第6話 教室がザワザワしていた件
授業終了の鐘の音に授業をスッポッかしてしまった事に気がついた僕達は慌てて教室に戻る。
恋愛経験の無い僕は偽装とは言え滝川さんの彼氏になる事で何かが起きるかもしれないとオッケーの返事をしたのだが、少し後悔している。
冷静になった今、よく考えると滝川さんに返事をした時の僕はどうかしてたと思う。
初めて感じたあの高揚感は本当に何だったんだろう──
教室に着くと、僕達を見たクラスメイト達がザワザワとしている中、互いに自分の席に戻って行った。
◇◇◇
屋上から帰ってきた私の姿を見た親友の
「
前の席からアゴを私の机の上に組んだ腕にのせ、顔をコテンっとさせながら上目遣いで聞くという何とも男心をくすぐる技を意識せずともできる美織もモテる。
ショートボブで何をするにもカワイイ仕草をする美織に沢山の男子が勘違いしている。そんな美織はたちが悪いと思う。
「ちょっとね」
私は彼氏が出来た事は隠すつもりはないが、その彼氏が実は偽装彼氏でめんどくさい告白を避ける為の物だとバレては意味がないと思っている。
親友の美織が誰かに話すとは思ってはいないけど、ちょっとした事で他の人の耳に入らないとは言えない。
なので、僅かな危険を避け誰にも言わずに計画を実行した。
(どうしょう…)
悩む間に休み時間終了の鐘が鳴り、安堵する私の顔をジト目で見る美織
「杏、帰る時にでも聞かせてね~」
そう言うと美織は自分の席に戻って行く。
(美織、今は余り追求しないでほしいんだけど……)
私はそっとタメ息を吐いた。
◇◇◇
最後の授業終了の鐘が鳴り、先生が教室から出ていくと美織が私の元へとやってきた。
「杏~、一緒に帰ろ~」
笑顔の美織に私は放課後までどうやって説明しようか考えたけどいい案が浮かばずに『用事があるからごめんね』と言って一緒に帰る事を断ってしまったけど大丈夫だろうか?
そんな事で美織が納得するとは思ってないけど……
「ふぅ~ん」
ジト目で私を見る美織はなぜかバイバイと言って帰って行った。
美織が私にジト目を向けただけで素直に引いてくれた事に驚いたけど、私は教室から出ていく美織の後ろ姿を確認して、荷物をまとめて帰ろうとしている
「あのさ、一緒に帰らない?」
「えっ!?」
「えっ!?ってなによ!」
「あっ、わかりました」
私は屋上で言い合いをした時とは全く違うコイツに変なヤツと思ったけど、オッケーしてくれたので二人で教室から出ていった。
またしても二人で一緒に出て行った私達を見たクラスメイトが教室でザワザワがしていたのは気にしない事にする。
◇◇◇
滝川さんに一緒に帰ろうと言われビックリしたけど、偽装の彼氏とは言え付き合っている事を思い出した僕は滝川さんと一緒に帰る事にした。
(何か話したらいいのかわからない、どうしたらいいのか全くわからない)
テンパる僕の目は視点が定まっていない。
キョロキョロとする挙動不審な僕に滝川さんが話しかける。
「あのさ、偽装彼氏だけど付き合ったんだから名前で呼び合わない?」
滝川さんがそう言った瞬間に僕の頭の中は、
名前で呼び合わない?
名前で呼び合わない?
名前で呼び……、
とリピートされ思考停止となってしまい、無言のまま少し経ったところで僕の精一杯の一言は「へっ?」だった。
◇◇◇
私が名前で呼び合わないって言うと『へっ?』だって、『へっ?』ってな返ってきた。
コイツは私と話す気があるのか?と思ってしまう。
タメ息しか出てこないけど私はもう一度声をかける事にする。
「あのさ、名前で呼び合わない?って言ったんだけど?」
「はい…」
「へっ?ってなに?」
「はい…」
「はい、じゃわかんない!」
「はい…」
「だ・か・ら、はいじゃわかんないって!」
「はい…」
下を向いたまま『はい』しか言わないコイツに私は段々とイライラとしてくる
「あんたさ、『はい』しか言えないの?」
「いいえ…」
「『いいえ』、も言えるじゃない」
「はい…」
「また、『はい』に戻ってるし…」
「すいません…」
「すいません、になった!」
「はい…」
「はぁ~」
なんでコイツと漫才みたいなやり取りしないといけないのだろう?
私は呆れてしまいタメ息が出てしまった。
もはや会話にならないと思った私は強引に話を進める事にする。
「名前だけど、染谷賢一だから私は
「はい…」
「ねぇ?聞いてる?」
「はい…」
「『はい』て事は
「け、賢!?」
◇◇◇
突然『賢』と呼ばれ、違う世界に意識が飛んでしまっていた僕は驚きでこっちの世界に帰ってきた。
「なに驚いてるの?
滝川さんは驚きで固まっている僕にお構いなしにそんな事を言ってくる。
「け、賢ってぼ、僕の事?」
余り頭が回らない僕はどうにか滝川さんに質問したけど大丈夫だろうか
「屋上の時と全然違くない?」
「それには事情がありまして…」
「事情って…、まぁいいよ私の事は
「あ、あ、杏って呼べ、ないよ…」
口ごもってボソボソと言う僕にニヤニヤする滝川さんは言った。
「聞こえないよ?」
◇◇◇
屋上の時とは違い、主導権を握っている感じがしている私は楽しくて仕方がなかった。
コイツの事を攻めて楽しくなっている私はSなのかなと思ってしまうけどそれでもいいかな。
だって楽しいんだもん!
「あ、あ、杏」
「聞こえな~い」
「あ、あ、杏」
「はっきり言わないと終わんないよ?」
「!?」
「驚いてないで言いなさい、あ・んってね」
コイツを攻め立てる私は本当に楽しんでいたのだけど、観念したのかコイツは突然叫んだ。
「杏!」
その瞬間にゾクゾクとしてなんとも言えない高揚感が私の中に溢れだし悪戯心が顔を出した。
「好きは?」
◇◇◇
「好きは?」と言われた僕は、杏と全力で言った事であの時の高揚感が湧き出ているので恥はない。
「好きだぁぁぁぁ!」
僕の全力の叫びに滝川さんは満足しなかったのかまたも僕に要求してくる。
「違~う、杏、大好きでしょ?」
そんな事を要求する滝川さんはおかしいのではないか?
でも、今の僕は何だってできる気がする。
「杏、大好きだぁぁぁ!」
僕は気合いを入れて全力で叫んだ。
そして、滝川さんを愛情たっぷりで抱き締めた。
◇◇◇
「えっ?」
突然抱き締められた私は我に返る、そして焦る。
「ちょ、ちょっと待っ、」
引き離そうとしたけどガッチリと抱き締められたコイツを引き離す事ができない。
「杏、僕はお前が好きなんだ!いや、愛してる!」
「ちょっ、ちょっと離し、いっ、」
「嫌だ!僕の愛を受けとってくれるまで離さない!」
「い、いやぁぁぁぁぁ!」
私は全力で叫んだけどコイツに抱き締められながら愛の言葉を言われ続けられ『あれ?私、賢の事が好きかも』と一瞬思ってしまった。
でも我に返り、素になった
「イヤァァァァァァ!」
と叫びながら逃げて行く後ろ姿を見た時に勘違いだったと気がついた。
そんな私達のやり取りを見つめる視線に私は気がついてはいなかった。
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