからないが、それは大丈夫なのか?」
「わからん」
どうやら兄達のパーティーメンバーの中でMPを注ぐということをしたことがある人はいない模様。そして、私を除いた7人で顔を見合わせた後、私の方を向いた。どうやら私なら知っているかもしれないと思い至ったのだろう。
「MPをタマゴに入れるって意識すれば出来る……と思う。エネルギーを放出するイメージが湧けば出来るはず」
最初はよくわからないけどやってみればなんとなくわかる。コツらしいコツはしっかりとイメージすることくらいしかないから、説明も結構曖昧というか、掴みどころがないぼんやりとしたものになってしまう。
「よくわからないけど、とりあえず魔法の出力を上げるような感じにすればいいのかな」
魔法の出力を上げるというのがよくわからないけど、まあ間違ってはいないと思う。
「こんな感じ……? お?」
「色が、変わったな?」
リラがMPを注いだことでワイバーンの卵の色が白から薄焦茶色に変わった。どうやらMPを注ぐことでタマゴに変化が現れるようだ。
「この卵の所有者が固定されましたって出たんだけど……。それに【テイム】が取得可能になった。あーSKP5とかそこそこコスト高いねテイム。取るけどさ」
「所有者が固定ってことは複数人でMPを入れることはできないってことか?」
「そうだと思う」
そうか。パーティーメンバーが7人いるからそれぞれMPを注げばそこまで負担にならない可能性もあったのか。基本的に1人でいるからそこに思い至らなかったな。まあ、できないみたいだけど。
もし、みんなでMPが注げたらポーションはどうするつもりだったのだろうか。
「これは時間がかかりそ……あ、一気にいけそう。ポーション飲まないと」
リラの言葉通りであればそう時間がかからないうちにワイバーンの子供が見れそうだ。
それでリラがタマゴにMPを注いでいる間、兄が近寄って来て借金分の素材を渡してきた。
「これで後どれくらいだ? こっちで計算している限り後2割くらいだが、合っているか?」
「うん」
兄が渡して来た素材はさっきリラからトレードされたアイテムとほぼ同じ。ややエネミーの素材が多めって感じだ。
「ああ、そうだアユ」
「ん?」
「これからどこで活動するのか知らないがそろそろそのフードの装備、変えたほうがいいんじゃないか?」
「あーうん」
確かにそろそろ別のものに変えた方がいい気はしていた。ただ、これ以上の装備となるとまだそうないので、現状維持の状態なのだ。
アクセサリー枠でここまでの効果はそうそうないのだよね。どうしてもステータスアップか微妙な効果が付いたものしか委託には流れてこない。まあ、本当に良いものは委託に流れてくることはほぼないから当然だけど。
「イベの2位とアユを同一存在として見ているやつはいないが、2位=フードみたいに見ている奴らは多いから、今装備を変えればそう目立つことはないだろう?」
できれば顔が見えないような装備がいいのだけど、そうなるとどうしてもフードか着ぐるみみたいな装備になる。着ぐるみもファンシーな物やエネミーを模った物が多いからむしろ目立つ。まあ、逆に近寄ってくるプレイヤーは減るらしいけど視界が悪くなるから。常時シャドウダイブ中みたいな視界はちょっと無理だ。
「今回結構な数の素材を手に入れたんだから何か自分で作ってみるのもありだろ。元々アユは自分で作るために生産職をしているんだし」
「うーん」
確かに当面の目標はそこだ。
でも今の【裁縫】スキルの熟練度でどこまで自分が納得できる物が作れるか疑問。正直、まだ熟練度が足りていないと思う。【錬金】と【料理】、【調合】は2次にいっているけど他の生産スキルはまだ1次スキルのままだ。【裁縫】はそろそろといったところかな。もうちょっと時間はかかりそうだけど、2次スキルになったら一回試してみよう。
「ま、そのへんを決めるのはアユだからな。それと、掲示板でもちょいちょい話題になっているらしいけど、新しく第3エリアに来たちょい柄の悪いプレイヤーたちがクランを作って色々やっているんだよ。アユが苦手そうなタイプだからこっちで活動する時は気をつけろよ。俺も一回絡まれたけど面倒だった」
どこにもそういう輩はいるからね。本当に駄目なプレイヤーならGMコールでどうにかできそうだけど、兄の言葉からしてそれはできない程度の害プレイヤー達なのだろう。
「ん、あーそう。GMコールできるほどじゃないんだよ。基本的にフィールドに出ると後ろについてきてストーカーじみたことをしてくるだけだからなぁ」
「どう考えても横取り目当てだよなあいつら。毎度毎度後ろに付かれるのはうざいし、自力でどうにかしろよって思うわ」
「直接絡んでこない分、あいつよりも多少マシだけどな」
「相手はプロのネチョだろ」
「プロのネチョって何だよ……」
兄とふとももが言っているあいつというのが誰のことかはよくわからないけど、とりあえず警戒対象として見ておいて間違いないようだ。
「ただ、ストーカーして来るだけって言っても、こっちから苦情をいうとめちゃくちゃ噛みついてくるから、つけられているって判断出来たらダッシュで走って撒くしかないんだよ。特にアユはソロだし、あいつら変に強く出てくる可能性があるから逃げ推奨」
本当に面倒なプレイヤーらしい。この後、ちょっと採取してこようと思っていたけど、素材も結構手に入ったしゴフテスマラソンしてから一旦セントリウスに戻った方が良いかもしれない。
「……あとちょっと」
リラがタマゴにMPを注ぎ始めてから30分と少し。MPポーションを飲み続け、ようやく孵化直前までMPを注ぐことが出来たようだ。
ようやくと言うか、ポーションを使って孵化させているのだから結構短い時間で孵化まで辿り着いているのだろうけど、兄たちと情報交換をしてその後、少し生産をしていたから私的に時間が掛かったように感じただけである。
「あ! 殻が割れて来た!」
その言葉を聞いてリラの腕の中にあるタマゴの様子を見る。確かに卵の殻にひびが入っていた。これで孵化まで秒読みと言ったところだろうか。
リラがMPポーションを煽る。
回復したMPをさらにタマゴに注ぎ込むとタマゴの殻にあったひびがタマゴの全体を覆い、その直後にタマゴの殻はポロポロと剥がれるように落ち、それらは地面に触れる前に無くなっていった。どうやらタマゴの殻はアイテムやオブジェクト扱いにはなっていないらしい。
そしてタマゴの殻が剥がれて中から現れた存在は灰色。フィールドBOSSのワイバーンも確か灰色っぽかったから多分同じワイバーンなのだろう。残念なことに正面はリラ側を向いているのでどのような見た目なのか今のところよくわからない。
「うぎゅ?」
生まれたての子ワイバーンが体を解すように動き始める。先に尻尾とやや短めの首が伸び、身体を伸ばすように手足を前に突っ張った。
「うへ!?」
「ぎゃう?!」
「ん?」
「どしたー」
子ワイバーンが手足を前に突っ張ったところでリラが変な声を上げた。それに驚いたのか子ワイバーンが驚いて鳴き声を上げた。他のメンバーも何があったのかよくわかっていないのかリラの事を心配しているようだ。
まあ、角度的に私は何があったのか見えていたので何も言わないけど、おそらく同じような位置にいたプリネージャも同様に見えていたようで、どう反応したらよいか困っている様子。
うーん。テイムモンスターってセクシャルガードの判定弱いのかな。プレイヤー同士だと許可なく触れることも出来ないのだけど、乗ったりできるモンスターもいるから結構緩いのかな。どうなのだろう。
皆の心配にリラは何でもないと返しながら、腕の中に居る子ワイバーンを持ち上げ、子ワイバーンの正面をメンバーの方へ向けた。
「ぎゅう?」
割と高めの鳴き声。可愛い声とは言えないけど見せる反応は愛嬌がある感じ。まあ、モンスターの鳴き声って可愛い物のほうが少数だからこういうのが普通だろうけど。
顔はゴツイと言うかきつめな感じは一切なく子供だな、とわかる丸みを帯びていて瞳もやや大きめ。体もずんぐりむっくりと言うか子供らしい感じ。
「結構可愛いんじゃないか?」
「かわいい」
「想像とちょっと違ったがまあ」
「今後の成長に期待かな」
鳴き声はあれだけど、全体的に見れば結構可愛いかもしれない。
成長したらどうなるのか……どうやって成長していくのだろう? 時間と共に成長となると時間が掛かり過ぎる気がするからLVが上がることで成長する感じなのかな?
じっと見ていたらリラが私の前に子ワイバーンを差し出してきて触らせてくれた。
おお? 産まれ立てだからなのか鱗の部分を触っても柔らかい。つるつるでぷにぷに。そして触られているのがくすぐったいのかぴくぴく反応している。かなり可愛い反応。
この鱗も成長すると硬くなるのかな。
「その子の名前はどうするの?」
「MP注ぎながら考えていた時はソウのつもりだったんだけど、この子の目の色を見てソラにしようかなって。他に意見があるなら考え直すけど」
「リラのテイムモンスターなんだし、リラの案でいいんじゃないか?」
どうやら子ワイバーンの澄んだ青色の瞳からNAMEを付けるようだ。
「んじゃ。そいつの名前はソラだな」
「リラ・ソラコンビか」
「ラ繋がりじゃん。いいね」
確かにNAMEの後ろが両方ともラだ。言われるまで気付いていなかった。それにリとソも形が似ている。
「あ、本当だ」
「名付けた本人が気づいてないとか」
「その辺り意識して付けた訳じゃなかったから」
「そういうこともあるよな。偶然一致するとか」
そうして少しの間、私はほとんど聞いていただけだけど子ワイバーンについてわちゃわちゃと話をしてから、私は小屋を出てゴフテスの戦闘エリアへ向かった。
―――――
『ステータス
NAME:アユ
RACE:ヴァンパイア(純血)
LV:26/30 +1
JOB:錬金師47%
BC(Belonging Country:所属国):なし
所属ギルド:総合ギルド(D) G(1):296・F(2):156・E(4):1 (997)
・1-2-3(東・北)エリア通行許可 ・岩腕のゴフテス初討伐(30(27)) ・蹴撃のオルグリッチ初討伐(20(60)) ・猛進のアッシュボア討伐(20(18)) ・フィールドBOSSワイバーン 討伐(50) ・不動のベテュード(20(60)) ・身隠しのパープルオウル(10(30)) ・閃光のサンライズシープ(10(30))
HP:670(0)(0) +15+20
MP:930(0)(0) +20+20
STR:175(0)(0) +3+7
VIT:263(116)(16) +3+4
INT:372(50)(48) +3+11
MND:422(129)(32) +3+17
AGI:213(27)(0) +3(STP0)+6
DEX:486(5)(48) +1+24
LUK:218(0)(16) +3(STP2)+5
STP/SKP:0/150
*2つ目の()はJOBによる補正値 2つ目の+はスキルによる上昇分
装備
メイン武器:4倍濃縮人工血液2000ml
サブ武器:魔羊角の白短杖+ INT+22 MND+38 VIT+8
生産装備:特別な錬金板
頭:森影狼のイヤリング VIT+2 INT+2 MND+3
胴:森影色の皮鎧 VIT+30 MND+14
腕:魔術の腕輪+ INT+18 MND+40 DEX+5
腰:森影色の長ズボン VIT+20 MND+12 AGI+6
脚:森影色のブーツ VIT+16 AGI+21
アクセサリー(3/3):ウエストポーチ MND+2
ルビーとサファイアの指輪 INT+8 VIT+5 MND+12
森岩影狼のコート VIT+35 MND+8
装備効果:火属性・水属性耐性(小) 斬撃耐性(微)2 土属性付与(微) 影属性付与(中) 影属性強化(小)2(微) 隠蔽系強化(中)(小)2 悪路軽減(微) フードを被った際に認識阻害(小) フードを被った際に感知範囲強化(小) 認識阻害(微)2 風属性耐性(微) 静音(中)(小) 魔術系強化(小)
スキル
戦闘:細剣術34% 血魔法44% 闇魔法47% 毒魔法3%(8) 影魔法21% 投てき39% 縄術100%MAX!
補助:血統魔法63% 身体能力向上(小)71% HP自動回復(微)95% 上級隠蔽43% MP自動回復量増加(小)51% 弱点特効86% MP操作能力向上(小)87% 無詠唱93% 走法93%
生産:上級錬金67% 上級調合16% 上級料理42% 裁縫78% 鍛冶47% 細工35% 木工23%
その他:生活魔法49% 鑑定100%CONP! 上級感知27% 採集43% 採掘83% 伐採63%
称号(タイトル)
【世界の不思議を初めて発見した者】【ゾンビアタック】【ネームドモンスターの初討伐者】【ネズミスレイヤー】【ジャイアントキリング】【サバイバー】【セントリウスの初到達者】【働かざる者】【プレイヤーキラーキラー】【隠蔽する者】【首狩り族】【暗殺者】【第1回イベント2位入賞者】【開拓者】【ノービスクラフター】【ワイバーン殺し】【日光を克服せし夜の者】
所持金:6286AS ギルド預け金:2030000AS』
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