おまけ リラ:その後

 

 アユちゃんとの出会いは本当に渡りに船だった。


 エリアBOSSの岩腕のゴフテスは確かに私がソロで挑めば苦戦していた相手だった。絶対に勝てないといった相手ではなかったけど、おそらくソロで挑んでいれば数回は負けていたはずだ。特殊攻撃の咆哮は防げなかっただろうし、ダメージもまともに稼げたかもわからない。私もダメージを与えることは出来ていたけど、半分以上はアユちゃんが与えていたのはわかっている。


 手伝ってくれたアユちゃんのおかげであっさりBOSSを討伐した後、ダムかもしれないと思っていた防壁を抜けることが出来た。

 時間的にそろそろログアウトをしないといけないタイミングではあったけど、防壁の所に居た兵士の話では近くで安全にログアウトできる場所はないらしい。予定していた時間を少し超えてしまうけれど、どうしようもないとあきらめる。


 時間を考えるなら今日はエリアBOSSに挑まないで明日にすればよかったのだけど、さすがに明日だとアユちゃんは手伝ってくれないだろうし、こちらの事情に付き合わせるのも良くない。それに出来るだけ早く誰も居ない場所から脱出したかったのだ。だからまあ、後悔はしていないけどログアウト時間が遅れるのは自業自得。


 防壁を抜けログアウトできる町まで移動しようとしたところで、私たち以外のプレイヤーに遭遇した。


 相手がアユちゃんの事を知っているような反応だったのでアユちゃんに聞いてみると、知り合いのプレイヤーらしい。

 そして反応を見る限り結構仲がいい感じ。表情は変わっていないけど、最初に私と遭遇した時と比べて姿勢が違う。


 私の時はすぐにでも逃げられるようにしている感じがしたけど、目の前のプレイヤーたちは違う。まあ、あの反応は初対面の相手だったのだから変な事ではないけどね。ただ、アユちゃんの場合はちょっと過剰と言うか、過去に何かあったのかもしれないと思うくらいだった。


 何であんな反応なのかちょっと気になるけど、今後関わるかどうかはわからないから詳しく聞くのは止めておく。いや、関わることになったとしても聞かない方が良いだろう。他人の事情に深くかかわるのならば、本当に親しくなってからじゃないと。それに安易な考えで相手の深い部分を知ろうとするのは駄目だ。


「すいません。ちょっといいですか?」

「ええ、いいですよ?」


 私が話し掛けられるとアユちゃんは少し離れた所にいる、他のプレイヤーの所へ移動していった。何の用なのかわからないけど、嫌はないので了承する。


「この先のエリアBOSSと第3エリアについてお聞きしたいのですが」


 どちらもアユちゃんに聞けばいいんじゃないかと思うけど、別視点の話が聞きたいのかもしれない。ただ、長く話すほどそれほど時間に余裕はない。そろそろ移動しないと本当に明日の朝に響きそうだ。


「……あまり時間が無いので少しなら。そろそろログアウトしないといけないので」

「ああ……たしかに近くにログアウト出来る場所がないですから、街まで行かないといけないのか。一応近くに廃屋なら在りますが、そこでログアウトとなると他のプレイヤーも居ますからね」


 私に話しかけて来たプレイヤーはそう言うと少しだけあきらめの表情を浮かべた。


 あれ? 廃屋ならあるの? ログアウト出来るならそこでもいい……あ、でも他のプレイヤーが居るってことはPKされる可能性があるのか。ここでPKされたら初期地点に出戻りだし、絶対大丈夫とは言えないから止めておこう。なんかログアウト用のアイテムがあれば問題ないらしいけど、そんな物を買える場所には行ったことはないし、ASだってないのだ。そんな私が持っている訳がないよ。


「ログアウトまでの時間はどれくらいでしょうか?」


 何かを思いついたのか、少し話を聞くのを諦めていた表情が変わった。


「1時間はないくらいですね」

「ここから街までだとどう想定しても時間は足りませんね」


 一言二言で済む質問程度なら誤差の範囲だろうけど、長くなるようなものだとさすがに誤差じゃすまない。


「なら、安全にログアウトするためのテントを譲りますので、いくつか質問してもいいですか?」

「テント?」


 テントとは? ログアウト用のアイテム何だろうけど、ログアウト用のアイテムってテント型だったのか。


「え、知らない……いや、アユさんも最初は知りませんでしたね。そうか」

「あー、すいません。ログアウト用のアイテムがあるっていうのは知っているのですが、テント型だったというのを知らなかっただけです」

「なるほど。そうでしたか」


 一切知らないというわけではないと否定する必要は無いけど、一々説明されても面倒だから訂正しておく。


「それでどうしますか?」


 まあ、さすがに1時間も質問攻めにされるとは思えないし、どう見てもログアウト用のアイテムを貰った方がいいよね。


 そうしてわたしはログアウト用のアイテムを受け取る代わりに質問された内容を答えて行った。




 第2エリアに移動してから数日が経過した。


 現在はアユちゃんの知り合いであり、第2エリアで最初に遭遇したプレイヤーたちである、エンカッセさんたちのクランの一員としてプレイしている。

 このクランに所属した理由は最初にクランに誘ってくれたことと見た所人の良さそうな人たちだったこと、後は所属しているプレイヤーが少数で面倒がなさそうというところだ。正直大した理由ない。


 今は大体第2エリアと第3エリアを行き来して廃村の復興を主にしているけど、最初のチュートリアルなどを手伝って貰えたのは有り難かった。


 アユちゃんとはあれ以来会っていないけれど、兄であるファルキンさんからちょこちょこ何をしているかの情報は入って来ている。まあ、正確な情報というよりはざっくりとした近況報告に近い内容だけど、おおよそどの辺りに居るかくらいはわかる。


 第2エリアに居るみたいだけど何をしているのだろうか。


 ≪ワールドアナウンス

 エリアBOSS【猛進のアッシュボア】がプレイヤーによって初めてソロ討伐されました≫


「アナウンスだ」


 第3エリアで活動するためのアイテムを補充しにセントリウスへ戻って来たところで、ワールドアナウンスが流れて来た。


「アッシュボアってイスタットの方のBOSSでしたっけ」

「ああ」


 なるほど。たしか物量攻めして来るBOSSだったはずだから、それを1人で乗り越えたのか。


「ん? どうしたんだファルキン? 黙って居るなんて」

「…………うーん。いやな、今のアナウンス、アユの気がするんだよ」


 まさか、と思うけどありそうだ、とも思う。低LVでゴフテスを倒しているのだから変でもない。


「根拠は?」

「いや、昨日鉱石が欲しい的な事を言っていたから、可能性は高いと思う」


 そう言えばアユちゃんって生産職だった。最初に聞いた時は、え?と思ったけど、最初に会った時に何かを採取していたんだよね。


 BOSSをソロ討伐する生産職って何?って思ったけど、ゴフテスに関しては私と同じ理由で倒したのだろうし、その延長だと思えばおかしくはないか。

 それに生産職とは言え、素材を獲得するためにはエネミーを倒さないといけないし、作りたいと思う物によっては自分で取りに行った方がいい物もあるだろうから、ある程度戦闘も出来ないといけない。まあ、そういう状況になるのはある程度攻略が進んだ頃だろうけどさ。

 それを考えれば、少し早いんだろうけど変ではない。


「オウグラートの可能性もあるけど、あいつは今第3エリアの奥に行こうとしているから違うか」

「俺らが知らないプレイヤーの可能性の方が高いだろうが否定する要素もないな」

「気にしたところで何がある訳でもないのだから、さっさと補充を終わらせようよ。それに気になるのなら連絡でも取って確認すればいいでしょ」

「そうだな」


 プリネージャさんの言葉でファルキンさん以外は補充作業に戻る。それでファルキンさんは連絡を取ろうかどうか葛藤しているようだ。それを見てプリネージャさんが少しだけ苦い表情を浮かべている。


 ファルキンさんは少し過保護だと思うんだよね。なにか、前に何かあったことはわかるのだけど、ちょっと行き過ぎているというか。まあ、そういう優しい所が彼の良い所なのだろうけどね。

 私には少しくどくてあまり好みとは言えないけど、プリネージャさんはそういうところが好みということなのだろうし。


 まあ、さっさとアイテムを補充していこう。



 補充を初めて30分ほどたったところでふとももさんがエンカッセさんの所に近付いて行っていることに気付いた。


「エンカッセ、ちょっといいか?」

「なんだ?」


 何かを相談しているようだけど、なんだろうか。


 話しを聞くと、どうやらこの近くでフィールドBOSSのワイバーンが出現しているらしい。

 フィールドBOSS……私戦ったことはないんだよね。フィールドBOSSが初めて出た1回目のイベントは仕事で出られなかったし、ちょっと戦ってみたい。その時もワイバーンだったらしいから余計にそう思う。

 さすがに私だけで行くのは駄目だろうし、他のメンバーの意見しだいかな。


「うーん。今から行っても間に合う保証はないし」


 意外と現実的な発言をするファルキンさん。たまに安易な発言が出て来るのに考え自体はそうではないようだ。あれらは本当に意識していない発言なのだろう。


「ああ、そうそう。今も掲示板で状況を追っているんだけど、今さっきアユちゃんらしきプレイヤーが――」

「よし行くぞ! ほら早く!」


 アユちゃんがいるかもしれない、そう聞いただけで意見を変えるのはどうなんだろう。いや、シスコンの兄としては一緒にプレイしたいという欲求があるのだろうけどさ。聞いたところによると本当なら一緒にプレイする予定だったらしいんだよね。本当かどうかはアユちゃんに聞かないとわからないけど。

 それがアユちゃんがレアRACEを選択してしまったから出来なくなってしまったらしい。そのことを時々愚痴っている。


 あの時の恩もあるし、私も出来ればアユちゃんとも一緒にプレイしてみたかったのだけどなぁ。元から複数のプレイヤーと一緒にプレイするのが好きじゃないらしいし、色々あって今は難しいと聞いているから無理っぽそうだよね。


 あれ、フィールドBOSSの所にアユちゃんがいるとすれば、さっきのワールドアナウンスは誰だったのだろうか。アユちゃんだったのなら第2エリアに移動するために倒したという事だろうし、別のプレイヤーが倒したという事なのかな。倒したのに通過しないのはおかしいだろうし。となればファルキンさんの予想は外れたことになるのでは?


 そうこうしている内に他のメンバーも拒否することはなかったので、フィールドBOSSに挑むことになった。


「ファルキンのやる気が空回りしないと良いのだけど」


 プリネージャさんがそうぼそりと呟いた。ファルキンさんのやる気を見れば私もそうなるかもしれないと思えた。


 BOSSの所にはアユちゃんがいるかもしれないし、少しでも話せると良いのだけど。どうなるかな。


 そうしてすぐにBOSSの元へ移動を開始し、1時間もしない内にBOSSに会敵し戦闘に移るのだった。


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