第38話 報酬の確認と天元突破
※ファルキン視点
―――――
ほどなくして地面に落ちて来たワイバーンはその場に居たプレイヤーたちの総攻撃に寄ってポリゴンに変わっていった。
ワイバーンがポリゴンに変わる直前にアユの攻撃らしきものが見えたので、やはりあの離れた位置にいたプレイヤーはアユだったのだろうと確信した。
ワイバーンだったポリゴンが殆ど消えたあたりでワールドアナウンスが流れた。それを聞いた周囲に居るプレイヤーたちは歓喜の叫びをあげる。
そして直ぐに個別のアナウンスが目の前に現れた。
『アナウンス!
フィールドBOSSであるワイバーンの初討伐に成功しました!
―――――――――――――――
(フィールドBOSS)ワイバーン討伐 RESULT
最終戦闘参加プレイヤー数:37 パーティー数:8
討伐時間:01:57:43
総合MVP:秘匿
累計ダメージMVP:秘匿
戦闘貢献MVP:秘匿
ファーストアタック:なぷ
ラストアタック:ファルキン
―――――――――――――――
おめでとうございます!
討伐に成功したため報酬が発生します。
ラストアタックに成功しました。これにより追加の報酬が発生します。
発生した報酬がインベントリへ送られました』
ラストアタックの欄に俺の名前があることに気付いて内心ガッツポーズをとる。
このアナウンスは討伐に参加したプレイヤー全員に表示されている物だろうし、ラストアタックは誰もが狙っていただろうから、大っぴらに喜べば反感を買うことになるだろう。
少し離れた位置に戻ってきてよかった、と叫んでいるプレイヤーが居るが、もしかしたらファーストアタックをしたプレイヤーかもしれないな。
「ラストアタックおめでとう、ファルキン」
「おお、ありがぐっ?!」
そう言って俺の肩に手を置いて来たふとももに言葉を返そうとしたところ、いきなり肩に痛みが走る。ダメージがあった訳ではないが痛いものは痛い。
「痛いのだが。ふともも」
「ははは」
ラストアタックを俺が取ったことによる嫉妬だとは思うが、ほとんど冗談だろうな。すでに手は肩から退かしているしな。
「ま、ここで騒いでいてもしょうがないから、セントリウスに戻ってから報酬の確認だな」
「そうだな。あ、そう言えばアユは……」
周囲を見渡すが、アユらしきプレイヤーは既に居なくなっていた。
「アユさんっぽいプレイヤーなら、すぐこの場を離れて行きましたよ?」
「マジか」
どうやらリラはアユがこの場から離れていくところを確認していたようだ。
まあ、RESULTの秘匿の部分って確実にアユだろうし、さっさとこの場を離れるのは正しい判断だよな。残っていたら囲まれるのは確実だろうし。
セントリウスのギルドに戻って報酬の確認を進める。
通常の討伐報酬はワイバーンの素材系だな。イベントの時に出たワイバーンと同じ素材が報酬としてインベントリに入っていた。あれだけ強かったのに同じ素材かよ、と思ったが、Quが2段階ほど上だったので、ここで差をつけたという事なのかもしれない。
「ラストアタック報酬って何だったんだ?」
「ちょっと待ってくれ、ログを見る」
インベントリにそれらしきアイテムが入っていなかったから、おかしいと思いつつログを見る。そこにはしっかりとラストアタック報酬としてワイバーンのヒレ肉を獲得しました。というログが残っていた。
「……え?」
ちょっと待て。ラストアタックの報酬だから有用なアイテムだと思っていたんだが、まさか肉? 嘘だろ?
もう一度ログを確認する。やはりラストアタックの報酬はヒレ肉だった。
「その反応! もしかして良いアイテムだったのか?」
「……」
無言でインベントリからワイバーンのヒレ肉を取り出す。取り出したその肉は、ザ・ヒレ肉というように美味しそうな肉ではある。しかし、肉……
「ん? なんでそれ取り出した?」
「何故、肉?」
「見たことの無いお肉ですね?」
いきなり肉を取り出した俺の行動に、意味不明と言った様子でメンバーが声を掛けて来る。
「ファルキン、まさかそれがラストアタック報酬か?」
俺の意図を読み取ったのかエンカッセが気まずそうに声を掛けて来る。その言葉に俺は首を縦に小さく動かし肯定の意を示した。
「え? これが?」
「……ワイバーンのヒレ肉。初見の素材ね」
困惑した様子のリラと、すぐ俺が出した肉に対して【鑑定】を行ったプリネージャがそう言葉を発した。
「お前にはガッカリだよ!」
「いや、俺の所為じゃないだろ。これは」
わくわくしながら報酬を確認したら肉だった俺の気持ちを考えてくれ。それに、そう言いたいのは俺も同じだ。
「いや、でもこのお肉、Ra:Epだよ?」
「確かテールもEpだったからそこまでじゃないだろ」
「まあ、むね肉とかもも肉みたいに、すでに確認されている肉ではないのだからいいじゃないか」
「確かにな」
唯一の救いはそれだ。ただ、肉以外の素材であれば武器や防具の強化に使えたかもしれないのに、肉だと料理にしか使えない。
「しかし、何で肉になったんだ? 他のゲームだと結構いいアイテムしか出なかったりしてただろ」
「わからん」
「どうなのでしょうか? あー、でもラストアタックだけ狙っているプレイヤー対策と考えれば、変でもないかもしれませんね」
「んーあー、それはありそうかも」
ラスアタ掠め取り対策か。在り得るな。UWWOってそういうギスギス案件になりそうなところ結構気を使っている感じがあるし。ただ、それを考えたらファーストアタック報酬があるのは逆効果な気がするんだがな。ファーストアタック報酬があるからって、後先考えず攻撃するプレイヤーが続出しそうだ。
まあ、その辺りは運営に何か考えがあるんだろう。
「そうだとすれば、貢献度が低いプレイヤーがラストアタックをするメリットは減るな。まあ、0になる訳ではないけどさ」
「しっかり統率の取れたメンバーだけであのワイバーンを討伐出来たら、相当いい結果になるんじゃないか? 1人でも馬鹿が居た段階で破綻するけど」
「ラストアタックがそうなら、ファーストアタック報酬も同じ感じだろうな」
色々と話し合ったがラストアタックの報酬が肉だった理由は、俺の戦闘における貢献度が低かった所為、という理由に落ち着いた。
それと他のメンバーの報酬の中に、ヒレ肉の他に初見のアイテムあった。アイテム名は、魔石(小)だ。完全に初見のアイテムだし、似たようなアイテムもない。まあ、宝石が近いかもしれないけど、【鑑定】して出て来る魔石の説明を読んだ限り、使い方は違いそうだ。
魔石と言えば、ファンタジー系の世界観のゲームであれば高確率で存在する物だ。大体は武器や防具を強化したり、スキルの強化に当てたりするものだが、UWWOではサービス開始から今まで一切見つかっていなかったアイテムである。
今まで見つかっていなかったのに掲示板などで、何故か、絶対にあると断言していたプレイヤーも居たが、根拠を示すことがなかったためその場ではそう思っているだけ、無駄な時間を使ったなどと扱下ろされていたが、そいつの発言は間違っていなかったことが証明されたわけだ。
まあ、手に入ったことは良かったが、使い道はまだよくわからないので魔石については使い道がわかった時に、どうするのかを話し合うことになった。
「ああ、そうだ。エンカッセ」
「なんだ?」
「掲示板の方で情報を出して欲しい、みたいな流れになっているけど、どうする」
まあそうなるよな。俺も戦闘に参加していなかったら掲示板の奴らと同じように情報を欲しがっていただろう。
「そうだな、どうするか。最低限の情報を出すのはいいが、俺たちもそれほど情報を持っている訳でもない」
「ついでに言うと、掲示板への書き込みはファルキンが良いらしいよ」
「なん……だと? 俺が求められている……だと?」
まあ、俺が指名されている理由の見当は付くけどな。
「いや、お前に書き込ませることは無いからな?」
「さすがにわかっているさ。と言うか、掲示板の書き込み設定はオフにしているし、思考入力も音声入力も出来ないように設定しているから、どうあっても今すぐ書き込むのは無理だ」
掲示板の書き込みの入力制限や入力方法の変更は、一旦ログアウトしなければ設定を弄れないからすぐに変更は出来ないし、するつもりもない。さすがに俺の発言で迷惑をかけている以上、もうするつもりもないからな。
「ならいいが」
「まあ、ファルキンはあれだよな。思考入力でバグりやすいタイプ。ある意味、フルダイブ適正が高いってことなんだけど、限度があるからなぁ」
ふとももが軽く笑いながら言うが、俺の意思で調整が出来ないのは結構面倒なんだぞ。まあ、そのやらかしの後の修正なりごまかしが下手なのは否定しないし、考えの浅さは直さないといけないとは思っているが。
「掲示板へは今まで通り俺が書き込む。ただ、出す情報は少し調整しないとな」
「まあ、その辺はエンカッセに任せる」
他のメンバーも掲示板への書き込みはエンカッセに一任するようだ。
「ああ、それと、あの戦闘をちょっと遠い場所からだけど、ライブで撮影していたプレイヤーが居たみたいなんだよね」
「そうなんだ」
そう言えば最近ライブ配信しているプレイヤーが増えたって聞いたな。俺もそれで有名なプレイヤーは何人か知っているし。
「ライブ配信していたのは、いつもと同じくぱぱらっちょんだったんだけど、途中ちょっと問題の場面があってねぇ。みんなは今すぐじゃなくてログアウトした後で確認してくれ。ここで騒ぐのは良くないし、特にファルキンは観覧注意で。あと掲示板も」
「よくわからないけど、わかりました」
俺だけ観覧注意と言われたことにそこはかとない不安を感じたが、ふとももの言うとおりにこの場では誰もその映像や掲示板を確認することは無かった。
報酬の確認が終わった後、エンカッセは掲示板へ書き込む内容の整理を始め、ふとももとプリネージャはワイバーンと戦ったことで消費した道具の補充に、ぎーんはもう少しでログアウトを予定していた時間になるため、先にログアウトしていき、リラはステータスを上げるためにスキルの熟練度を上げると言ってフィールドに出て行った。
俺は一回アユに連絡を取ろうとフレンド一覧を開いたところで、アユが既にログアウト済みなことに気付いて少し落ち込みながらも、リラと同じくスキルの熟練度を上げるために生産活動に勤しんだ。
暫く生産活動をしたあと、ログアウトする予定の時間よりも少し早くはあるが、ふとももの言っていた映像と掲示板が気になっていたのでさっさとログアウトした。
そして、ふとももの言っていたと思われる場面を見て、俺の怒りは天元突破した。
どうして俺はあの時、あのオレンジNAME共に攻撃しなかったのか。あの時の俺を殴りたい。
それにあいつらは既に死に戻りしているから、オレンジNAMEではなくなっているだろう。こちらにペナルティが無い状態で殺せないのは面倒だ。それにNAMEも碌に確認していないし、映像からもその辺りはわからないから、仮にもう1度あった際にオレンジもしくはレッドNAMEだったとしてもわからない可能性が高いな。クソが。
本当に何で俺はあの時、警戒するだけで攻撃しなかったのか。後悔しかないな。
そして翌日の朝。問題の映像であったことであゆを心配して声を掛け続けていたら、すごく嫌がられたことをここに記載しておく。
―――――
天元突破は本来、囲碁用語ですが、ここではインターネット上で使われている意味、限界を超える、という意味で使用しています。
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