第1章 新しいゲームはボッチスタート (本編はここからです)
第1章 プロローグ
※読み飛ばしても問題はないです。
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待ちに待った日が来た。
待望の日だ!
20xx年12月20日の朝。私は自分の部屋のベッドの上に正座の状態で目の前の機械をまじまじと眺める。
そのヘルメット型の機械にある3インチのディスプレイにはNOW INSTALLATIONと表示されて、その隣には33%と表示されていた。この表示が出てからそれなりの時間が経っているから、これが完了するまでまだ時間がかかりそうだ。
「おーい、あゆ。母さんが昼飯なんにするかって……、おまえ何してんだ」
「正座待機」
本当に楽しみで仕方ないときは全裸で待機するのが世の常。ただ、自分の部屋とはいえ、全裸で待機するのはさすがに無理だったので正座で待機していた。
というのは冗談として、この後ようやく待ちに待ったゲームをプレイすることができるからそわそわして気持ちが落ち着かなかったので、少しでも落ち着ける姿勢ということで、正座で待機していたのだ。
しかしこの兄は家族とはいえ、ノックもせずに女の子の部屋に入ってくるのはどうなんだ。もっとデリカシーとか状況とか考えて行動すべきなのではないか。だから見た目がそれなりに良いのに彼女ができないのではないだろうか。
「どういう? ああ、興奮して落ち着かないからとりあえず動きづらい姿勢になったと。あゆは基本無表情だから、ぱっと見びっくりする時があるんだよなぁ」
兄はそう言いながら私の行動に呆れたように息をついた。
私は昔から表情というか感情が殆ど表に出ない子らしい。なぜらしいのかと言うと、そもそも自分の表情とか常に鏡を持って生活しているわけではないのだからわかる訳ないし、私自身はしっかり感情を表現しているつもりだからだ。
しかし、やはり表情に出ていないのか、小さい頃から『何考えているか分からないから怖い』などと言われ、ほとんど友達ができたためしがない。まあ、別に欲しいとも思わないので構わないのだけどね。
「お昼は何でもいいって、お母さんに言っておいて」
「了解。とりあえず、すぐにリビングに出てこいよ」
なぜすぐにリビングに行く必要がと首を傾げると、兄はまた呆れたように息をついた。
「デバイスのディスプレイを見ていてもインストールが早く終わることはないし、サービスの開始は15時からだ。まだ4時間近くある。それにいつまでも出てこないと母さんが見に来るだろうから、自分から何を食べたいのか言った方が楽だと思うぞ」
確かに、見ていたところで早くなることはない。お昼ご飯の時にリビングに行くからどのみちこのままは無理だ。それにお母さんが来るよりは自分から行った方がいいのは確かである。怒られるとかではなく、世話好きによる善意の行動であるから否はないのだ。ただ大半の場合、過剰に世話を焼こうとするため対応に困ることが多いのだ。だったら自分から直接言いに行った方が幾分ましである。
「了解」
「よろしい」
なんだか偉そうなことを言って兄はリビングへ戻っていった。
さて、私もリビングに行くかと立ち上がろうと力を入れたところで脚に衝撃が走った。
「にょぇっ!?」
脚のしびれによる想定外の衝撃に変な声が出た。
おおう、ベッドの上とはいえ一時間近く正座していればこうなるだろうよ私。興奮してテンション上がっていたとしても、もう少し冷静に行動しようよ私。
そんなこんなで私は部屋から出るまで10分近く掛かったのだった。
リビングに行くと、お母さんと兄がリビングのソファに座ってテレビでお昼のニュース番組を見ていた。
はて、兄がテレビを見ているのは理解できるが、お母さんも一緒にテレビを見ているのはどういうこと? さっき何が食べたいか聞きに来たということは何か作るつもりだったということのはず。すでに出来ているという事なのだろうか。
リビングに入ってすぐのところでそんなこと考えて首を傾げる。
「来たか。ん、ああ今日のお昼はあゆのリクエストがなかったからメックになったぞ」
私がリビングに入ってきたのに気づいた兄が、どうして首を傾げているかを察しそう言って、テレビに視線を戻した。なるほど、作る必要がなくなったからか、メックに関しては兄の意見だろう。週に一回はメックのハンバーガーを食べないと落ち着かなくなるとかだいぶ前に言っていたし。
「ん?」
テレビに視線をやるとちょうどCMに切り替わったタイミングだったらしくあるゲームのCMが流れ始めた。Unite Whole World ONLINE 本日12月20日15時からサービス開始!!という見出しから、映像が切り替わりそのゲームの世界が映される。広大な世界、多様な職業、リアルな世界観やNPCをピックアップした映像が流れ、最後に新たな世界、新たな冒険がここに! と締めくくられた1分ほどのCMが終わった。
Unite Whole World ONLINE。略称UWWOまたはユーフォはさっきヘルメット型の機械、フルダイブ対応VRシステムヘッドセットにインストールしていたゲームだ。
というかあのヘルメット、商品名を最初に見た時にフルダイブ対応と記載されていてフルダイブ機能がおまけみたいな印象を受けたのだけど、実際はフルダイブ機能がメインで普通のVRゲームもでき、音声チャットも可能という物らしい。開発者と発売元の会社はもう少し商品名を考えた方がよかったのではないか。
話が逸れた。
UWWOである。日テリから発表された新作フルダイブVRMMOがUWWOである。開発期間が異常に長かったとか、異常な程の資金をつぎ込んだとか、いろんな噂があるゲームだ。さらに、時間加速システムが搭載されている数少ないゲームとしても有名である。一月ほど前にベータテストが終了し、今日から本サービスが開始される。
兄はベータテストに参加できたようで、受験戦争中の私にいちいち自慢してきて何度殴ろうかと考えたことか。UWWOの存在を教えてくれたのは兄だけれど、それとこれは話が違う。あの恨みは忘れない、枕は投げたけれど。
そして私は受験戦争で勝利をつかんだ。推薦で志望校に合格したのである。何事もなければ4月から大学生活が確定している。さらに今日から高校も冬休み、3年だから課題もない自由であるし、3学期はほぼ自由登校であるからずっとUWWOができる。勝確である。
まあ、そんな感じで今日からゲーム三昧の生活が始まる。
「っと、そろそろメック行ってくるか」
座っていたからデリバリーで頼んだと思っていたのだけど、どうやら違ったらしい。もともとお昼は作る予定だったからその分時間が早かったからなのだろう。
「自転車で5分も掛からない所にあるんだからデリバリーは金と時間の無駄だろう。それで何食べる?」
なんだかんだ言って兄は私の表情から考えていることを読み取ってくれるので対応が楽で助かる。いつもと同じのと返すと兄は、了解と言ってリビングから出て行った。
そして、兄がメックから帰ってきてお昼ご飯となった。
私はいつも注文している玉ねぎ増量の普通のハンバーガーである。お母さんも同じ感じの物だったが、兄は肉が8枚も挟まっているギガントメックバーガーとか言うもの。はたして兄がこれから得るカロリーを消費できるのだろうか。
とりあえず味は、安定のメック、安定のジャンクといった感じだった。
さて、お昼の後にいろいろやっていたらそろそろ3時になりそうだ。インストールも完了し、準備は万全である。時間まで、とりあえずベッドをもう一度整える。
ヘルメット専用の枕の位置を調整。大きい、ベッドの幅ギリギリのサイズだ。専用の枕は必要ないと思って買っていなかったのだけど、アバター作成のための身体スキャニングをしたときに、30分も掛からずに終わったのに首が痛くなってしまったので急遽買ったのだ。兄もあった方が確実にいいと言っていたし、実際使ってみてその差にびっくりした。ただ、私のお小遣いからの出費だったので、だいぶ懐が痛かったけど。
そうしているうちに3時になった。私はヘルメットを装着しベッドに寝転がる。そして、電源を入れてゲームの世界にダイブした。
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