運営裏話・4

 

「フィールドBOSSのワイバーンが討伐されました!」

「システムのスコアを出してくれ! それとログの確認! イベントの時みたいに不具合が無いかしっかり確認してくれ!」


 サービス開始から3週間。そろそろリアル22時を回ろうとしていたところで、この日の午前中に終えたアップデートで追加されたフィールドBOSSの討伐報告がシステム監視室の中に響いた。


「スコアはどんな感じだ?」

「与ダメージ、被ダメージ、AI処理、行動パターン、リザルト処理全て問題なしです」

「よし! ログはどうだ?」

「処理落ちなどのログはありません。討伐に参加したプレイヤー数が少々少ない気もしますが、ログに表示されているプレイヤー数と一致しますから、不具合ではないですね」


 ログを確認するように指示されいくつか開かれたウィンドウを操作していた男は、表示されているいくつかの数値を確認してからそう言った。


「フィールドBOSSは今回が初めての出現だ。プレイヤー間で報告があってもその場に行かなかったプレイヤーが多かったんだろう」

「ああ、そうかもしれません」

「ただ、次からはもっとプレイヤーが集まるだろう。今回以上にしっかりとシステムスコアとログの確認をしてくれ」

「了解しました」


 ・


「第3エリア前の残りのエリアBOSSも見つかったようです」

「イスタットとウエストリアの両方か?」

「はい。順番的にはイスタットの方が1日程早く見つかったようです」


 モニターに載っているAIによる報告ログを確認しながらシステム監視担当の職員が確認に来ている主任に報告する。


「想定よりも少し早いが、まあ、これに関しては気にすることではないな。今知ったところで攻略できるかどうかは別だ」

「そうですね。それに倒せたとしてもその先で上手くはいかないでしょうし。結局第3エリアの正規ルートに戻ると思います」

「たしか適正LVが30後半だったか?」

「はい。LVキャップがありますが、スキルによるステータスアップしだいでは行けなくはないでしょう。ですが、現状ステータスの合計値が一番高いプレイヤーでも容易に進めないでしょうね」

「スキルを育てるのにも時間が掛かるからな。まぁ、進めたところでこちらに不都合はないが」

「え? ……あぁ、そうでしたね」


 主任の言葉をすぐに理解できなかった職員だったが、思い当たることがあったのかすぐに納得の表情を浮かべた。


「BOSSに不具合はないんだよな?」

「そう言った報告は受けていません。一部プレイヤーからイスタットの方のエリアBOSSの攻撃力の調整についての質問が来ていましたが、特別不具合は見つかりませんでした」

「イスタット……ああ、火力型のBOSSか。あれだとプレイヤーたちの今の耐久力じゃあほぼ一撃かもな」

「ええ。そのせいで調整を失敗しているのでは? と思われたようです」

「そうだろうな。今戦えるなら現状でも倒せる相手だと思うのが普通だ」

「ですねぇ。まあ、あのBOSS倒したところで逆走みたいなもんですけどね。ただMAP自体は最初から全て実装済みですし、どう考えても無理だとは思いますけど、一応最終エリアにも行けるようになっていますから」

「確かにそうだが、その付近にはまだエネミーを配置していない。だからある程度進んだら楽に進めるようになるけどな。さすがに現段階で行かせるつもりはないが」

「あの程度進んだら、の部分が難し過ぎると思います」

「だから行かせるつもりはないって言ったんだ」

「ああ、そういう事ですか」


 ・


「主任、転移石像が修復されました」

「場所は?」


 UWWOの進捗を確認していた職員が少し離れていた所に居た主任に知らせる。それを聞いた主任は報告してきた職員の元に移動しながら質問する。


「第2エリア、セントリウスです」

「……前線組か?」

「そうですね……いえ、前線組……? レアRACEのプレイヤーですね。ヴァンパイア(純血)のプレイヤー……ああ、最初にセントリウスに到達したプレイヤーです」


 何かそう断言できない要素があるのか、職員は少し頭を傾げながらそう答えた。


「ああ、ヴァンパイアちゃんか」

「現在イスタット方面へ移動しているようなので、もしかしたらイスタットの転移石像も修復するかもしれません」

「あまり1人のプレイヤーに利が回り過ぎるのは良くないんだが、他のプレイヤーが積極的に修復しようとしなかったからな。仕方ないか」

「イスタットの転移石像は他のプレイヤーも修復素材を入れていますので完全に1人で修復した、という事にはならないと思います」

「ん? そうか。なら問題はないな。それに転移石像はワールドアナウンスだから知らないプレイヤーにも存在を知らせることができる。これで移動関係の苦情も減るだろう」

「無くなりはしないでしょうけど、大幅に減ることは確実です」


 よほど移動に関しての苦情が多かったのか、職員はそう言いながら安堵の表情を浮かべていた。


 ・


「2次JOBになったプレイヤーが現れました」

「は? 想定よりも大分早いが本当か? 想定だと後10日くらい先だったはずだが」

「たしかに想定よりも早いですが本当です」

「JOBは?」

「釣り師ですね。所属はサウリスタで紐づけスキルは3次スキルの【釣り術】熟練度28%です」

「釣りか。そう言えばサウリスタに所属しているプレイヤーの一部が釣りしかしていない、といった報告があったな。そいつらか?」

「そのようです。確認したところ他のスキルの熟練度が他のプレイヤーに比べて低かったので、その影響でしょう」

「一点突破型か。フィールドの攻略が進めにくいと思うが」

「その辺りは気にする必要は無いと思います。あのプレイヤーたちはそれを承知でやっているようなので」

「……まぁ、MAPを広げたりエネミーを倒したりするだけが全てじゃないか。楽しみ方は人それぞれだろうし、どうあれ楽しんでくれているならそれでいいわな」

「そうですね」

「他のJOBはどうだ?」

「釣り師以外だと2次JOBに一番近いのは鍛冶です。生産職とは違い、戦闘職はどうしても複数のスキルを使う分、JOBの熟練度が溜まりにくいようです」

「その辺は想定通りなのか」

「戦闘職と同じように複数の生産スキルを取得しているプレイヤーは大分JOBの熟練度が低い方も居るようなので、2次JOBについては1つを極めているプレイヤーが先行する感じですね」

「ああ、当然の結果と言えば当然の結果か」


 主任は納得したように頷いた後そう言った。


 ・


 予定されていた通り2陣のプレイ開始前のアップデートが開始され、日テリのUWWO開発に関わる職員たちが忙しなく動き始める。一部の職員は少しでも調整するための時間を確保するために、VR内の時間加速空間でシステムのアップデートを進めている。


「追加のデータはAIアシストで組み込む。前回までは半分近く人力でやっていたが今回はAIの慣らしも兼ねているからな! 出来るだけAIに任せてそれの監視をしてくれ」


 日テリはAIを主に開発している会社だ。

 そのためUWWOの運営と同時にいくつかAIの製作、調整を行っているのだ。今後のAI商品をより良くするために、今回の修正とアップデートの一部作業と設定を任せているのだ。

 そのため、運営元である日テリは今回の修正・アップデートでAIの成長を促すために色々と画策していた。


「AIによるアップデートの監視が開始されました」


 本来、今回アップデートする予定のデータ量はそれほど多くない。前回と同じように進めれば6時間はかからない程度で終わるだろう。しかし、今回予定している時間は15時間。実に倍以上の時間を予定している。

 これはAIによるチェックと人間によるチェックを2重にするため、余裕をもってこれだけの時間を確保しているのだ。もし、AIによるアップデートが失敗したとしても人力でアップデートが進められるだけの余裕を持たせている。


 進捗を確認している職員の所にP:UWWO情報管理室室長と書かれた名札を下げている女性が近付いて行く。


「どうですか?」

「アップデートは順調に進んでいます」

「よろしい。これから来る2陣プレイヤーに向けた調整はどうですか?」

「こちらも問題はないですね。完了の報告が届いています」

「なるほど。後は何でしたっけ……あぁ、第2回イベントの告知とあれでしたね」

「公式ホームページの方は既に更新情報のページは作成済みです。チェックも完了しています。告知ページの方も同様ですね」

「イベントの変更部分もしっかり反映させていますか?」

「はい」

「すばらしい。一部のプレイヤーへの連絡はどうですか?」

「基本文は完成しています。後は各々のアバターNAMEを入れれば連絡が送れる状態ですね」

「なら、アップデートが終わりしだい連絡を取ってください。色よい返事がもらえるとよいのですが」

「全員は難しいと思います」

「でしょうねぇ」




「室長」


 それまで静かにモニターを監視していた職員が室長の女性に声を掛ける。


「何かありましたか?」

「いえ、その……今回の修正って」

「修正、ですか」


 アップデートに関する話をしていた時に比べやや暗い顔をした室長を見て声を掛けた職員はあまり振ってはいけない話題であることに今更ながら気づいた。しかし、その上で気になっていることだったため言葉を続ける。


「大丈夫、なのでしょうか」

「駄目でしょうね」

「そ、即答ですか」

「えぇ、上の意向でなければ即修正案件でしょう。まあ、修正内容は仕方がないですが、その後対応が機械的過ぎますね」

「上に掛け合ったりは……。ユーザー減りません?」

「おそらく減るでしょうね。ただ、上の意向もわからなくはないので」

「損益が出た場合、どうするのでしょうか」

「その場合、上が取ることになっています。言質もしっかり確保していますしこちらが損を受けることはないですよ。まあ、損以外の要素は別ですが」

「ですよねぇー」


 室長の言葉を聞いて職員は少し安心したような表情を浮かべながらも、その後に続いた言葉に乾いた笑いを浮かべていた。 


 こうしたやり取りをしている内にアップデート関係の処理は終わり、予定通りの時間にUWWOへの接続が再開された。

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